SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

第14回 SS小説大会 開催!〜 お題:争い、憎しみ 〜
日時: 2017/09/09 19:00
名前: 管理人 ◆cU6R.QLFmM

****************************

【日程】

■ 第14回
(2017年9月2日(土)〜11月30日(木)23:59)

※ルールは随時修正追加予定です
※風死様によるスレッド「SS大会」を継続した企画となりますので、回数は第11回からとしました。風死様、ありがとうございます!
http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?mode=view&no=10058&word=%e9%a2%a8


**************************


【第14回 SS小説大会 参加ルール】

■目的
基本的には平日限定の企画です
(投稿は休日に行ってもOKです)
夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください

■投稿場所
毎大会ごとに新スレッドを管理者が作成し、ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)
新スレッドは管理者がご用意しますので、ご利用者様方で作成する必要はありません

■投票方法
スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがありますのでそちらをクリックして押していただければOKです
⇒投票回数に特に制限は設けませんが、明らかに不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します

■投稿文字数
200文字以上〜1万字前後まで((スペース含む)1記事約4000文字上限×3記事以内)
⇒この規定外になりそうな場合はご相談ください(この掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」にて)

■投稿ジャンル
SS小説、詩、散文、いずれでもOKです。ノンジャンル。お題は当面ありません
⇒禁止ジャンル
R18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)具体的な暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材にしたもの、二次小説

■投稿ニックネーム、作品数
1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがあります
ニックネームの複数使用は悪気のない限り自由です

■発表日時
2017年12月3日(日)12:00(予定)

■賞品等
1位入賞者には500円分のクオカードを郵便にてお送りします
(ただし、管理者宛てメールにて希望依頼される場合にのみ発送します。こちらから住所氏名などをお伺いすることはございませんので、不要な場合は入賞賞品発送依頼をしなければOKです。メールのあて先は mori.kanri@gmail.com あてに、■住所■氏名 をご記入の上小説カキコ管理人あてに送信してください)

■その他
ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせください
http://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10001

******************************

平日電車やバスなどの移動時間や、ちょっとした待ち時間など。
お暇なひとときに短いショートストーリーを描いてみては。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

******************************

Page:1 2 3 4 5 6 7 8



迎撃 ( No.65 )
日時: 2020/04/13 18:38
名前: 新米ハンター

A国の首都上空、一機の国籍不明機が飛行しているのが確認された。ただちに迎撃機が最寄りの基地から離陸し、
警告をした。しかし反応はなかった。迎撃機は追跡を続けたが、数十分後、パイロットから基地へ連絡があった。
それは、あの機体は爆弾を積んでいることと、人が乗っていない、つまり無人機であったということ。
それを知って、基地からは撃墜命令が下され、実行された。ミサイルが放たれ、機体は炎上、その後空中
分解を起こした。
「例の機体は撃墜されたようです。」「我が国の最新技術を駆使し、出来上がった人類初の無人航空機。まさか
撃墜されてしまうとは。」
 B国では無人航空機の開発が進められ、つい最近開発が終了していた。B国はその機体をA国への攻撃に
使うらしかったが、機体に積み込まれているコンピューターがA国、B国共に戦争が起こるとどれぐらいの被害が
あるのかを計算したところかなりの被害があることが分かったので、攻撃をするのを止め、大人しく撃墜されたというわけ。
これを知って、B国軍の司令官は機体の設計者に言った。「なぜコンピューターにあのような設計を施したのか?」
設計者は答えた。「コンピューターをできる限りかしこくしようとしたらそうなったのです。」
司令官は納得した。

実験 ( No.66 )
日時: 2020/04/19 21:58
名前: 新米ハンター

白い立方体の部屋に男が一人。扉は外から施錠されているため開かない。「早くここから出してくれ。」
男は叫んだ。しかしその声は防音壁により遮断されており、部屋の外には届かない。
部屋の中にある本もすべて読み終えてしまったし、テレビではそれほど面白い番組は放送されていない。
観葉植物を観察するのも飽きた。何か考え事をするにも、残念ながら男には知識も知恵もない。
何もすることがない。男はベッドに寝転がり、しばらくの間、眠りについた。
「起きろ。おい、起きろ。」 聞きなれた声。男が目を覚ますと、そこにいたのは父親。
男は一瞬目を疑ったが、顔立ちや、着ていた服、額の傷などの特徴が、全て父親のそれと一致していると分かった
途端、男は満面の笑みを浮かべこう言った。「父さん。やっと僕はここから出られるんだね。」
父親は頷いた。2年間もの間、部屋に閉じ込められていた男。人間は長期間、密室に閉じ込められると
どうなるのかという実験で、男が何百万分の一の確率で被験者として選ばれ、部屋に連れてこられた。
実験が終了する日、特別に男の父親が部屋まで迎えに来た。男としてはとても嬉しかっただろう。
「実験は終了したんだ。家に帰るよ。」久しぶりの外の空気。清々しく、おいしい。
「ただいま。お母さん。実験から帰ってきたよ。二年ぶりだね。」男は、母親がいつもいたリビングに向かった。
しかし、母親の姿はない。男が母親を探しにキッチンに向かうと、そこには真っ赤な血を流して倒れている母親の姿が......。
そう、実験はまだ終わっていなかった。人間は大切な人が亡くなるとどうなるのか。
父親は泣き崩れる息子を見ると、その様子を報告書に書き込んだ。

記憶 ( No.67 )
日時: 2020/04/20 15:10
名前: 新米ハンター

夜、湖のほとりにある別荘に金持ちのA氏が妻と2人の子供と共にやって来た。夏に休暇がとれたので、やって来たのだ。
空には都会ではまず見られないような、鮮やかで、無数の星がちりばめられた銀河。その美しい光景に、子供たちは見とれていた。
「子供たち。おいで。夕御飯でも食べよう。来る途中に渋滞に巻き込まれて予定よりも到着が遅くなったからね。
お腹が空いただろう。」確かに子供たちはお腹が空いていた。しかし、食事をとりたいわけでもなかった。
「しばらくしたら食べるでしょう。放っておきましょう。」妻が言った。「それもそうだな。そこのジャムを取ってくれ。」
妻は、よく手入れがされた色白い手をジャムに伸ばし、それを夫に渡した。ジャムはパンの上で広げられ、
A氏の口の中に入っていった。A氏はしばらく咀嚼を続け、パンを飲み込むと、牛乳が入ったコップを手に取り、
一気に飲み干した。牛乳が口を通り、食道を通る音が妻にも聞こえた。「ごちそうさま。」A氏はそう言うと、
食器とコップを台所まで持ってゆき、スポンジで念入りに洗い始めた。靴磨きのような感じだなとA氏は思った。

「これがA氏の記憶です。」白髪の老人がビデオテープを客に渡した。客は財布からお金を取りだし、
支払いをした。「ではまた....。大事に使わせてもらうよ。」客はビデオテープを、爆弾でも取り扱うかのように
慎重に入れ、店を出ていった。
「Aさん。あなたの記憶、高く売れましたよ。」 「本当ですか?良かった。あの記憶の中には、私が
殺人を犯したときの記憶があったのです。助かった。」

人の記憶を読み取る捜査方法が確立された世界。捜査から逃れるため、自分の記憶の一部を売る。
そんな犯罪者が後を絶たない。売った方は捜査から逃れられるし、買った方は犯行の様子が
楽しめるし、そして何よりも次に自分が犯行を犯すときの手助けになる。

「やめて.....。その包丁を置いて...。」 「お前が今まで俺にどんな仕打ちをしたのか覚えていないのか。」
「それは過去の話....。止めて....。」

心の複雑 ( No.68 )
日時: 2020/04/30 14:16
名前: スノードロップ

 ぐるぐる、黒いクレヨンで描く。

 ちょんちょん、ピンク色のクレヨンで描く。

 じくざぐ、灰色のクレヨンで描く。

 ぐちゃぐちゃ、赤色のクレヨンで描く。

 くるくる、青色のクレヨンで描く。

 最後は、赤色のクレヨンで塗りつぶす。

 この絵の持ち主は、もういない。

 いや、いる。

 アナタノウシロニ……タッテルヨ

 

前科者 ( No.70 )
日時: 2020/05/06 17:17
名前: むう


 道の傍らに花が咲いた
 人はそれを足で踏みつぶした
 そんな事実どうでもいいやって
 捨てられる徒花は泥まみれ

 ねぇ君は「元気ですか」って
 昔から笑いかけてくるけど
 同じ人生なのに何でだろうか
 君がほほ笑み僕は泣いた

 ずっと前から夜の喧騒が
 鳴りやまない まだ鳴りやまなくて

 きっと今から朝のニュースタイム
 ごめんねって心で呟いたんだ

「さよなら」


 oh アイアムア前科者
 凍り付いた日々の中で少年は
 ナイフを振り 壊して砕いて
 また一つ大きな罪を抱えて

 oh アイアムア前科者
 僕の心と頭の中身は空っぽ
 ナイフを蹴り 叫んで喚いて
 また一つ大きな忘れ物をして


 

 道の傍らに花が咲いた
 私はそれを手でつかんだ
 そんな事実どうでもいいやって
 捨てられる徒花は君みたい

 ねぇ君は「元気ですか」って
 もう会話もできなくなったね
 同じ人生なのに何でなのかな
 君が死んで私が生きてる

 ずっと前から昼の言葉が
 忘れられない 忘れられるもんか

 きっと明日も明後日もずっと
 君のターンはないんだよこれからも

「馬鹿なの?」


 ohユーアー・ア前科者
 凍り付いた日々の中で少女は
 マイクを取り 歌って零して
 もう一度許さないと誓うよ

 ohユーアー・ア前科者
 君の命が空になる前の日に
 またひとり 笑って伝えた
「好きだよ」はちゃんと届いてるかな

 

 ずっと前から夜の喧騒が…
 きっと今でも夜はドンライク
 ずっと前から朝のニュースタイム…
 きっと今でも朝はドンライク


「ありがと」「また会おう」


 oh アイアムア前科者
 凍り付いた日々の中で僕は
 手足を振り 走って走って
 君への遅い告白を送るよ

 oh ユーアー・ア前科者
 残された私の日々の中で
 ナイフを振り 泣いて笑った
 最後のあなたを思い出すよ


 忘れないでね
 忘れないよずっと

 許してほしい
 多分一生許さないだろう

 ありがと
 どういたしまして


 また会おう
 いつかきっと

 好きだよ
 私も。


 

 

果たして ( No.73 )
日時: 2020/05/23 13:45
名前: 新米ハンター

世界的な不況により、街では失業者が溢れかえった。犯罪も増えた。そのため各国の政府は失業者救済の為、これまでに
類を見ない程の大規模な公共事業をした。ある国では世界最大級のダムが造られ、ある国では長さ数千Kmにも及ぶ
海底トンネルが造られた。その甲斐あって、景気は回復、失業者数、犯罪共に減った。街には活気が戻った。
しかし、そんな中で公共事業で造られた建造物の維持費は膨らみ続けていた。政府は楽観的な態度をとっていたが、
やがては再び······。

白雪姫になった魔女 ( No.74 )
日時: 2020/06/27 08:48
名前: 蜂蜜林檎

私の顔が嫌いだ。
姉によく似たこの顔が嫌いだ。
カッターでぐちゃぐちゃに切りつけて、全てを壊したい。
姉と比べられたくない。
姉はなんでもできる。それが憎い。
双子の筈なのに、なぜこうも違ってしまったの?
どうして皆姉の方ばかり見るの?
姉の顔をもう見たくない。
でも、鏡を見れば姉にそっくりな顔がこっちを見ている。
「鏡よ鏡、私は誰?」
そんなことを聞いたって鏡の中の憎たらしい顔は答えてくれない。
ただ、私のことを見てほしい。愛してほしい。それだけ。
私という存在を、姉と言う名の別物と比べないでよ。
ああ、神様、許して下さい。
姉の寝ている部屋に忍び込み、なんの躊躇もなく姉の上に乗る。
姉の白い肌と長いまつげ。薄く色づいた唇。私の手には鋭く尖った包丁。
童話の中の白雪姫と魔女のよう。
「姉さん、最高に綺麗だよ」
真っ赤に熟れた林檎のような血が包丁にまとわりつき、赤く鈍く光る。
姉を葬り、私が姉になるんだ。
私は貴方だった。じゃあ貴方は誰?
そんなのはどうでも良い。だって、姉はもういないのだから。
私は魔女のような気味の悪い笑みを浮かべた。

特技 ( No.75 )
日時: 2020/06/30 19:00
名前: 美奈

ねぇ。帰宅してからまだ30分だよ?もう寝ちゃって。早いなぁ。

静かな呼吸と、わずかに上下する体。こちらを向いて眠る彼の端正な顔が、暗さに慣れた目に映る。
今日は相当疲れたんだね。

日付が変わりそうなタイミングで私の部屋になだれ込むあなた。文字通り倒れそうなあなたを、鍛えてなどいない腕で何とか支える私。
「今日は朝から会議続きだったの!ずーっと緊張しっぱなし。ねえ、俺の事癒して?」
そう言って私を強く抱きしめるあなたが、愛しい。
気を揉んであなたの帰りを待って。そんなモヤモヤも、あなたを見ればどこかへ飛んでいくの。
でも今日は、抱きしめてくれる時間が短かった。明日の朝は、もっと長く抱きしめてね。

私はまだ眠れない。ぼんやりとあなたの顔を眺めてから、窓に目を向けた。

ピコン。

あれ、あなたが無造作に置いた鞄だよね?...もう、疲れてると何も手につかないんだから。
何か光ってるよ。…あ、まさかスマホ充電し忘れてる?しょうがないなぁ。私がやっておくね。

<ねえしゅーちゃん>
<今日もっと長くいたかったのに>
<なんで帰っちゃうの?サナ悲しいよ>
<しゅーちゃんもサナのこと好きでしょ?>
<明日は朝までいてよ。またぎゅーってして!>
<大好き。おやすみ>

立て続けに来るメッセージ。相手は「サナたん」。
…へえ、びっくり。
あなたがスマホ2台持ってたなんて。このスマホ、見たことない。待ち受けが私との写真じゃない。見慣れないどこかの風景の写真。

あなたは無防備な姿で寝ている。愛するサナちゃんからメッセージが来てるのに。
抱き締める時間も、その先の時間も最近ないのは、サナちゃんで満足してたからなんだ。

その時、手にしていたスマホがけたたましく鳴った。
「地震です」
私のスマホ、ベッドサイドでちゃっかり充電されていた彼の「スマホその1」、そして手元の「スマホその2」が一斉に鳴る。
地震速報来たら、スマホ2台あるのバレるじゃない。思ったよりあなたバカね。

大きな地震は来なかったけど、あなたが目を覚ます。いっそ思いっきり揺れてしまえば良かったのに。
「大きな地震来なくてよかったね。大丈夫?」って子犬みたいな目をして、私を抱き寄せるの。サナちゃんを抱いた腕で。

ねえ、聞いて。私、あなたの特技を知ったの。
しゅーちゃんってなかなかの演技派なんだね。会議続きで疲れた、って倒れ込みそうな演技は、見事だったよ。
...ああ、声が震えちゃう。もっとちゃんと言いたかったのに。でも、あなたには伝わったみたいね。
私が手にしたスマホを見て、あなたは飛び起きた。サナちゃんと何をして、「倒れそうなくらいに」疲れたのかしら。

ねえ、しゅーちゃん、私の特技も教えてあげる。

え、何で首を横に振るの?何が「違う」の?何が「誤解」なの?何が「許してくれ」?
とにかく、教えてあげるから聞いてよ。愛しのしゅーちゃん。

私の特技はね。



…あなたの全てを壊すこと。

第14回SS大会【締め切り】※遅くなり申し訳ないです ( No.76 )
日時: 2020/07/01 19:13
名前: 副管理人 ◆PP0y3Hx.36

第14回SS小説大会はずいぶん本来の締め切り日から経過してしまっており、いったんここで締め切ります。
(2020.07.01)

投票数を精査し1作品をトップページにて発表いたします。
優秀作品の発表は、2020年7月7日とさせていただきます。
なお、精査した際に有効数があまりない、あるいは複数同一票数になった場合には、申し訳ないのですが今回は当サイト管理人が恣意的に選んだ一作品を優秀作品として発表させていただきます。

従って、今回のSS小説大会結果については、最終的な選定で当サイト管理人の趣味や嗜好が入る可能性があることをあらかじめご容赦いただきますようお願いいたします。


**************

■第15回SS大会以降の予定について

・第15回SS小説大会 2020年7月5日から2020年10月30日まで
          優秀作品発表…2020年11月7日(トップページ予定)
          お題(基本)…自由 、お題(思い浮かばない人用)…森 

・第16回SS小説大会 2020年11月5日から2021年2月28日まで
          優秀作品発表…2021年3月7日(トップページ予定)
          お題(基本)…自由 、お題(思い浮かばない人用)…ぬくもり 

・第17回SS小説大会 2021年3月5日から2021年6月30日まで
          優秀作品発表…2021年7月7日(トップページ予定)
          お題(基本)…自由 、お題(思い浮かばない人用)…海、川

第14回 SS小説大会 結果発表!〜 お題:争い、憎しみ 〜 ( No.77 )
日時: 2020/07/07 18:01
名前: 副管理人 ◆PP0y3Hx.36

☆☆☆ 第14回 SS小説大会 結果発表 ☆☆☆


集計し重複分などをざっくり差し引いた結果、以下のSS小説作品が第14回の優秀作品となりました。
北風さん、おめでとうございます!

この作品は(今までの作品も含む)、後日小説図書館にSS小説優秀作品ページを別途作成し保存させていただきます。

第15回SS小説大会用スレッドは、遅くなってしまい申し訳ないですが2020年7月7日夜に作成いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

■(Update memorys)について (感想)

非常に短い文字数にもかかわらず、二転三転していく先の読めない展開がとても魅力的ですね〜!

   ↓ ↓




****************

『Update memorys(上・下) ( No.10・11 )』(>>10-11

        作者 北風 さん






人生で十七回目、なはずの夏。


セミの音だけが響く住宅街を抜け、夏休みだというのに誰も居ない公園の角を曲がると、古びた学校が現れました。

「わあー、懐かしいー」

わたしの前を歩いていた佳乃ちゃんが、声をあげて走り出しました。

よくそんな元気があるなあ、とわたしは感心します。
確かに駅からここまで十分とかかりませんでしたし、なるべく日陰を選んで歩いてきましたが、今日は朝から猛暑。
木漏れ日の落ちる頬を伝う汗は、止まることを知りません。

「ほらハコ、ここが私達の母校だよ」

見覚えの無い校舎。
蜃気楼の見える狭い校庭。
錆び付いた校門の柵に寄りかかった佳乃ちゃんが弾むように口にします。

「いや〜、こんなボロかったっけ?」

佳乃ちゃんは苦笑いを浮かべますが、わたしの胸中は不安でいっぱいでした。
佳乃ちゃんの柔らかい手を、汗ばんだ手でそっと握ります。

「……大丈夫だよ、無理せずに少しずつ思い出してこ」
「うん……ありがとう、佳乃ちゃん」

佳乃ちゃんはこう言ってくれますが、わたしは無理をしてでも思い出すつもりです。
これ以上佳乃ちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないのです。

わたしが全ての記憶を失ってからもう三ヶ月。
佳乃ちゃんはもうずっとわたしに尽くしてくれています。
今日だって、記憶が戻るきっかけになればと、わたしを昔通っていた中学に連れてきてくれました。

そんな彼女のためにも、意地でもここで記憶を取り戻してみせます。
そう決意を固め、わたしは一歩踏み出しました。

     ※

「あらぁ、あなた山里さん!? 山里佳乃さんでしょ!?」

校舎の一階にある職員室の前。
五十代後半くらいに見える女性が、口許を押さえて歓声を上げました。

「えー!? 覚えててくれたんですか? 担任でも無かったのに」
「当然よ〜、本当に久しぶりねぇ。……それにしても、まさか山里さんが会いに来てくれるなんて……っ……やだ、私ったら」
「もう、大袈裟ですよ先生」

女性は感極まったのか目尻に涙を浮かべます。
彼女が目を伏せてそれを拭おうとしたとき、ふと佳乃ちゃんの後ろに隠れていたわたしと目が合ってしまいました。

「……っ」

わたしは気付かなかったふりをしてそっぽを向きますが、女性は佳乃ちゃんの肩越しにわたしの顔をまじまじと眺めてきます。

「……? あなた確か……」
「あっあああそうだ! 先生、私達教室行きたいんですけど! それってマズいですかね?」 
「え? 教室? そうねえ……クラスの担任の先生とだったら……」
「あ、三年二組行きたいです」
「じゃあ確か……前谷先生じゃなかったかしら?」
「え、前谷先生? あの人、本担任になったんですかー!?」
「あら、そうね。山里さんが居た頃はまだ新任だったものね……」

佳乃ちゃんは適当な会話で場を持たせながら、わたしに目配せをしてきました。

「あ……えっと、わたし、ちょっとお手洗いに……失礼します!」

わたしはそう言い切ると、半ば逃げ出すようにその場を立ち去りました。
佳乃ちゃんに感謝です。
あの教師と思われる女性に、昔の思い出など語られても困りますので。

     ※

やっと手近なトイレを見つけ、一番奥の個室に飛び込んだのは、それから三分後のことでした。

職員室前からここに来るまで、誰とも出会わなかったのは幸いでした。
小さくて古びた学校なので、教職員の数も少ないかもしれません。

「ふう……っいやいや!」

溜め息を溢して軽く目を閉じかけますが、わたしは慌てて首を振りました。
このトイレの個室ひとつ取っても、私の記憶が戻るきっかけになるかもしれません。
せっかく佳乃ちゃんが用意してくれた機会。
大事にしなくては。

とは言っても、トイレの個室を見て思い出すことは何もありません。

──やっぱり、もっと色々見なきゃ……。

人に会うのは怖いけど、そんな風に逃げていてはいつまで経っても記憶なんて戻りません。
記憶を取り出して、佳乃ちゃんに改めてお礼が言いたいのです。
家族や他の友達は皆どこかわたしに対してよそよそしいのに、佳乃ちゃんだけは積極的に関わろうとしてくれました。
心からわたしのことを考えてくれる、本当に良い子なのです。

「……よし」

深呼吸してトイレの扉を開けようとした瞬間。

──コンコン。

突然その扉がノックされました。

「ひゃっ!」
「あ、ハコー?」
「か、佳乃ちゃん……?」

恐る恐る扉を開くと、そこには優しい笑顔の佳乃ちゃんが立っていました。

「大丈夫? 先生は上手く誤魔化しといたから、もう出てきて良いよ。ほら、教室行こ」
「う、うん……ありがと」

差し伸べられた手をそっと取ると、しっかりと握り返してくれました。
それだけで、随分勇気付けられます。



「ここが、わたしの通ってた教室……?」

そこは、何の編鉄も無い教室でした。
少し古い所を除けば、学園ドラマの撮影現場にでもなりそうな、余りにも普通の教室。

「そ。何か思い出さないかな」
「……」

目を凝らして部屋の隅々を見渡すものの、引っ掛かるものはありません。

「ごめん、佳乃ちゃん……」
「いやいや大丈夫だよー。仕方無いよね、この教室、面白み無いし。あははっ」

折角の学校訪問が無駄足になったのにも関わらず、朗らかに笑う佳乃ちゃん。
本当にこの子は良い子だ、と思うと同時に、申し訳なさで胸がいっぱいになります。
目を合わせられずに俯いていると、

「あ、そうだ!」

佳乃ちゃんが何か思い出したように声をあげました。

「これ、私の当時の教科書とかノート! 持ってきてたんだった!」

彼女が鞄の中から取り出したのは、一冊の教科書と二冊のノートでした。

「これ見たら何か思い出すんじゃない?」
「え? そうかな……」

教科書やノートなら自分のものを既に見ていますし、教室を見ても何も思い出さないのに、正直思い出すとは思えません。

「そうだよ! ほら、見てみて!」

佳乃ちゃんに渡された教科書とノート。
わたしは何の気なしにノートを一冊、開いてみました。



『死ね   ぶりっ子   何で生きてるの?   自己チュー   学校来んな     死ね    死ね死ね   帰れ   馬鹿  ブタ   ブス   死ね  殺す 死ね  ジイシキカジョー   死ね   死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死』



「きゃあああっ!!」

わたしは悲鳴をあげてノートを放り出しました。
見れば、教科書の表紙ももう一冊のノートも、表紙が何かで切りつけられたように破れていた。
それらも続けて投げ出します。
バサリと音をたてて転がったのは、佳乃ちゃんの足下。

「あ……」
「どうしたの? ハコ」

佳乃ちゃんは何でもないような笑顔でそう言うと、床に転がるノートを拾い上げた。

「あっれえ? 思い出せないかなぁ?」
「あ……あぁ……」

ゆっくりと近付いてくる佳乃ちゃん。
何故かわたしは逃げることが出来ません。

「そんなはず無いよね? だってこれ……」

出来ない。
逃げることが。
足が縫い付けられたように。
貼り付けられたように。
逃げられない。
わたしは。
私は。
山里佳乃から。
山里から。
逃げられない。


「箱根小毬、あんたが書いたものだもんねえ?」


「う、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああ! ああああああ、ああああああああぐっ!」
「煩いなあ、先生達が来ちゃうでしょ?」
「ぐ……むゔ……え゙っ……」

私の口に突っ込まれたのは、ボロボロのノート。
それをぐりぐりと押しながら、山里は言った。

「ねえ、思い出した? あんたが何で記憶喪失になったのか」
「ゔっ……ご……」
「親友が自殺したことによるショック。はっ、笑えるわ」

山里が顔を歪める。
ノートが口に詰め込まれ、息が出来ない。

「あんた、中学の時に自分がクラスメイトを虐めて自殺させたこと、忘れたの? ほんっと鳥頭だね」
「ん゙ッ……ぐえ゙っ……おえ゙ぇ……」

胃から食べ物が逆流してくる。
だが、口が塞がれているため全て吐き出すことが出来ず、吐瀉物は鼻に流れ込んだ。

「ああ、そうだよ。このノートは私の親友、棚橋未来のものだよ!」

見上げる山里の顔が涙で歪んで見える。
気付けば全身がガタガタ震えていた。
息が出来ない。
意識が遠退く。

そこでやっと山里の手の力が弱まり、私はノートを床に吐き出した。

「げほっ……げほっ……! うっ……ええ……」
「きったないなあ! 信じらんない!」
「うっ!」

四つん這いになって吐いていると、横合いから頬を蹴られた。
起き上がる間も無く胸元を掴んで立たされる。

「私はねえ……ずっとあんたに復讐してやろうと思ってたんだよ……。それが、記憶喪失? 親友の死のショックで? 自分の大罪を、全部忘れた? ……ははっ……あはは………………ふざけるな!!!!」
「ひっ!」

胸元を掴まれたままぐいぐいと押されて、気付けば私は窓を背にして立っていた。

「絶対に記憶を戻してやろうと思った……記憶を戻してから復讐しようと……」
「あ……あっあっ……あっ……」

どんどん押される。
いつの間にか開けられていた窓から、頭が出る。
怖い、怖い。
力が出ない。

「死ねよ、箱根。死んで償え」
「あ……あっ……あっあっあっ」

窓から首が出る。
背中が出る。
腰が出る。

「最後に言い残したことは無いか」

塵を見るような目で、山里が吐き捨てた。

「あ…………ぐっ……」

その目が無性に癪に触り、私は歯を食い縛って山里を睨み付けた。

そうだ。
こいつは、棚橋未来の友達だった。
でも、私や他のクラスメイトが棚橋に何かしても、山里は遠くから見ているだけだった。
その癖、棚橋が自殺してから復讐?
あまつさえ、私の親友の死を笑った?

恐怖を怒りが塗り替えていく。
もう、山里が私の胸元を掴む力を弱めれば、私は窓から真っ逆さまだろう。
ここは三階。
足から着地すればまだ助かるかもしれないが、この体勢だと頭から落ちる。
私は、きっとどう足掻いても助からない。

それなら──

「何、その目」

思いっきり憎まれ口を叩いてやろう。
呪ってやろう。
祟ってやろう。

そう思って開いた私の口から飛び出した言葉は──



「佳乃ちゃん、三ヶ月間、ありがとう」



──あれ?

わたしは、驚いて目を見開きました。

佳乃ちゃんの顔が、わたしと同じ驚きに染まった後、笑っているのか泣いているのか分からない表情に歪みました。

胸の圧迫感が無くなりました。

シーソーのようにゆっくり傾いた体は、みるみるうちに加速していきます。

全部思い出したはずの私の脳裏に浮かんでいくのは、この三ヶ月の出来事ばかりでした。


佳乃ちゃんは、記憶喪失になって不安なわたしを安心させてくれました。

佳乃ちゃんは、家族と気まずくて家に居場所の無いわたしを遊びに連れ出してくれました。

佳乃ちゃんは、いつもわたしに穢れの無い笑顔を向けてくれました。


遠ざかる入道雲。


耳に吹き付ける風音に掻き消される蝉の声。


溢れ出して止まらない涙。



佳乃ちゃんがわたしをどう思っていようと、わたしは佳乃ちゃんが大好きでした。


さようなら、佳乃ちゃん。



わたしの、初恋のひと。

                              End.

Page:1 2 3 4 5 6 7 8