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ナイトメア・サバイバル
作者: Kuruha ◆qDCEemq7BQ  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ:  学園 殺人 
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10~ 20~ 30~

*27*

Episode25 『過去 -IriyA-』
 2009年6月30日(水)14:37/藤貴 杁夜


「ほら、また100点だってよ。これで全教科満点」

「こわっ。オレ中学あがってから100点とか取ったことねーし」

「それはお前がバカなんだよ。小テストくらいなら100点とれんだろ。……それにしても、定期テストはなぁ」

 聞こえてくるのは僕に対する侮蔑の声。

「完璧だよな、あいつ。……気持ち悪ぃ」

 別に、100点を取るって普通のことじゃないのか?

 回りは僕を“神童”だの“天才”だの言うけど、僕にとっては当たり前のことを当たり前にやっているだけだ。

 方法がわかればなんでもできる、コツさえつかめばすぐ得意になる。

 そんな態度が気に食わなかったのか、もてはやす大人とは裏腹に、子供たちは僕に関わろうとはしなかった。いつも遠巻きに、文句を垂れるだけ。

 だから学校では、いつも独りだった。

 しかしそれでも、一人だけは僕と遊んでくれていた。




「杁夜ー。ゲームしにきた」

 放課後、いつものように、侑馬が家に来た。僕より一つ年下だけど、家が近所だったから幼い頃から仲がよかった。

「そういや、杁夜はテスト合計何点だった?」

 コントローラーを動かしながら、聞いてくる侑馬。僕はそれに「500」と短く答えた。

「やっぱ凄いなー、杁夜は。……あぁーっ!! ……また負けた。ほら、こうやってゲームも上手いしさ」

 侑馬は僕の点数を聞いても何も言わない。ただ「凄い」とだけ、僕を褒める。

「そういう侑馬は?」

「んー? 352」

「もうちょっと頑張れよ……」

「平均いってりゃ、俺は満足なんだよっと」

 そう言って、侑馬はコントローラーを操作しはじめた。CPUと対戦するらしく、僕はコントローラーを手放してそれを見学していた。

 一般的な目線から見たら、侑馬は十二分にゲームが上手い。今だって、強設定にされているCPU相手に楽勝しそうだ。

 それでも、僕を負かすことはできない。僕からすれば、隙だらけにしか見えないし。

「よっしゃ勝ったぁっ」

 ガッツポーズを取る侑馬に向かって軽く拍手を送る。ペチペチという乾いた音が部屋にこだました。

「さあ杁夜、もいっかい勝負だ! 手加減すんなよ」

 笑顔を向けてくる侑馬に、僕は「ああ、負けても知んねーぞ」と返事を返し、再びコントローラーを握った。

 僕にこんな純粋な笑顔を見せてくれるのは親と侑馬くらいだ。大人は何考えてるかわからないし、子供は僕に近寄らない。

 この状況が幸せなのが不幸なのかはわからないけど、少なくとも親友と呼べるやつがいて、そいつと遊んでられる今はとても幸せだった。



 2010年12月26日(日)10:45/藤貴 杁夜


 その知らせは、あまりに突然だった。

「え、そんな……。侑馬くんが……?」

「なに? 侑馬?」

 一階に降りると、受話器を握る母さんの蒼白な顔が目に入った。

「あ、杁夜……。あのね、落ち着いて聞いてね。……侑馬くんが、死んだって……」

「……は?」

 信じられない。

「昨日、路上で倒れてたって。誰かに……、殺されたらしいわ」

 え、ちょっとまて。殺された? 侑馬が? 誰に?

 脳みそがどうにかなりそうだ。情報処理がまるで追いついていない。

 そのとき、右手に握られていたケータイから簡素な着信音が流れ始めた。この音は、メールだろうか。

 メールの送り主は侑馬の彼女とこの前紹介された我妻ちゃんからだ。

『From:我妻 叶葉
 Subject:どうしよう
 ―――――――――
 侑馬が・・・
   ---END---   』

 この娘も、相当動揺しているらしい。主語しかないじゃないか。……事情を知らなければ、なにが言いたいのか伝わらないような内容だが、それでも僕は十分に理解することが出来た。

 僕は短く、『落ち着いて』と返信してから、ソファに寝転んだ。

 不思議なことに、涙は出ない。……きっとまだ、信じられていないからだ。

 考えたこともなかった話だ。僕の周りの誰かが死ぬとか。――殺されるのは、僕の方だと思っていたくらいだ。僕と違って、侑馬は誰の恨みもかうような奴じゃなかったのになぁ。




「なあ、藤貴。年末にこの近所で起こった事件の被害者って、もしかしてお前が言ってた――」

「うるさい」

 新学期、友達とも呼べない、普段話すことの少ないクラスメイトに話しかけられたかと思いきや、やっぱりその事を聞きに来たのだった。

 僕はすっかり、他人と関わるのが億劫に感じるようになっていた。

 みんなは中々来ない。僕からも全く行かない。

 高校に進学しても、やっぱり同年代の反応は似たようなものだ。それでも、いくらか学力のふるいにかけられた人間が集まっているから、多少はマシになったが。

 この高校に進学したのは、侑馬と同じ学校に通いたいと思ったからだ。中学の先生には、「もっと上の学校へ行け」と言われたが、近所がいい、県立がいいと言って、制止を振り切って入学したのだ。

 ……まあ、もう意味なんてなくなってしまったが。

 我妻ちゃんとは、多少連絡をするものの、侑馬の居ない今、ほぼ他人と言ってもいいほど関係は希薄になっている。それでも、この坂城高校に進学するそうだ。その内、また会うだろう。




 僕は独りだ。

 大人の目は優しいが、怖い。

 子供の目はただただ怖い。

 唯一の親友はもういない。

 信用できるのは両親だけ。

 だけど、親はそういう括りに収めるような間柄じゃない。

 やっぱり独りだ。

 それに、これ以上誰かと仲良くして、何かを失うのは怖い。

 失いたく、ないよ。

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