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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
関連タグ: 天使 堕天使 魔王 悪魔  魔法 魔術 騎士  ファンタジー 異世界 アクション バトル 異能 キリスト教 失楽園 
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*38*

               † 十八の罪 “地獄侯爵” (前)


(……これが天使の本拠地…………)
 天空の要塞に驚嘆する一同。
「あ、デアフリンガーは初めてだったね。普段は特殊な結界で外の世界と切り離されてるから見えないんだとよ」
 アモンが巨大な城影を仰ぎ見ながら声をかける。
「どんな高尚なもんだろうと関係ないさ。これから全部ぶっ潰すんだから」
 勇み立つ少年。
(アザミはベルゼブブに任せてきた。僕は――谷を焼いたこいつらを、兄上を殺したこいつらを、ただ殺しつくすだけ……!)
 聳え立つ楼閣を睨んで彼は拳を握り締める。
「――で、どっから入るとするかねぇ」
 盟友の問いに応じようとせず、黙したままの魔王。
「ん、どうかしたかい?」
「……イヴがいる」
 その一言を受け、アモンは彼の横顔を熟視する。
「イヴさんが!? どうしてここに……?」
 二人の悪魔を交互に見比べるデアフリンガー。
「何があったかは知らんけど、そうだとすりゃ下手に大技が出せないねえ」
「然り。天の雷を以て外郭ごと結界を撃ち抜けば内部には入れよう。敵に態勢を整える間を与えずミカエルを討つことが至上の策ではあるが其れ程の大穴を穿つ威力で放てば、中のイヴまでも無事とは限らぬ」
「じゃあ、どうすれば…………」
 少年は不安気に吐露する。長老の奥義をも打ち破った恐るべき技を忘れる筈が無い。
「……止むを得ないであろうな」
 眼前の的を見定めてルシファーは発した。
「そ、そんな……!」
「然れば他に手はあるか?」
 射抜かんばかりの鋭い眼光で、狼狽するデアフリンガーに問い返す。
「降りると云う者は勝手せよ。然れど俺は最後まで戰い抜く、途上で折れるのであれば端から王に等なってはおらぬ」
 瞳の色を紫に変化させ、堂々と語る魔王。
「大義を見失うなってヤツか。それに、どうやら急がなきゃいけないみたいだねえ」
 無数の気配が接近する。
「……ミカエルめ、罠とは小汚い真似を」
「ど、どうすんだよッ……!?」
「是非に及ばず。此の者達を滅し尽くす迄」
 至る所に犇めく敵影を流し見つつ、斧槍を創り出すルシファー。
「いや、アンタは結界破りに専念しな」
「……任せた」
 若干の間を挟み、アモンの申し出を承諾する。
「んじゃ……魔王様の背中はよろしくな、少年」
 彼女はデアフリンガーを一目して言い残すと、天使の大群へと飛び込んでいった。
「なんだ、この数……冗談は嫌いじゃないが今は勘弁してほしいものだねぇ」
「僕も――」
「いや、アンタはルシファーを死守しな! コイツの一撃に全員の命運がかかってんだ」
 続こうとした彼を叱咤する。
「そういうわけだからアレだ。ちゃちゃっと頼むよ、魔王様」
「心得た。戰いが罪なれば、俺は勝利を以て裁きを下す」
 意を決したように六枚の翼が顕わになった痩身を捻り、館を指し示すが如く左腕を伸ばした。
「ちくしょう……イヴさんごと撃つ気かよ。何も犠牲になんかしないって言ってたのに…………」
 腑に落ちない面持ちながらも、デアフリンガーは次々と迫る新手を迎撃する。
「――告げる。汝等の滅びを以て」
 冷静に詠唱を紡いでゆく、天の雷の使い手。
「世界を浄化せん」
 閃耀がルシファーの左手に灯り、眼球を灼く程の勢いで膨張してゆく。
「……くそっ、多すぎる!」
 さしものアモンでも、仕留めきれず素通りを許してしまう数は増える一方であった。
「マズい……! デアフリンガーッ!」
 数体が殺到するが、彼が奥義を出し損ねれば次の発動までに持ち堪えられる保証は無いと悟ったか、依然ルシファーを頼ろうとしない少年。
(……アザミ、幸せになれよ――――)
 瞬刻の微笑を見せると、彼はゆっくりと目を閉じた。
「天の――」
 発射に紙一重で先んじて、彼方で流星が煌めいた、と思うや否や――――
「待ったあああああああ!」

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