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作者: aya ◆jn0pAfc8mM (総ページ数: 23ページ)
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*17*
走って来た信を見つけ、僕たちは一度退散する。
……訳もなく。
凛に連れられ、僕は公園の茂みの中に隠れた。
告白の答えは聞きたいものだが、ここじゃ声は聞こえない。
さすがに2人を邪魔する必要もないだろう。
「で、凛、あれ聞こえる?」
「聞こえる。私もそれなりに気にならない訳でもないからな」
「あんなに遠いのに?」
「能力だ。そんなに聴覚はよくはない」
能力持ち、結構いるもんだな。
珍しいなあなんてのんびりしていると、凛は呟く。
「あ、了承したな」
「そりゃ、よかったじゃん」
「では帰ろう」
「うん……え?」
信や森さんと話して帰ろうと思ってたんだけど。
まあ、そうする理由も特にない。
それに、仲良くしている信たちをからかうような、趣味の悪い事はしたくない。
「バイトするか?」
「いいよ、今日はゆっくりしたい気分なんだ」
僕は2人に気付かれないよう、凛と歩き始めた。
「それで、この道はなんだ」
「ちょっと遠回り。ひまわりでも見に行こうと思って」
媒体を売ってる店も、水着を買ったあの店も知らないが、
僕だってここに12年住んでいる。
この辺の色んな道をまったく知らない、という事はない。
家から公園までの道に、ひまわり畑があることも僕は知っていた。
結構穴場らしく、森さんも知らなかった場所だ。
もっとも僕は、夏にわざわざ公園まで行かない。
一度用事で他のところに行って、通った時に、つぼみを見つけただけだった。
だからひまわりが咲いているところは見ていない。
けれどさっき、他の道を通ったら、ひまわりの花がちらっと見えた。
多分今日は咲いているだろう。
ちょっとばかり、見に行きたくなったのだ。
暑さに溜め息をついていると、
「うわああ……!」
凛の歓声があがる。
前を見れば、そこには満開のひまわりが、辺り一面に広がっていた。
それを映した凛の目が、キラキラ輝く。
「凄い! 綺麗……」
畑に入るのはさすがにためらわれる。
それでもこの綺麗さは、十分といった感じだろう。
眩しいくらいに太陽光を反射するひまわり。
そして凛。
……あれ。
出会った最初は、転入生なんて気にも留めなかったのに。
僕はなんで、凛とここに来たんだろう?
ひまわりが見たかった、だけじゃなくて……
僕は唐突に気付いた。
きっと僕は、凛の事が……?
「亮二、そろそろ行こうか」
「……ん、そうだね。帰ろう。暑いし」
凛はよっぽどひまわりが良かったらしく、上機嫌だ。
僕はそれを見て、始めて自然に笑顔になる事が出来た。