二次創作小説(新・総合)
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- 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編)
- 日時: 2019/10/12 17:08
- 名前: 燈火 ◆UJcOcbdIPw (ID: xJUVU4Zw)
どうもよろしくお願いします。既に完結した漫画や1作品で完結しているゲームなど視覚的効果を中心とした作品を対象に淡々と展開を追って文章を付け加えていくスタイルで小説を執筆していこうと思い立ち、このスレを立ち上げた次第です。
パクリと思うかもしれませんがよろしくお願いします。
基本的には、1つの作品を練習曲という単位にして、その作品の区切りのいいと思った部分までを完結として、物語を書いていきたいと思います。
~目録~
練習曲No1 ドラゴンクエスト5 天空の花嫁
序幕「誕生」
>>1
第1章「少年期編」第1話「サンタローズにて」
>>4 >>6 >>7 >>8 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
第1章「少年期編」第2話「凋落城の亡霊」
>>17 >>18 >>19 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26
~他情報~
>>2 >>20
~お客様~
0名
~注意~
・公序良俗に悖る表現が対象とする作品によっては入るかもしれません。ご了承願います。できる限り軽めにはする所存です。
・ステマや荒しは徹底的な無視を願います。発見次第最優先で削除依頼します。
・誤字脱字、文章のミスなどのご指摘は大歓迎です。ドシドシお願いします。
――――トリップを忘れたので変更しました(苦笑
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.12 )
- 日時: 2019/01/13 19:01
- 名前: 燈火 ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)
アベルは武器屋『デッケン』にいた。サンチョには挨拶周りに行ってくるというていにしてある。夕方までには帰るとも。道すがら歩いていると、昼前だというのにやけに寒いと感じた。春も中盤に差し掛かっているのに。寒さに体を震わせながら、武器の品定めをする。何度も武器屋は覗いてきたため最低限の知識はあるつもりだった。
「おいおいパパスの息子。その辺はガキにゃはえぇよ。金銭的にもな」
しかしすぐにベンに指導してもらうことになった。結局は銅の剣と皮の鎧、木の帽子を購入。得物は思いの外軽い。家を出る前に、サンチョから貰った護石——サンタローズストーンという、この地特有の石らしい。7色に乱反射する魔力を感じさせる石――のほうが重いくらいだ。剣は腰に携帯するのは体格上無理だったので、皮ベルトで背中に固定して貰った。数秒後ベンは店員と思しき、冷静そうな美女に小手投げにされ倒れこむ。
「貴方、幾らパパス殿の身内だからって子供に、剣なんて持たせないの!」
「見てなかったのか? この小僧自身が望んでることだろうが?」
ベンは頭を抱えながら立ち上がり、憮然とした様子でつぶやく。彼はアベルの瞳にくすぶる渇望を見抜いたのだ。昨日初めて会った時から、嘗め回すように武器を見ていた。おそらく子供ながらに、父親に守られてばかりなのが嫌だったのだろう。さらに「あのパパスさんの」と言われるのも苦痛に感じる年ごろのはずだ。
「……子供が望んだ通りにするだけの親を無能って言うのよベン。戦時下でもないのに。ほら、アベル君。その剣を返しなさい」
ベンを睥睨しながら、女性はアベルに近づく。左右前方、アベルがどちらに逃げても捉えられるような隙のない動きだ。彼女自身頭の中では分っている。少年の取り巻く状況は、サンタローズとは違う。そしてパパスとマーサという優秀な両親を持っていることから、才能には溢れているだろうことも。
「嫌だよ。僕が自分で選んで買ったんだから」
アベルは涙を浮かべながら反論した。女性は呻吟を漏らす。護衛だなんだと理由付けをしても、武器とはなにかを傷つけ奪うためのものだ。幼い精神がそれに耐えられるのか。自惚れが取り返しのつかない事態を招き、崩壊を招く。
「ほれ見ろ」
「黙りなさい。過ぎた力に目が眩くらで自殺特攻する馬鹿を量産するのが、武器屋の本懐なの?」
ふんぞり返るベンを睨みつける。周りの温度が数度下がった気がする。全身に氷の刃を押し付けられたような感覚。睨みつけられたベンも一歩後ろへと後退った。
「剣は買ったけど、僕これを今から使うつもりはないよ。サンチョに預かってもらうんだ」
「そういう問題じゃないわよ。良いアベル君。武器を持つってことは……」
それでもなおアベルは食い下がる。彼に現実を教えようと女性はおごそかな語調を作る。
「お姉さんに言われなくても僕分ってるよ。父さんと旅して武器が怖いことなんて知ってるもん! 父さんの剣はモンスターの命を奪って、魔物の牙や爪は人の命を奪う」
「どうしても、欲しいの?」
アベルの頬を涙が伝う。力を手に入れ、正義感に駆られ魔物に挑み殺された幼馴染を思い出す。銅の剣と皮の鎧を身に着けて外に出て行った少年は、翌日死体で発見された。スライムによって捕食されたのか。胴体から上が溶け消えていた。間違いなく少年が買ったと思われる銅の剣がすぐ近くには落ちていた。
現場には自分も立ち会っている。不条理で好きな人を失う恐怖をこれ以上味わいたくないから、ラインハットに渡り幾つもの武術を学んだ。月に1回行われる城下町の武術大会で5回連続優勝などという偉業もなした。それでも行商人だった家族を失い、力だけでは何も守れないと悟る。
「……なにがなんでも欲しいよ」
女性はたじろぐ。今までも多く武器を求め自殺行為をして逝く者たちを見てきた。武器を持つということは入り口にしか過ぎないのに。身の丈に合わない武器を買い、強すぎる魔物に挑み殺される者。復讐を誓いそこから抜け出せなくなる者。戦争に参加し帰らぬ人になる者たちも沢山いた。
武器は理性を奪う。人間の最大特徴たる智を失い、欲望に溺れて死ぬ。それもあるていど長く生きた者なら自己責任だ。そこまで生きてその道を歩むと決めたのなら止める気はない。しかし目の前にいるのは、年端もいかない少年だ。
「なぁ、セルカ。お前が今何を思っているのかは分かってる。でもな、俺たちは武器屋だ。ガキに武器を売っちゃいけないってルールはねぇし、客が買ったものを取り上げる権限も俺らにゃねぇ……そいつはその年で覚悟もできてる。もう駄々このねるのはやめて、アベルの道を防ぐのは止めろ」
ベンの発言は武器屋として正論だった。性別や年齢の区別をつけないのが武器屋だ。それが平等。どこで死に誰を殺すかも自由。セルカは唇を噛みしめた。
「貴方はこの子が死んでも……」
「構わないわけねぇよ? でもな、男が一度決めた道を遮るのは筋違いだ。お前は武器を取ったらそいつは絶対死ぬと思ってるんだろうがよ。それこそ侮辱だぜ」
それきりセルカは黙り込む。彼らの様子を見ながらアベルは歩き出す。
「困ったことになったぜ。親方が薬の材料を取りに行ったまま戻らないんだ。材料はこの村の洞窟に群生しているパルキア草ってのなんだが……」
教会の後ろにある穴倉式の住居で、アベルはそんな話を小耳に挟む。そういえば、ここ最近は、季節の割には随分寒い日が続くなどという話も聞いた。アベルは洞窟はどこにあるのかを、村人に聞きそこへと向かう。初めて買った武器を試したい。今の彼は剣の魔力に囚われていた。
地域に住まう魔物の強さは大体似通っている。村の外にいる魔物は低級といって差し支えない程度だ。スライムていどならその辺にある木の枝でも倒せた。まともな武器があれば、後れを取ると思える存在も確認していない。魔物に囲まれないように慎重に進めば大丈夫だろう。
力を付けるには魔物を倒すことだ。倒した魔物の魔素を光素に返還させることにより、レベルアップが可能なのだ。レベルアップに必要な魔素の量は、個々人の資質によって決まっている。教会の教区長に聞けば教えてもらえるとパパスから聞いた。人助けをしてレベルも上がれば認めてもらえるかもしれない。
アベルにセルカの憂慮は届いていなかった――
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.13 )
- 日時: 2019/01/23 18:43
- 名前: 燈火 ◆UbVDdENJSM (ID: aMCX1RlF)
近くを兵士が巡回していたが、警備は手薄といわざるを得なくてたやすくかいくぐれた。洞窟内はそれなりに整備されており、等間隔でトーチが設置されている。サンチョ曰くサンタローズストーンを中心とした鉱石産業が盛んらしい。それを考えれば、従事者にとっての危険はある程度排除されているとみるのが妥当だろう。
もっとも炭鉱としては廃されて久しいらしい。モンスターの繁殖も進み、内部はそれなりに危険だと道すがら聞いた。できる限り音を建てず、死角を少なくするように壁伝いに進む。十字路や丁字路が有ったら、途中で止まり曲がり角の部分を確認する。
そうやって少しずつ進行していくと、モンスターに遭遇した。少し緑色が混じっているが恐らくはスライムだろう。食事中に変色するとサンチョから聞いている。しばらくの間、相手の動きを確認。スライムは温厚で仲間思い。多くのモンスターと共生できる存在だ。他のモンスターがいる可能性は高い。
「スライム1匹だけかな? 試すにはちょうど良い?」
しばらく注視し続けたが、どうやら連れはいないらしい。アベルはそう判断し、スライムが後ろを向いた瞬間を狙い駆け出す。音もなく近づく。しかし後ろから妙な振動音が響いた。壁を背にしながらアベルはそちらへと顔を向ける。そこにはセミの幼虫に似た魔物がいた。
「なんだこいつ?」
近い。アベルの足で5歩分ていどだ。相手の速度は分からないが、相当な下級魔物でも一息に詰められる距離。スライムからはまだそれなりに遠い。先にこちらを処理する。彼はそう心に言い聞かせ、盾を左に、剣を右に構えた。しかし甘かったのだ。
アベルの想像より早く相手は距離を詰めシャベルのような爪を振り回す。盾で防ぐ。想像以上の力が宿った攻撃で、衝撃が肩を伝い体中を震わせた。痛みに喘ぎ、攻撃へと繋げられない。セミのようなモンスターは更に第二撃を放つ。彼のみぞおちにそれは命中した。
「うぐっ! がっ……あぁ、ぐっ。痛いっ!」
弾かれたように吹き飛ぶ。肋骨が軋む。肺が締め付けられて呼吸が苦しい。喉を傷つけたようだ。血の味が口内に広がる。
『これがモンスターの一撃。こんな、こんなの……怖い。怖くない! こんな奴ら怖くない!』
冷たい地面でもんどりうつ。恐怖が脳裏を過よぎる。それは死への絶望感だ。熱いのか冷たいのか分からない。目すら霞む。あと2回も貰えば恐らく動けなくなるだろう。逃げるべきか。本能が警鐘を鳴らす。だが少年は退く選択をしない。
死んだら何もかもお終いだと思いながら、目の前の相手に殺されるようならそれまでだとも思う。アベルは銅の剣を杖に立ち上がり、目を見開く。そして柄を本気で握る。爪が食い込むほどに。他に周りに敵がいないか一瞥する。どうやら最初に居たスライム及び他モンスターは見当たらない。
「うおおぉぉぉぉ! くらえぇ!」
アベルはまず盾をブーメランの要領で投擲。敵方がそれを盾にもなる爪でガードする。相手の視界はゼロだ。柔らかそうな腹部に彼は刃を深々とさす。呻吟するモンスターの腹を掻っ捌いた。臓物と大量の血が放たれ、敵は1つ痙攣すると動かなくなった。
初めて感じる体を裂く感覚。生暖かい血の触感。酸鼻を極める生臭さ。遠目から見ていたから分からなかった悍おぞましさを感じ咽返る。そして膝をつく。だが敵は待ってくれないようだ。アベルの声に気づいたのだろう。今倒したのと同じ種類の魔物が2体。さらにはスライムまでいる。
「これが洞窟……魔物の住処」
唇をかみしめ立ち上がる。膝が笑いかけた。汗が滲む。だが戦わなければ確実に死ぬだろう。死体と化しすでに砕け始めている先程仕留めた敵を蹴り上げる。まずは眼前に居るセミの幼虫の動きを封じた。そして一番弱いだろうスライムへと一気呵成に攻めより両断。
セミ型の敵は同族の遺骸を振りほどこうと、あまり器用には動かせないだろう手を動かす。背中を突き刺し下方向へと引き裂く。あとは1体。しかし残りの1体が見えない。猛烈な悪寒が走る。敵の位置や距離を把握できない状況は危険だ。容易く相手にスキを突かれてしまう。
上下左右を見回す。しかし姿が見えない。後ろから地面が砕ける音がした。アベルは瞬時に背後を取られたことを悟る。振り向きざまに高速の打撃が飛ぶ。咄嗟に盾でガードするが、至近距離から受けたためか前回以上に大きな衝撃が伝わる。吹き飛び石壁に激突したアベルは唾液をまき散らした。
「はがっ、あぐっ……息が」
背中からくる衝撃が背骨を押し上げ、肋骨と肺が密着する。無呼吸状態に涙が浮かぶ。全身が熱い。焔の中にいるかのような感覚だ。耐え切れず涙を流す。洞窟内は少し肌寒いくらいなのに、玉のような汗が滲む。
1人の子供が魔物蔓延る地獄に挑むなど自殺行為だと心がささやく。そしてそんなことをしたのだから、今ここで死ぬのは運命だという。安易な方に流されて楽になりたい。そんな諦念が胸中を走る。
「お父さん、サンチョ……嫌だ。嫌だ……じにだぐないぃ!」
表面の感情が死にたいと警鐘を鳴らす一方、心の奥底は生にしがみつこうとしていた。今まで会った人たちに2度と会えなくなると思うと、今の痛みをはるか超える絶望感が込み上げてきたのだ。敵はすぐ近くまで迫ってきている。苦しんでいる暇はない。
セミ型のモンスターは弱点の腹部を前足で防ぎながら、突進を敢行する。まっすぐな軌道だ。おそらく相手が回避するなどと考えていないのだろう。普通に突進を食らい倒れこむか、迎撃が来るものだと思っているのだ。アベルは壁を背にしている。相手の攻撃を回避すれば、壁に激突するはずだ。
「今だ!」
何とかかわす。敵は予想通り壁に激突。しばしの間硬直する。アベルはそのすきを逃さす横一文字に切り裂いた。血飛沫が舞い頬に雫が伝う。唐突に体中の血潮が沸騰した。今までにない力が体を駆け巡る。唐突に盾や剣が軽くなった。
「これがレベルアップ?」
レベルアップ。それはすべての生物に存在する神の加護。魔族は人間を含む光の眷属の力を一定量吸収することによって。人間たちは魔族の悪意を浴びることにより起こる現象。つまりは力の段階を飛ばした上昇だ。才能や系譜によって能力の上がり方は違うらしい。
夫々は教会で知ることができるとサンチョからは聞いた。体の痛みも幾分か減った。神の加護により体力値が増したのだろう。アベルは結論付け進みだす。その先も幾度か戦った。黒い体に羽をはやした吸血型の魔物や、体中に棘をはやした緑色の魔物。それらには余り苦戦しなくなった。
道中にある宝箱や魔物の持ち物から得たやくそうや、2度目のレベルアップによって得たホイミの呪文――低級回復呪文。魔法の習得時、澄んだ女性の声が脳内に響く――により少年は進撃していく。そして下層へと進む階段を見つける。1回には親方と思わしき人物はいなかった。
「行こう。聞いた情報じゃこの洞窟は地下2階まで」
そう少年は心に言い聞かせて階段を下る。基本的に魔物の力は地底へ行くほど濃くなる。それはつまり少し下に行けば、魔物のランクは上がるということだ。今までより厳しい戦いになるだろう。アベルは心に言い聞かせて進む。下りきった先には一本角の兎と巨大な木槌をもった黄土色の怪物がいた。後者は見覚えがある。波止場からサンタローズに着くまでの道すがらに会ったおおきづちという魔物だ。前者は知らない。
確かおおきづちは一撃の威力は高いが、攻撃を外しやすい。木槌による攻撃の範囲が狭いことと、視力が低いことが要因だろう。先に情報のある存在から倒して、初めての相手を腰を据えて挑む。アベルはそう判断する。しかしおおきづちが壁を木槌で強くはたくと、数体の蝙蝠のモンスターと、スライムたちが現れた。
「多いな」
そんなことを思っていると、すでに一本角の兎が迫っていた。今までの敵とは比べ物にならない速さだ。アベルは何とか相手の突進によって放たれる角の一撃を防ぐ。衝撃は大したことはない。レベルアップの恩恵で得られた体の影響もあるだろう。しかし兎は盾を足場にして跳躍。さらに後ろの壁を三角飛びにして2撃目を放つ。右方向に体を捻転させ、銅の剣で角を弾く。兎の魔物は弾かれた方向に吹き飛ぶ。
しかし背中に鈍痛が走る。今まで受けた中で最大の衝撃だ。アベルは喀血する。剣を杖になんとか膝をつくことを防ぐが、次が続かない。眼前に現れた蝙蝠の尻尾による攻撃を受け吹き飛び、さらにおおきづちの一撃を横腹に受けた。脳が揺さぶられるような衝撃とともに吹き飛ぶ。モンスターの数、質ともに段違いだ。膝が笑う。更にスライムの突進を腹部にくらい壁に叩きつけられる。
兎の魔物がにじり寄ってきた。血走った眼だ。周りの魔物たちを一瞥。止めは自分が刺すという恣意を伝えているようだ。恐らくあの鋭い角で体を貫かれたら死ぬだろう。だが体が動かない。兎の恣意を無視するようにスライムが突貫する。衝撃の逃げ場がないサンドバック状態に意識が朦朧とする。銅の剣が滑り落ちた。コインが落ちた時のような澄んだ音が、空しく洞窟に響く。
『死ぬ……?』
目を閉じる。自分に止めを刺す存在の形相を見るのが怖かったから。
――――――――――――――――
確実に描写のレベルが落ちている気がする。
戦闘描写もここまで下手になってるとは……というか、エチュードこのペースだと、滅茶苦茶時間かかりそう。900レスくらいかかりそう。展開のスピード上げたいですね……
- 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.14 )
- 日時: 2019/01/28 22:27
- 名前: 燈火 ◆UbVDdENJSM (ID: aMCX1RlF)
一向に痛みが来ない。意識が残っている。死んでいない。可笑しいと思い目を開けようとするが、怖くて目を開けられない。
「アベル、無事か」
居るはずのない人物の声が響く。誰よりも聞いてきた声。しかし今は誰よりも聞きたくない声だったと思おう。彼に頼りパなしで、彼のオプションのような存在であるのが嫌だから、力を求めた。彼パパスに助けられては本末転倒だ。激痛で霞む目を凝らす。そうであって欲しくなかった。
「……父、さん? なん……で?」
目の前には魔物の死体があった。止めの一撃を放とうとした兎は2つに裂かれ臓物を晒している。他のモンスターたちも皆、一撃のもとに仕留められているようだ。血と肉の中心に良く知る人物。浅黒くやけた肌に逞しい筋肉。ライオンの鬣のような黒髪に立派な髭をたずさえた堀の深い顔立ち。間違いなかった。
アベルは呻く。一方で強い安堵感が去来する。同年代と比べて自分の人生は過酷で多くのことを経験してきたと思う。しかしそれは今まで体験したことのない複雑な感情だった。生き延びたからこそ感じた二律背反の感情を彼は噛みしめ気を失った。
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.15 )
- 日時: 2019/02/14 16:54
- 名前: 燈火 ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)
スライムを斬る。真っ二つになったスライムの死体を蹴り飛ばしながら、一角ウサギが突進。頭部にある鋭利な角でアベルの首を貫く。まだ子供の細い首は、角にえぐられれば胴体と首を繋いでいられない。重い頭は一瞬、鎌首をもたげるが、すぐに薄皮が悲鳴を上げ千切れた。
「夢?」
どうやら夢だったらしくアベルは目を覚ます。丸太づくりの天井に安堵し深く息を吸う。あの状況。かわしようがなかった。なぜ生きているのかは分かっている。運よく父パパスの応援が間に合ったのだ。1人だったら間違いなく死んでいた自分は、頼りたくなかった男の手で生かされている。
「目が醒めたかアベル」
「…………父さん」
消え入りそうな声でパパスの声にアベルは答えた。燦々と太陽の光が窓から注ぎ込む。今は日中のようだ。それにしてもどれくらい眠っていたのだろうか。相当長かった気がする。父はもとよりサンチョや、武器屋の人たちにも迷惑を掛けただろう。説教されるのは間違いないだろう。下手をしたら見捨てられるかもしれない。子供ながらに思った。
「怯えるなアベルよ。別に俺は怒っていない。何れお前が自意識を持ち、守られてばかりの状況に歯がゆさを覚えるだろうことは分かっていた。俺の方が見誤ったんだ。セルカさんを説得してお前に武器を調達してやるのは、俺の仕事だったのにな」
意外な言葉にアベルは瞠目する。これはいったい何の間違いだ。逡巡していると、パパスは咳払いして続きを話し出す。
「正直、魔の物たちに俺たちの行動は鬱陶しく映っているだろう。行動を開始して数年、奴らもいい加減に我々の抹消に乗りかかるだろう時期だ。お前はまだ10に届かない子供だが、護られてばかりではいられない立場になりつつある。不肖の父を許してくれ。今回の件と前のことで思い知ったろう。半端な力で通用しない世界があることを。これからみっちり鍛えてやる!」
父は何もかもを見ていたのだ。偉大過ぎる父に護られるばかりの情けなさを感じていることも。何れ自分1人の手では、切り抜けられない局面が来るだろうことも。自分より遥かに深く遠くまで見通していた。自分は焦燥から早合点し、空回り。そして死にかけた。3日足らずの期間で2度も死にかける自分の無力。
短時間の自己流で魔物たちと渡り合うなど不可能だということを思い知る。そして何より魔物を征伐するにあたって現在地上で最も長けているだろう人物の1人に師事を受けることができること。それが父であることも含めて誉高く喜ばしい。パパスは厳しくも優しい笑みを浮かべていた。
「さて、アベル。ビアンカちゃんを覚えているか?」
アベルは頷く。多少記憶は混濁しているが、あの活発で大きな声の少女をそう簡単に忘れるはずもない。そもそもがそのビアンカの父のために必要な薬の調達が遅れていることを知ったからこそ、洞窟にいったのだ。薬の原料は入手できたのだろうか。原料を採取しにいった人物の安否は。ぼやけた頭で考える。自分は人探しはできなかったし、原料も見つけられなかった。
「俺がお前を助けた後、落石で動けなくなっていた薬師の主人を救出して、彼とともに原料を採取した。アルカパで寝込んでいるダンカンのところにビアンカちゃんたちを送迎する手筈だ。無論お前もつれていく。アルカパでしばらく滞在するから、到着した次の日から修業を開始するぞ。いいな」
「うん! 分かったよ!」
どうやら全てパパスの手によって解決していたようだ。人命が助かった安堵感と、空虚な情けながないまぜになって、胃のあたりが切ない。どうやら今度はアルカパという町に行くらしい。そこにしばらく滞在するようだ。ダンカンとは友人でもあるとのことなので、経過を見届けたいのだろう。父は顔が広いからアルカパの人たちに挨拶周りをする気もあるのかもしれない。
「あっ! アベル! 起きたのね! サンチョさんが凄い心配してたのよ!」
溌溂とした声が響く。ビアンカの声だ。声音は元気だが泣き腫らしたあとが丸わかりだ。勇み足で役立とうなどとした結果が迷惑を掛けるばかり。誰かのためになるには力が必要なのだと感じる。サンチョが心配していたのは想像に難くない。パパスの言いつけもあって相当に焦っていたことだろう。すぐに謝らなければ。
「ごめんビアンカ。迷惑ばかりかけて」
「本当よバカ! あんたが洞窟の方に行ったって聞いて、あたし……あそこには魔物も出るって言うし、うえぇぇぇぇん!」
泣かせた。配慮が足りなかったから。自分の命に関する管理が甘すぎたのだ。これからは強くなる。もっと賢くなって状況の判断もできるようにならないといけない。そして護るべきものを護る力を手に入れよう。泣いてしまったビアンカをどう宥めれば良いのか分からなくてアベルは天井を仰ぐ。するとパパスが助け舟を出す。
「彼女のことは私があやしておくさ。お前はサンチョに謝ってこい」
キッチンにサンチョはいた。心なしか多いな体が震えているように見えた。
「サンチョ……サンチョ!」
サンチョの体が僅かに跳ねる。
「坊ちゃまですか? 坊ちゃまお起きになられたのですね! このサンチョめ! 坊ちゃまの横におられず……」
「勝手なことをしてごめんなさい! 僕弱いくせに調子に乗って迷惑を掛けて……」
サンチョの涙交じりの声に合わせてアベルは頭を下げた。振り返った彼の表情を見たくなかったから。
「坊ちゃま……誰でも最初は弱いものです。そう卑屈になられないで良いのですよ。これから強くなれば良いのです。このサンチョめも微力ながら助力申しますゆえ」
そうすると相手からも自分の表情が見えないことにはたと気づく。アベルは頭を下げたまま泣き出す。怖かった、痛かった。死の恐怖が体中を伝播し薄氷で全身を覆われているような感覚に襲われた瞬間を思い出す。今でも明確に覚えていて手が震え、嗚咽が漏れる。無謀な突貫の結果がこれだ。呪うようにアベルは言い聞かす。
『これが僕の罪だ。弱いやつがほかの人を助けるなんてできるはずがない。自分さえ護れない奴が剣なんて握る資格はない』
—―—―—―—―—―—―—―—―
二階。
苦戦の末、ビアンカを寝かしつかせたパパスは久々に煙草をふかす。息子やサンチョの前では吸えないので、本当に久しぶりだ。本当は子供がいる今の状況も芳しくはないのだが、久々に疲れた。早朝にいつもの場所に行き、昼頃に戻ってくると息子がいない。サンチョに聞けば挨拶に行ったと言うので、方々を探し回ると、武器屋『デッケン』で一悶着あったことを知る。
「なぁ、パパスよ。いつまでも息子さんを護りながら旅を続けられると思うか? 魔王軍にはイブールやらゲマなんていう凄まじい使い手どもがいるらしいぜ」
なんで武器を売ったと喧嘩友達のベンの胸倉を掴んだ時に言われた言葉。棘となって胸を突き刺す鋭い痛みを纏っていた。自分よりも遥かに冷静に現状を彼は見ていた。そして友の今後を憂いてくれていたのだ。そう、このままでは何れじり貧になる。護りながら戦うというのは、本来の力の半分も発揮できない。そして魔王軍に名を連ねるイブールとゲマについては自分も知るところだ。それらほどの強敵を前にしては、アベルを護って戦うなどということはまず不可能だろう。そして今後自らが起こすだろう行動を考えれば、奴らが動き出すのも間違いないはずだ。ここ数年の調査で分かっている。自分の想像以上に魔王軍にとって妻マーサは重要な存在となっていることを。
「許せアベル。できれば戦いの世界になどお前を引きずり込みたくはなかったのだが」
こうなることを予見したことがなかったわけではない。だが、実際息子を火中に置くことになるとやはり苦しいものだ。溜息が漏れる。
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.16 )
- 日時: 2019/02/14 17:42
- 名前: 燈火 ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)
ビアンカが目を覚まし、食事をとってから一行は旅路へとついた。パパス以外はサンチョが飼っている馬にひかせた馬車に乗っている。もちろん運転手はサンチョだ。ある程度舗装された道を悠然と歩ませていく。村で最も体躯が良く、美しい毛並みの馬だ。道行く人たちが立ち止まる。
垂涎の眼差しで見詰める者やただ手を止める者。パパスやサンチョを知らない高貴そうな余所者が「買いたい」などと声をかけてくるような場面もあった。当然ながら素気無く断ったが、恨めしそうな顔をしていたので何かしら嫌がらせなどしてくるかもしれないとサンチョはボヤいていた。
「リガルド、しばらく村を開ける」
しばらく進むと村の入り口が見えてきた。例のごとく目の良さを活かすために高台にいて、攻撃力と防御力で勝るリガルドが門前をカバーしている形のようだ。厳かな口調でパパスが言うと、リガルドはヨシュアと目配せをした後、木が撓むような耳に障る音を響かせながら扉が開く。
「ご両名をアルカパまで送るのですな。村の者たちには1週間程度の滞在だと言っておきます」
馬車の奥にいる女性2人を目視しリガルドは察す。その口調にはパパスがいない間の不祥事は許さないというプライドが乗っていた。
「廃鉱山の警備。あの通路をガンドー1人でカバーするのは厳しかろうな。かといってベンたちを非常勤として使うわけにもいくまい」
そんなリガルドにパパスは耳打ち。彼の表情が凍る。
「面目次第もございません。何分このようなことは始めてで動揺しております……かくなる上はヨシュアを」
当然、アベルのことは兵士であるリガルドも知るところであり、身内の失敗に内心傷ついているところだ。彼は元の鞘に収まるだけだと思ったのだろう。外からの魔物迎撃を1人で務めると口にする。しかしパパスはそれを咎めるように首を振る。
「それはいかん。村の中からの魔物の侵略は確かに危険だが、村の外もまた魔物のテリトリーだ。もう1人育成する必要があるだろう」
「うむ、パパス殿かたじけない」
自分の息子が命を失うところだったというのに、罪を裁こうとするでもなく改善案をすぐさま提示する目の前の男。リガルドは器の違いに心胆より敬意を表す。サンタローズの周辺は昔より遥かに魔物の量が増えている。昔より力も衰えてしまった。正直、元と同じことをするのは厳しいと思っていたのだ。唇をかみしめるリガルド。
「気にするな。俺はこの村が好きだ。できうる限りの支援はすると心に決めている。最もアベルの修行と並行となるだろうから、時間がかかるだろうが、な」
罪の意識に苛まれているのだろう真面目な男を横目に、パパスは進む。護るべきもののためなら、できうる限りの人事を尽くすのがパパスという男だ。ゆえにこそサンタローズの村人たちにも、すぐさま受け入れられたのだろう。無論、村人たちの新しいものに対する貪欲さや懐の深さもあったろうが。
「道中お気をつけて」
パパスと馬車の後姿を見詰めながら、リガルドは口にした。パパスとサンチョの実力は知っている。サンタローズからアルカパに向かう程度、万に一つもないだろうとは思うが、声をかけずにはいられなかった。