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無表情な美人転入生と僕の話
作者: aya ◆jn0pAfc8mM  (総ページ数: 23ページ)
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10~ 20~

*8*

「媒体って、何なんだろうね」

僕はその道中、ふと言う。

「何だ、いきなり」

「いや、ちょっと気になって」

「まあ、気持ちは分からんでもないな」

凛はそう言い、少し微笑む。

あまり笑うところを見る事がないので、結構レアな微笑みだった。

「凛はどう思う?」

「そんな話をしていたら、きっと日が暮れると思うぞ。

色々な自然現象で力が生まれたりして、

それを集める機械がたまたま開発出来たって言う話で十分だろう?」

「十分じゃないよ。あの『7年前の奇跡』が関連ない訳ないじゃないか」

『7年前の奇跡』と呼ばれる謎の現象。

それは眩い光とともに、数々の有名な科学者を『消した』。

僕の両親も、それによって消えたのだ。

あの時を見て、唯一生き残った人間と言われる僕は、

その中の事を大人達に一生懸命になって説明した。

しかし、たった5歳の言葉は、あまりにも非現実じみて、誰も信じてくれなくて。

僕がそれを見た事実は、いつの間にか消えていた。

その生き残りが僕だなんて、誰も覚えていないのだ。

「……ああ、そう言えば、亮二は生き残りだったか」

と思っていたけれど、凛は事も無げにそう言った。

「知ってる人がいるなんて、驚きだよ」

「ん、言ってなかったか。私はアメリカで、あの奇跡について調べていたのだ。

それくらい常識で、知ってて当然だ」

「そっかあ」

僕もずっと、7年前の奇跡について調べていた。

他にもあれについて調べてくれる人がいたなんて、始めて知った。

僕の調べた結果をまとめていたら、一瞬真実を見たような気がしたが、

それは僕の見たものよりずっと現実感がなかったので、信じていない。

「で、その結果は何なのさ? 何か分かった事はあった?」

「どうだろうな。その辺は秘密だ」

くすり、と凛は笑う。

どのような声にしろ、凛が声を出して笑うのを見たのは始めてだった。


「っと、ここ曲がって……ああ、ここだ」

「……こんなところ?」

僕は顔だけ、少し平然を装ってみる。

細い道の、小さな店。

入り辛いが、凛がさっさと入ってしまうのでついて行く。

「あらあら、凛ちゃんじゃないの!」

店の中には、椅子が3脚、カウンター、その奥に無数の段ボール箱。

そこから、おばさんが出て来た。

「お久しぶりです、佐和子さん」

何度聞いても凛の敬語に違和感がある。

「久しぶりねえ。日本でも使ってくれるなんて、嬉しいわあ。

あら? そこの子って……正治くん? 大きくなったわねえ」

正治は、僕の兄だ。

よく顔が似ていて、勘違いされる事がある。

「初めまして、僕は正治の弟で、須田亮二です」

勘違いされたままは嫌なので、一応挨拶する。

「ああ、弟さん! 話は聞いてるわあ。

正治くんたまに来た時、凛ちゃんか亮二くんの話ばっかりだったし」

「そうなんですか」

恥ずかしい話とか聞いてたりするのだろうか。

「佐和子さん、媒体ください」

「そうね、買いに来たのよねえ」

と言って、その佐和子さんと言うおばさんは僕の方を向いた。

「何か希望はある?」

希望? 機種名とか知らないけど。

「今使ってるのとか、好きなメーカーとかあるか?」

あ、やっぱりそう言う意味か。

「いや、特に。おすすめ的なものでいいです」

「そうねえ。あれ、亮二くんは回復が得意なのよね?」

「あ、はい」

「もう試験だから、試験用も欲しいわね」

「試験用なんてあるんですか?」

「あるわよお。ランクはいくつ?」

「Bです。あ、回復はSの魔術も使えますけど」

「そうねえ……」

と首を傾げ、佐和子さんは奥から箱を1つ持って来る。

「ならこれとこれかしら」

「えっと、使ってみてもいいですか?」

「いいわよ」

中学卒業前の魔術師は、授業を除きD級以上の魔術を使ってはいけない。

僕はどこかの授業で聞いた話を思い出し、媒体を持って小さな炎を作った。

……おー、凄い。

使い心地よすぎる。

「えっと、値段は」

「1万! なんだけど正治くんの弟なら半額で5000円で」

媒体の通常価格は、大体3000円ほど。普通のもので最高金額は、6000円もないだろう。

1万とは少し高いが、5000円ならまあ高い程度。

結構使っちゃったなと頭をかきながら、僕は財布から五千円札を出す。

凛も隣で、6000円を出していた。

「ありがとうねえ」

帰ろうとする僕たちを、ほくほく顔で見送る佐和子さんだった。


「そう言えば、礼を言っていなかったな」

「何の礼?」

「龍に襲われたときの礼だ。欲しいものはあるか」

「別にいいよ」

と断る僕だが、凛は、

「1万円あればいいか?」

と言って財布を取り出している。

僕はふと思い出して、その1万円をもらうと、

自分の財布から5000円を出した。

「媒体を買ってもらった、でいいかい?」

「ふむ……それで満足だと言うなら、仕方ないな」

凛は僕の持っている五千円札を手に取った。

「あ、そうだ、食事でもおごるか?」

「いや、もう作ってあるから大丈夫だけど……」

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