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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
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              † 二十の罪 “大罪のスペルビア” (前)


「く……ッ!」
 ミカエルの容赦無い反撃。剣戟が断続的に響き渡り、無数の火花が散る。肉眼では捉えきれない疾風怒濤の如き応酬。崩落した館の破片が、吹き荒れる暴風に乗って巻き上げられる。
(……超えたんだ。僕はあなたを超えた……!)
 鬼気迫る剣幕で攻めたてるミカエル。その瞳に、あの日の光景が浮かぶ。行き交って向き直る度に、面前で闇の刃を振るう黒翼の魔王が、世界を別つ決闘の折に刃を交えた先代の大天使長に重なった。
「……目障りだ――消え失せろぉおおおおッ!」
 ミカエルが瞠目して叫ぶと、金色(こんじき)の魔力弾が次々と生じる。ルシファーも紫に煌めく同じ数の魔力弾を展開し、迎え撃った。迸る閃耀。十数の明滅が収まった時には、純白の天使は既に眼前より消えていた。
「だから……消えろよーッ!」
 上空に舞い上がったミカエルは、眼下の魔王に風の刃を叩き込む。なれど、悉くカルタグラに斬り払われた。
「あなたに――あなたに僕の気持ちは分からない!」
 ルシファーの至近に急降下し、喚き散らして突きを連発する。
「分からないだろうな! 一番にしかなったことないあなたには絶対に分からない!」
 目を血走らせて絶叫する現大天使長。横滑りして躱したルシファーに、十数発の魔力弾を斉射する。
「分かってたまるか! いくら強くなろうと最強の兄がいる限り虫けらどもからも不甲斐ないと言われる苦しみは!」
 猛攻を無言でやり過ごす旧大天使長。
「あなたが優しく接してくれることが、嬉しくて切なくて心苦しかった……!」
 端正な面相を歪め、ミカエルは撃ち続ける。
「今なら分かる、自分より劣る哀れな存在と見下していたんだろぉおおッ!」
 数知れない魔力弾がルシファーに殺到した。
「……違う――――」
 沈黙を破り、魔術防壁越しに否定する。
「違わない! 何も知らずにバカにしてるクセに……!」
 眩耀が鎮まるよりも疾く、剣を振り翳して肉迫するミカエル。
「違うと――」
 鍔迫り合いながら、ルシファーは言い聞かせる。
「云っておろうが!」
 押し返されたミカエルが尻餅をついた。雲上に転がる、鞘より出でし剣。
「お前を愛する心に嘘偽りは無かった。家族を慈しむことに理由がいるか」
 真っ直ぐな眼で、弟を見遣る。
「――んでだよ」
 兄を仰ぎ見る両の眼は、憤怒と悲哀に満ちていた。
「なんでそんなに愛してるのに……僕を裏切ったんだぁああああ……!」
 飛び上がるようにして起きると、素手で殴りかかる。肩で息をしながら、倒れた兄を見下ろすミカエル。
「なんでだよ。なんで……なんでだぁあああ――うぶッ!」
 今度はルシファーの拳を合わせられて倒れ込んだ。
「世界の理より、お前を含めた凡てを護る為だ」
「その結果があの暴挙かーッ!」
 殴り返されて膝を突くも、弟を射抜かんばかりの目力は衰える気配が無い。
「世を変えるには力しか無い。戰うより他に術が無かった愚かな兄を怨むが良い」
 魔王剣を消して起立すると同時に、目にも止まらぬ鉄拳をミカエルの脇腹に見舞った。
「ああ恨むさ、大天使長の弟と云うだけで色眼鏡で見られる……!」
 鈍痛で顔を顰めつつも、兄を殴打する。殴り合う新旧大天使長。狂気じみた連打の隙を縫うようにして、ルシファーの迷い無き強打が的確に撃ち込まれた。
「ぐふ……ッ……誰も本当の僕を……見てくれなかった……んだ…………」
 前のめりに沈みゆくミカエル。
「……俺は見ていたぞ。掛け替えの無い家族としてな――――」
 膝より崩れ落ちる弟を抱き止めると、ルシファーは囁いた。

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