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Episode12 『狂 -CrazY-』
9月12日(水)12:15/藤貴 杁夜
腹が減った。
そう感じてしまうのは時間的、運動量的に仕方がないことだと僕は思う。なにせ僕は普段、外よりは内の方が好きな人間だ。そして家でぼーっとして過ごすのが好きなのだ。
そんな僕が午前中ずっと校舎内を歩き回って殺しにあくせくしていたら、朝に食べたパンだけでは身が持たないだろう。
とりあえず購買に行ってみることにして、階段に向かって歩き出した。普段は食堂で食べるけど、先生がいないってことは食堂にいるはずの大人達もいないと思うから、今日は購買で済ますことにしよう。
……僕のいる一年A組の教室から、一階の購買に行くまでには、どれだけの人に会うことだろうか。できるなら、食事前に人殺しは避けたいなぁ。
ふと、メールボックスを開いてさっき届いた“ゲームマスター”からメールを見てみる。そこには、《狂楽者(パラダイス)》の文字。
「狂……。狂ってる、かぁ……」
僕は狂っているのだろうか? 僕はただ、自らの好奇心を満たすために殺しをしていただけだと言うのに。
僕は人殺しが嫌いだ。最低だと思う。……だけど、あいつらは僕には出来ない事をやってのける。
法律を恐れないあいつらが怖い。
少なくとも僕にはそんなこと出来ない。だって、そんなことしたら本当に誰もいなくなってしまう。父さんや母さんまで、僕から離れてしまうじゃないか。
ただ、ここなら裁かれないから、好奇心に負けて一回だけ殺ってみただけだ。それが、いつの間にか止まらなくなっていたわけだけど。
向かいの校舎で、二人の男子生徒が歩いているのが見えた。一人はおとなしそうなやつで、もう一人は金髪のいかにも不良といった感じの一年生だった。
……あいつどっかで見たことある、ような。
同じ学校の生徒だ。もちろんすれ違ったあいつのことを覚えていた。という可能性は十分にある。が、なにか違うのだ。例えば、大きな事件に巻き込まれていた、とか、こいつが加害者そのものだ、とか。
まあ、きっと何かあるのだろう。あの容姿からして、厄介事とは無縁の生活なんざ送ってないだろうし。
階段を降りてしばらくまた歩くと、学食の手前にあるパンやらサンドウィッチやらが売られている小さな空間にたどり着いた。本来は違うけれど、生徒達の中では『購買』と呼ばれている。
みんな警戒しているのか、誰の姿もなかった。やはりというか、購買にはいつもいるはずのおばちゃんたちの姿もない。
テーブルの上には、たくさんの惣菜パンや菓子パンが並んでいた。それと、『ご自由にお取り下さい』のパネル。さすが夢の世界といえる。僕はそこから、焼きそばパンとメロンパンを手に取った。
それから、近くの自動販売機でお茶を買って、早々にここから立ち去ることにした。もしかしたら、誰かが来てしまうかもしれないし。
そしてまた一年生のフロアに居ようと階段を昇り始めたとき、後ろに人の気配を感じて振り返った。
案の定、食堂か購買に向かうであろう女子生徒が、その廊下を通っていった。栗色の髪を持つその娘の手には短機関銃が握られて、攻撃的な姿勢がうかがえた。
あぶないあぶない、とそう思いながらなるべく音を立てずに階段を上がっていった。
たどり着いた一年A組の教室。ここは誰もいなくて一人になるには絶好の場所だった。だから、お昼はここで食べようと思っていた。のに――
あーあ、また殺っちゃった。食事前だったんだけどなあ。
でもあの娘たちが悪いよね。……僕の居場所だったのに。
やっぱり僕は、狂っているのかもしれない。