コメディ・ライト小説(新)
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- Banka
- 日時: 2019/08/31 01:15
- 名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: D28jR39t)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=3918
- Re: Banka ( No.38 )
- 日時: 2019/08/30 12:58
- 名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: 4pC6k30f)
「東京?」
大きくため息をつき、椅子に深く腰掛ける。机の上のデスクトップパソコンがスリープ状態になっていたので、キーボードの適当なボタンを押すと、やっとのこと起動してくる。
そういえば帰宅したというのにまだ制服でいることに違和感を覚えてきたので、とりあえずスマホを持っていないほうの手でネクタイだけ外しておく。
「そう、東京です東京」
茅野の声色はやけに明るい。そして先程から音が少し小さかったのでキーで音量を上げてみる。ついでにiPhone横のサイレントスイッチをオンにする。
「えっと、全然話が見えないんだけど」
その声色が全く苛立ちを隠せていないのは自分でも分かっている。電話をかけてくるタイミングが家の玄関のドアを開ける寸前というのもそうだし、それをせっかく取ってやったというのにいきなりめちゃくちゃな日本語ばかりを並べられたら流石にうんざりしてくる。
「だから! 東京行きましょう!」
「はあ? 東京のどこに何をしに?」
というより、彼女のテンションがいつまで経っても変わらないことに思わず吹き出してしまう。珍しく茅野からLINE電話がかかってきたと思ったらいきなり東京東京連呼されたり、その謎のハイテンションだったり、何というか支離滅裂である。今日の茅野はまるで別人のようだ。
パソコンのモニターに目を移すと、とあるネット掲示板が表示されていて、バックにはiTunesの曲が流れ続けている。何となく気持ち悪いので曲を一時停止しておく。それがいつから流れているのか不明だが今はヘッドホンを外しているので全く聞こえていない状態にある。
「東京の将棋会館です!」
ズキン、と心臓の辺りを鈍痛が走った。
それはまるで落雷のように突然の出来事だった。重い骨と骨がぶつかるような暗く激しい痛みが僕を襲い、あまりの衝撃で体中の色んな感覚を失い、ついさっきまで耳に当てていたスマホがいつの間にか床に落ちていた。力が入らなくなった指は代わりに痙攣していて、スマホを持つジェスチャーをしたまま手が宙に浮いていた。
怖い。いつかまたあの記憶を呼び起こされるだろうとは思っていたが、それがまさか今だとは。あの記憶は完全に忘れてちゃんと蓋をしたと思っていたのに、それは単なる思い込みだったらしい。自分の浅はかさにほとほと絶望する。
体の感覚を失ったのは本当に一瞬の出来事で、すぐに何不自由なく動かせるようにはなったが、床に落ちたままのスマホを僕には拾える気がしなかった。彼女のその話の続きを聞くことを、体中の全細胞が拒否しているような気さえしてくる。
「……どうしたの?」
見ると、母が部屋のドアのところで立っていて、床に放置されたままのスマホを不思議そうに見つめていた。
「ノックぐらいしてよ」
「したわよ。いるはずなのに返事なかったから入っちゃった」
母はこちらまで歩み寄り、足元のスマホを取り、僕に差し出してくる。手の痙攣はもう治まっていた。「何、大丈夫?」
「あ、うん……。大丈夫」
持つ感触がやけに新鮮だったスマホは、床の冷たさに同調してひんやりしていた。電話はもう切れていて、LINE画面では茅野からの僕を心配するメッセージが幾つも送信され続けていた。トーク画面のまま床に置かれていたので、それらのメッセージはすぐ既読になっている。
母は心配そうというより、どちらかというと怪訝そうな表情で僕の顔をまじまじと見つめてくる。まあ、確かに母の目には今の僕は相当不審に映っているに違いない。
- Re: Banka ( No.39 )
- 日時: 2019/09/21 20:29
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: U7ARsfaj)
ご無沙汰しております。友桃です。
更新されていた分、最新話まで一気読みしました。
ほんともう、をうさまさんの文章力すごい。すごすぎて(いい意味で)ため息つきながら読んでました。
うまく言えないですけど、登場人物たちの心情が地の文の雰囲気にもにじみ出てる感じがすごいです。
ふたりのあいだの間(ま)もとても好きです。ふたりの会話の中で絶妙に沈黙が入ってきて、そこの描写がとてもとても好き。
あと、自転車で二人乗りするシーン、きゅんきゅんしました。ふたりが自転車で風を切っているところを想像しながら読ませていただきました^^ とくに、声がかぶって後ろを振り返ったら彼女が笑顔なのを見て、「それがどこまでも心地よかった」というシーンと描写がものすごく好きです。
続きも楽しみにしてます。
更新頑張ってください。
- Re: Banka ( No.40 )
- 日時: 2021/12/29 07:48
- 名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: XrRR0R9A)
「まあ、大丈夫ならいいけど。畳んだ洗濯物ここに置いとくから早くしまいなさいよ」
母はまだ納得できていない様子だったが、しだいに勝手に何かを察してくれたようで部屋から出ていった。
茅野からのLINEはまだ続いているようだった。最初の方は「大丈夫ですか?」とか「何かありました?」のような穏やかなメッセージが多かったが、しだいに、「救急車とか呼んだ方がいいですか」や「今から家行きますね」のようにもはや感嘆符すら付いていないメッセージが多く見られた。いくらメッセージを送っても即、既読になる割に中々返事が来ないことに本気で危機感を覚えたらしい。
「あ、もしもし! よかったー、心配してたんですよ。何かありました?」
電話をかけると、茅野は一コール以内にすぐ出る。
「い、いや、なんかごめん。もう大丈夫」
彼女の口調は本当に僕を心配してくれている様だった。それは単純に有り難かったし、とりあえず彼女を安心させてあげようとも思えた。なんというか、普通に申し訳なくなってきてしまう。
「今マジで先輩の家まで行こうかと思って準備してたんですけど、何事もなさそうでよかったです」
「……ごめん」
「ま、まあ私はいいですけど。そんなことより、東京、どうですか? 全国大会のちょっと前なんですけど」
僕は、このときばかりは自分を本気で恨んだ。行くよ、と即答してしまったことは元より、そこから出発するまでに何日間も時間はあったのに、一回もその返事を取り消すようなことをしなかったことに対してである。彼女の提案は絶対に断ってしまいたかったことなのに、このとき何故承諾してしまったのかに関しては、はっきり言って僕は自分で説明がつかない。ただ、僕がここ数ヶ月間持っている願望、もっと大げさな言い方をすると野望を、今、東京に行くことで叶えられる気が少しだけしたのかもしれない。
茅野都美という後輩の存在も、その僕の野望に大きく関わっていて、今、彼女と二人で東京に行くことで何かを変えられる可能性は大いに考えられた。そしてそれは勿論僕にとって大きなリスクを孕んでいる行為でもあり、実際、彼女の口からあの単語を聞いただけで心臓辺りに走った衝撃は想像以上のものだった。
しかし、それでも僕は、その僅かな希望に懸けてみようと思えた。もしかしたら、それしか選択肢がなかったのかもしれないのだが。
■
「いやー、やっと着きましたね」
「……うん」
それが、僕と茅野都美が東京駅に到着してから初めての会話だった。
三時間余り乗った新幹線を降りてすぐに人混みに流され、改札前まで来てようやくその流れを横に逸れると、二人とも同じタイミングでため息をついた。
新幹線ではずっと座っていただけとはいえ少し疲れる。ベンチは当然のように埋まっていたので、壁にもたれるようにして座る。
立ったままだった茅野は大きく伸びをする。その間、彼女の持っていた赤いキャリーバッグから手が離れる。
「一泊二日でしょ? こんな大きいの要る?」
「だから、念には念をってヤツですよ。……あー新幹線疲れましたね」
それは岡山でも行ったやり取りだった。しかし何度も確認してしまうほど、そのキャリーバッグはめちゃくちゃに大きい。十日ぐらいの旅行にも使えそうな大きさである。華奢な体の彼女が持つと、サイズ感が違いすぎて目の錯覚みたいに見える。
「それにしても、本当に来ちゃったんですね東京」
まだ実感が湧かないといった様子で、彼女は辺りを見回す。自分もやってみると、視界に入ってくる情報量が多すぎて圧倒される。
というより、まさに本当に来てしまった。僕の方は新幹線の中ではできるだけ東京のことは考えないようにしていたから、実感が湧く湧かない以前に東京に来てしまったという衝撃的な事実だけが、脳内を何周も駆け巡っていた。
- Re: Banka ( No.41 )
- 日時: 2021/12/29 07:51
- 名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: XrRR0R9A)
友桃さん! すみません………………
- Re: Banka ( No.42 )
- 日時: 2021/12/29 12:20
- 名前: りゅ (ID: B7nGYbP1)
閲覧3000突破!!おめでとうございます!( *´艸`)
応援しているので執筆頑張って下さい!