十六夜の夜 作者/Alice ◆I.ViK/ToXc

第3夜



もう1人黒髪のツインテールの美女

* * *

「・・・円舞・・・・」

 聞き覚えのある淑やかな声に、セレナーデ以外の全員の表情が変わる。

 セレナーデがニヤリと笑った。

「霧風!!!!」

 変わらぬ淑やかな声と共に突風が巻き起こる。

 風を起こしたのはリナリーだった。

 風が消えるとその中には人の姿は無い。

 リリーとレイアは遠くに投げ飛ばされて、砂漠の絨毯に倒れている。

「ねぇ、リナリー?
 自分の武器で殺されるのってどんな感触だと思う?」

 聞き覚えの無い声はリナリーを震え上がらせた。

「リナ・・・リー・・・」

 リリーが立ち上がろうと、そして止めようと必死でもがく。

 リナリーは振り返ろうとはしなかった。

 いや、振り返れなかった――――。


「ねぇ、リナリー?
 私だよ、セレナーデだよ。

 前に林で道を教えてあげたでしょ?

 Miss.Lenalee・Lee....Chinese.
 ねぇ?

 自分に自分が殺される時って・・・

 見てみたいと、思わない?」

 セレナーデは逆さまになってリナリーを見つめた。

 その足にはリナリーの対アクマ武器、黒い靴が纏われて。
 
「円舞」

 セレナーデがニヤリと怪しく笑う。

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


    「    霧    風    」


 強い風が真のリナリーを包み込む。

 リナリーを攻撃したのは〝リナリー〟。

 巻き起こった風が消えると、砂の絨毯にはリナリーが倒れていた。

 虚ろな目をして、その体の下には更なる血の絨毯――――。

「リナリー!!」

 アレンを支えていたラビが叫んだ。

「リナリー・・・!!ゲホッ・・・」

 リリーが血を吐いて叫ぶ。

「セレナーデ様!!しっかりなさってください!!」

 黒猫があっという間に少女に変身してセレナーデの前に立ち塞がった。

 セレナーデと同じ洋服を身に纏って、肩につくぐらいの髪を肩にたらしている。

「セレナーデ様!!!
 目を覚ましてください!!セレナーデ様!!」

「・・・コ・・・」

「セレナーデ様!!!!」

 ココが涙を零して叫んだ。


 セレナーデの表情が変わる。

 さっきまでの強気な表情とは裏腹に、不安に満ちて今にも泣きそうな表情。

「・・・!?」

 セレナーデをずっと観察していた忍とファルが表情を変える。

 バサッ・・・

 セレナーデはそのまま砂の絨毯に膝を落とした。


 ―セレナーデ?起きてる?

 日も昇らない朝早くお姉ちゃんは言う。

 ―はい、私は魔女になって行っちゃうからさ。

 お姉ちゃんが渡してくれたお母さんの形見の、薔薇の髪飾り。

 ―・・・・誠に残念ですが・・・

 血で塗れた家の中に警察が入って来て言った言葉。

 胸から血が出ていて、目を見開いてこちらを見つめているお姉ちゃんの体。

 蒼白い手には、今私がつけている1本の赤いリボンタイが握られていた。

 貴女の手が、手が、手が。


 私を求めるように手を広げないでよ

 私を憎むように見つめないでよ

 ねぇ、ねぇ――――――。


「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 セレナーデの悲鳴は砂漠の地に寂しく伝った。