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作者: aya ◆jn0pAfc8mM (総ページ数: 23ページ)
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*5*
「いた……」
息を切らしながらも、僕はやっとそう言う。
草原には、大きな龍。
そいつは毒や炎を吐き散らしていた。
「おい、なんだあの龍! 名前忘れたぞ!」
さすが試験で最下位を突っ走る信である。
「さすがに覚えておこうよ、あれくらい」
「教えろよおいっ」
実は僕も一瞬忘れていたが、確かワームじゃなかっただろうか。
それにしても、S級を発動した魔術師はどこに?
「あいつ、ここからぶっ倒せる?」
攻撃魔術が得意な信に聞いてみる。
少し考えて、信は言った。
「気付いてないから大丈夫じゃねえかな……多分」
「骨は拾ってあげるよ」
「止めろ、治療してくれ!」
回復魔術は僕の得意技。でも、さすがに死んだ人は蘇らせられない。
「ま、頑張れよ信」
「弱点とかあるか?」
「本物は心臓くりぬけばよかったはず。でも幻術だから、
心臓ざくっと刺せれば大丈夫じゃないかな?」
「おう、サンキュ」
信はそう言って、走って行く。
僕はさっきの、S級を使った主を捜す。
いた。
毒が直撃して、消耗してる。
結構厳しいかもしれないな。
でも僕は、2番目に得意な防御魔術に頼る事にした。
「ポイズンガード、ファイアブリック、トランスペアレンシー」
2種類の守りを固め、自分の姿を透明にしてから、
僕はその魔術師を助けに行く。
「おんどりゃあっ!」
信が助走をつけて飛び、龍の心臓をひと突きにする。
凄いなあと感心する暇はない。
龍には、ぐったりしたS級の人も乗っかっていた。
倒れた龍は、召還の契約がなしになって消える。
つまり、落ちて来る訳だ。
「トランスペアレンシー、リフティング。ファスト、ショックミティゲーション」
衝撃緩和の方がなんか良さそうなのは、僕だけだろう。
僕は、落ちて来る彼女……凛を受け止める。
緩和しなくても、その体は恐ろしく軽そうだと思った。
「毒が結構まわってるな……カウンタラクト……ニュートラライズポイズン」
「何かお前って、平然とA級使うよな」
「Sだって、使えない事はないけどね」
「平然すぎるだろ。でも、この転入生、S級使えるのか? レアだな」
「君はもっと驚くといいよ。S級が学校に1人いるのも驚きだし、2人なんて」
「もう慣れた。つーか、お前も驚けよ」
「僕の感情欠如は、君は良く知ってるようだけど」
「ま、そうだな。お前なら仕方ない」
とりあえず、これなら大丈夫だ。
傷も負ってない。
「どうするんだ? 転入生、意識ないみたいだが」
いい加減名前呼んであげようと思わないの? と言おうとして、止める。
信は名前を覚えるのがとても苦手なのだ。
幼馴染みの森さんさえも『委員長』と呼ぶ時がある。
係とかの名前で呼んでいるが、むしろそれを覚えられるなら名前覚えろと言いたい。
「運ぼう」
「ピッキングでもするのか?」
「そんな訳ないだろ。いったん起こして、鍵を開けてもらうんだ」
僕はそう言って、凛を背負おうとする。
「会って1日の美人異性をよく背負えるよな」
と言いながら、信も手伝ってくれる。
「……どうした?」
「凄い軽いんですけど、これ誰か背負ってます?」
思わず敬語になる。
「おう、転入生乗っかってるぞ」
軽い。怖いくらい軽い。
「で、家分かるのか?」
「それは愚問と言うものだよ」
家には、絶対に結界が張ってある。
と言う事は、魔術が使われている訳だ。
すると使用者も分かる。
頑張れば使用者の親族も辿れるので、凛の家を探すくらいお茶の子さいさい。
と言うのを前にも言った気がしたが、分かっていないようすなので説明する。
「あー、そうなのか。じゃあ俺、帰っていいか?」
「いや、一応来て。今みたいな事がないとも限らない」
でも、今みたいな事は結局なかった。
家は凛本人が結界を張っていたので、一瞬で発見。
「アロウズ、……大丈夫?」
「おいそれBのやつか? 元はBのアレンジに見えるが」
「回復と攻撃のランク基準は違うから、威力変えてもランクは変わらないよ」
そんな事を言っていると、凛は起きたようだ。
「……あれ、亮二……と、どなた?」
「俺は久保田信だ」
「僕の1番の親友だよ。で、解毒、大丈夫?」
「解毒って……ああ、ワームに毒撒かれたのか。
へえ、さすが回復『だけ』は得意なだけある」
「えーっと、帰っていいか? 疎外感しか感じないんだが」
「じゃあ信も仲良くすれば?」
「ん、そうだな。よろしく、信」
凛はあっさりそう言った。
「ちなみに凛、信は名前覚えられないから、しばらく転入生とかって呼ばれるけど
我慢してね」
「何言うんだよ……えっと、名前なんだっけ」
「別に構わないぞ。好きにするといいが、いつまでも転入生は微妙だな」
そう言って凛は苦笑いした。
「それくらいなら、体も大丈夫そうだね。
でもしっかり休むといいよ」
「あの毒って、休まないといけないのかよ?」
「解毒魔術使っても、全部取れる訳じゃないからね、自然に頼るしかないよ」
「分かった。早く寝る事にする」
凛は家に入る。
「じゃあまた、だな。信、亮二」
「じゃあね、凛」
「また明日、転入生」