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無表情な美人転入生と僕の話
作者: aya ◆jn0pAfc8mM  (総ページ数: 23ページ)
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10~ 20~

*5*


「いた……」

息を切らしながらも、僕はやっとそう言う。

草原には、大きな龍。

そいつは毒や炎を吐き散らしていた。

「おい、なんだあの龍! 名前忘れたぞ!」

さすが試験で最下位を突っ走る信である。

「さすがに覚えておこうよ、あれくらい」

「教えろよおいっ」

実は僕も一瞬忘れていたが、確かワームじゃなかっただろうか。

それにしても、S級を発動した魔術師はどこに?

「あいつ、ここからぶっ倒せる?」

攻撃魔術が得意な信に聞いてみる。

少し考えて、信は言った。

「気付いてないから大丈夫じゃねえかな……多分」

「骨は拾ってあげるよ」

「止めろ、治療してくれ!」

回復魔術は僕の得意技。でも、さすがに死んだ人は蘇らせられない。

「ま、頑張れよ信」

「弱点とかあるか?」

「本物は心臓くりぬけばよかったはず。でも幻術だから、

心臓ざくっと刺せれば大丈夫じゃないかな?」

「おう、サンキュ」

信はそう言って、走って行く。

僕はさっきの、S級を使った主を捜す。

いた。

毒が直撃して、消耗してる。

結構厳しいかもしれないな。

でも僕は、2番目に得意な防御魔術に頼る事にした。

「ポイズンガード、ファイアブリック、トランスペアレンシー」

2種類の守りを固め、自分の姿を透明にしてから、

僕はその魔術師を助けに行く。


「おんどりゃあっ!」

信が助走をつけて飛び、龍の心臓をひと突きにする。

凄いなあと感心する暇はない。

龍には、ぐったりしたS級の人も乗っかっていた。

倒れた龍は、召還の契約がなしになって消える。

つまり、落ちて来る訳だ。

「トランスペアレンシー、リフティング。ファスト、ショックミティゲーション」

衝撃緩和の方がなんか良さそうなのは、僕だけだろう。

僕は、落ちて来る彼女……凛を受け止める。

緩和しなくても、その体は恐ろしく軽そうだと思った。


「毒が結構まわってるな……カウンタラクト……ニュートラライズポイズン」

「何かお前って、平然とA級使うよな」

「Sだって、使えない事はないけどね」

「平然すぎるだろ。でも、この転入生、S級使えるのか? レアだな」

「君はもっと驚くといいよ。S級が学校に1人いるのも驚きだし、2人なんて」

「もう慣れた。つーか、お前も驚けよ」

「僕の感情欠如は、君は良く知ってるようだけど」

「ま、そうだな。お前なら仕方ない」

とりあえず、これなら大丈夫だ。

傷も負ってない。

「どうするんだ? 転入生、意識ないみたいだが」

いい加減名前呼んであげようと思わないの? と言おうとして、止める。

信は名前を覚えるのがとても苦手なのだ。

幼馴染みの森さんさえも『委員長』と呼ぶ時がある。

係とかの名前で呼んでいるが、むしろそれを覚えられるなら名前覚えろと言いたい。

「運ぼう」

「ピッキングでもするのか?」

「そんな訳ないだろ。いったん起こして、鍵を開けてもらうんだ」

僕はそう言って、凛を背負おうとする。

「会って1日の美人異性をよく背負えるよな」

と言いながら、信も手伝ってくれる。

「……どうした?」

「凄い軽いんですけど、これ誰か背負ってます?」

思わず敬語になる。

「おう、転入生乗っかってるぞ」

軽い。怖いくらい軽い。

「で、家分かるのか?」

「それは愚問と言うものだよ」

家には、絶対に結界が張ってある。

と言う事は、魔術が使われている訳だ。

すると使用者も分かる。

頑張れば使用者の親族も辿れるので、凛の家を探すくらいお茶の子さいさい。

と言うのを前にも言った気がしたが、分かっていないようすなので説明する。

「あー、そうなのか。じゃあ俺、帰っていいか?」

「いや、一応来て。今みたいな事がないとも限らない」

でも、今みたいな事は結局なかった。

家は凛本人が結界を張っていたので、一瞬で発見。

「アロウズ、……大丈夫?」

「おいそれBのやつか? 元はBのアレンジに見えるが」

「回復と攻撃のランク基準は違うから、威力変えてもランクは変わらないよ」

そんな事を言っていると、凛は起きたようだ。

「……あれ、亮二……と、どなた?」

「俺は久保田信だ」

「僕の1番の親友だよ。で、解毒、大丈夫?」

「解毒って……ああ、ワームに毒撒かれたのか。

へえ、さすが回復『だけ』は得意なだけある」

「えーっと、帰っていいか? 疎外感しか感じないんだが」

「じゃあ信も仲良くすれば?」

「ん、そうだな。よろしく、信」

凛はあっさりそう言った。

「ちなみに凛、信は名前覚えられないから、しばらく転入生とかって呼ばれるけど

我慢してね」

「何言うんだよ……えっと、名前なんだっけ」

「別に構わないぞ。好きにするといいが、いつまでも転入生は微妙だな」

そう言って凛は苦笑いした。

「それくらいなら、体も大丈夫そうだね。

でもしっかり休むといいよ」

「あの毒って、休まないといけないのかよ?」

「解毒魔術使っても、全部取れる訳じゃないからね、自然に頼るしかないよ」

「分かった。早く寝る事にする」

凛は家に入る。

「じゃあまた、だな。信、亮二」

「じゃあね、凛」

「また明日、転入生」

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