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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
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*32*

                † 十六の罪 “死が二人を別つ刻” (前)


(……おのれ、我が奥義でも有効打には至らないか…………)
 一時的に相応の手傷は負わせはしたが、死すべき運命の円舞曲が止んだ直後には、斬りつけた箇所が修繕し始めている。ツェーザルは肩で息をしながら、眼前の巨兵が再生してゆく光景に目を瞠った。先程からこの破壊者は、損傷、再生、反撃を繰り返している。早くも回復が完了したようだ。つまり、次の行動は――――
「くっ……!」
 反撃。そして追撃。疲弊した剣士を容赦無く襲う力任せの打撃。彼は跳び退いて避け、岩陰に滑り込んだ。
(止まった……?)
 物陰にいる敵は感知できないらしい。体勢を整えつつ打開策を考えねば……いや、打開のしようがあるのか? 魔力は消耗し、自慢の剣もあの再生力の前には決定力に欠ける。とはいえ、この親分格を仕留めない限り、味方も幾千体と知れぬ雑兵との果て無き潰し合いから解放されることは無い。
(私がやらねば三人とも終わるのか。このようなところで…………)
 負けたくなかった。負けず嫌いな性格もあるが、何より武術も痛みも知らないような暴れるだけの相手に負けることが悔しい。あの悪魔たちは尋常ならざる魔力を有していながらも、あくまで剣技を競おうと望む自分を灰にすることなく、斬り合いに付き合ってくれた。しかし、立ちはだかる巨体は目の前にあるすべてを破壊し尽くすだけの存在。幼き日より戦いに身を投じてきて今更死など恐れはしない。だが、剣士としての誇りを蹂躙され、仲間を守れず死んでゆくことは死する苦痛よりも耐え難い。
(なぜだ。戦うために、勝つために鍛錬を重ねてきたのに……なぜ、こんな自我も持たない相手に屈さねば…………)
「なぜ無理なんだ! なぜ私はこんなところで終わるのだぁあああ!」
 大声で喚き散らす。
「――うっさいねぇ、勝手に無理って決めつけんじゃないよ。だから二十歳過ぎても童貞なんだろが」
 姿は見えないが、耳に憶えのある声が響いた。
「ディメント・インクルシオ……ッ!」
 聳える巨躯に無数の風穴が穿たれてゆく。
「……この技は……!」
 塞ぐ猶予も与えずに絶え間無く貫き続ける刺突の嵐。遂に土壁を突き破り、アモンが降り立った。
「さ、一転攻勢といこうか」
 ツェーザルを見定めて呼びかける。
「……って、登場するや否や岩陰に隠れて言うなよ!」
「すみません、思ったより傷口がすぐふさがったの見て本能的にヤバいなって」
 頭を掻く地獄侯爵。
「あの再生速度は確かに異常。相性的にも打つ手がない」
「なるほど、ちょっと気になったんだがいいかい?」
 顰面で腕組みをして彼女が問う。
「どうした? 弱点が分かったのか!?」
「あ、いや……ここってホントに安全か気になっただけだ。落ち着いて作戦たてられんのかなって」
「……今すぐここから出されたいか」
 ツェーザルの目はいまだ死んでいない。寧ろ武人たるに十分過ぎる程の威圧感でアモンを凝視している。
「……で、本題だが熱ならどうだ? 打撃が通用しなくとも熱さにも強いとは限らねえ」
「魔術なら試した、やはり再生されてしまったが……」
 俯く剣士。
「――その魔術ってヤツは、人知を超えた高温だったのかい?」
 この期に及んでなお、彼女の眼差しは覚悟と自信に満ち溢れていた。
(この者はできないことは言わないだろう。そろって死を待つだけなら賭けてみる価値はある……)
 咳払いを挟むと、ツェーザルは顔を上げる。
「いっせーのーせっ、で行くぞ」
「なんだそりゃ、ガキか」
 斯く言いつつも、満更でも無いようなアモンの顔。
「いざ、いっせーのぉおおッ!」
 ツェーザルは満足気な微笑みを一瞬見せると、掛け声と共に飛び出してゆく。
「おいバカ待……」
 アモンが制止するよりも先に、彼は標的の足元へ肉迫。残りの力を振り絞るようにして連撃を叩き込む。
「私に構わずやれ! 悪魔のくせに余計な感情に惑わされるな! 人知を超えた高温とやらで私ごと焼き尽くしてみせろ!」
 叱咤するツェーザル。
「なに言ってやがる! 仲間を手にかけるなんて武の道に反するだろが!」
「お前こそ何を言うか、共通の目的は勝利することだろ! 早く大義を全うしろ!」
 幾度弾き飛ばされようと、怯むこと無く喰らい付く。
「……分かった。記念すべき一勝目を飾るにふさわしいのブチかますとするよ!」
 意を決したアモンの付近に渦巻く緋色の魔力光。
「ゆけぇえええ……!」
 血反吐を溢しながら、ツェーザルが檄を飛ばす。
「灼熱の炎を……喰らいなァ!」
 大地を震わせ、暴風を纏い、赤々と輝くアモンの両手。
「――煉獄の業火を纏いし一閃(パガトリグナス・ツォライケンス)!」
 高らかに言い放つと、噴出する爆炎を前方に集約し、彼女は突進した。
「……フッ、熱そうな炎だ」
 好敵手に見守られ、アモンは火力と速度を上げてゆく。
「これで……」
 振り子の如く上体を反らし、撃ち込む一突きは必殺必滅。
「どうだぁあああッ!」
 ツェーザル諸共、紅焔に包む。
(……デアフリンガー、お前は生きろ…………)

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