十六夜の夜 作者/Alice ◆I.ViK/ToXc

第1夜



彼女は、薄黄色に染まっている砂漠地帯を飛んでいた

 靡くツインテールの黒髪を、

 着ている服を、

 別の者の姿に変えながら

 黒いコートを身に纏った少年を目指し、空高く飛び上がる――――。

* * *

「・・・・ハァ・・・
 本当にこの辺りなんでしょうか・・・?」

 重い足を引き摺るように歩いている白髪のエクソシスト。

 彼はアレン・ウォーカー、15歳。


「この辺りなんさ・・・
 〝魔女がアクマを倒した〟っていう砂漠は」

 燃えるような赤い髪をかき上げた少年。

 彼はラビ、18歳だ。


 アレンとラビは今、南米の砂漠地帯に居る。

 もう3時間以上砂漠を彷徨っている為、2人は今にも倒れそうだった。

「魔女自体居ないんじゃないんですかー・・・・?」

 アレンが諦めかけたことを言う。

「ンでもコムイが行けって言うんさー・・・・」

 ラビが答えた。

 アレンが口を開く。

「・・・それより・・・・ゴハン食べたいです・・・・」

 アレンがフラリと倒れそうになる。

 2人して亡霊のようにその場で揺れていた時。


「ご飯ならくれてやってもいいわよ?」

 頭上から声がして、2人はハッと我に返った。

 ・・・・・・。

 アレンとラビの目の前には、少女が居た。


 少女は茶色のほうきに両脚を掛けて、逆さまになって2人を面白そうに見つめている。

 アレンは少女の姿を見て、言葉を失う。

 バサッ・・・・

「アレン!?
 おい!!しっかりするさ・・・・!」

 虚ろな目で砂の絨毯に膝を落としてしまったアレンを、ラビが支える。

「・・・・この姿じゃマズかったみたいね」

 そう、少女はアレンにとって思い出すと辛い女性を思い出す格好だったのだ。

 パチン

 少女は右手で指を鳴らすと、ほうきを蹴り上げて大きく空に飛び上がった。

 ラビが思わず少女を目で追う。

 照りつける太陽が正六角形を見させ、少女の黒服が別の洋服へと歪み変わって行く。

「・・・!?」

 ラビはアレンを支えながら珍しそうに見上げた。

 その珍しい光景を瞬きをせず見つめていると、束の間に少女はほうきに飛び乗った。

 加算された重さでほうきが下に沈んだが、すぐに上に上がる。

 少女は閉じた目をゆっくりと開き、口を開いた。

「御機嫌よう、やつれたエクソシストさん」

 と挨拶をしたそのとき。


「ぐあっ!!」

 空から何かが落ちてきて、少女のほうきに当たった。

 落ちて来たのは黒猫で、黒猫は落ちそうな体を必死で上にのぼらせ、安定した所で一息をついた。

「セレナーデ様!!!」

 黒猫が大声で叫んだ。

 そんな黒猫にラビが驚いてひっと声を上げる。

 硬直しているラビの団服のポケットから、一枚の写真が落ちた。

 ラビはその写真を拾い、少女と比べる。

 写真の中の少女と、今目の前に居る少女は全く同じだった。

「お前さ!!!」

 ラビが勢いよく少女を指差す。

「お前とは失敬過ぎるではないか!!
 リニア家第6代魔女のセレナーデ様に何を言う!!!」

 黒猫の言っている事が分からないので、ラビが首を傾げている。

「ココ、この人達にそんな事を言っても無駄よ。
 彼等は私達のことを知らないのだもの」

 セレナーデと呼ばれる少女がため息をついて言う。

 どうやらこの黒猫の名はココというらしい。

「で・・・・
 赤髪のエクソシスト・・・

 そうね・・・ブックマンJrって言った方がいいかしら」

 セレナーデは、鋭い視線をラビに向ける。

「ッ・・・!?
 なんでそれを・・・・」

 ラビが問う。

「私ののうりょ・・・・」

「セレナーデ様!!
 自分自身の力を勝手に名乗ってはなりません!!!」

 セレナーデの言葉をココが止めた。

「うるさい奴隷・・・・。
 猫の姿なんて不便じゃないの」

「セレナーデ様!!」

「はいはい」

 奴隷となっている黒猫に叱られ、セレナーデはめんどくさそうに返事をした。

「あぁ、話が反れたわね。
 で?あんた達は私に何の用なわけ?」

 セレナーデの鋭い閃光が黒猫からラビへと移される。

 突然閃光がラビへ向けられた為、ラビは言葉が出なかった。


 そのとき、空から綺麗な女性の声が聞こえて来た。

「セレナーデ・リニア、16歳。
 貴女を黒の教団へと連行する」

 と言って、ラビの前に降りて来たのは――――。