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Episode26 『鬼ごっこ -TaG-』
9月12日(水)14:05/我妻 叶葉
「安心して。東郷は必ず、殺すから」
死ぬ間際の久留米に向かって、そう言い放った。それが私の願いだ。別に、久留米の為じゃない。
それを知ってか知らずか、わかったようにふっ、と鼻で笑って、久留米はそのまま息絶えた。
『お疲れ様。ここまで残ってくれた者達よ!』
それを遮るように流れ始めた子供の声。
ふざけているにも程がある。こんな幼い男の子のような声をもつ存在が、神だなんて。
9月12日(水)14:35/我妻 叶葉
「さっきの放送で聞いた時はすっかり女の子かと思ってたよ。ごめんね? アイちゃん」
久しぶりに見る先輩は、前よりずっと飄々としていた。まるで、上辺だけは明るく振舞おうとしているみたい。
アイちゃん、なんておちゃらけたように藍を呼んでいるが、私たちを見る目は私たちじゃない空虚を見ているようだ。……私より、侑馬を失った影響は強いらしい。
「さて、我妻ちゃんは見つけた? 拳銃」
そう聞く先輩に、私はさっき見つけた拳銃を見せた。先輩は少しほおを緩ませながら、「じゃああと30分近く暇になったったねー」と言った。
「なにをしようか?」
と、その時――
『あぁあぁ、もう暇! みんなすぐ見つけちゃうんだもん!! つまんないよっ』
そう、スピーカーから声が漏れ出してきた。この声は、あの子供の声だ。
『それじゃあ、残りの30分で、第三ラウンド、というより、ちょっとした余興をしよう』
そういう神の声は、とても楽しげだ。
『これからしてもらうのは、鬼ごっこ。校舎内にいるボクの分身――みんなが、“ゲームマスター”といっているやつを捕まえることが出来たら、君たちの勝ちだ。そのときは……そうだなぁ、全員の願いを叶えてあげる。だから、11人総がかりで追っかけていいよ。絶対捕まらせないけどねっ!』
必要なら、武器はその銃を使ってね。無駄だろうけど。と付け足して、放送は途切れた。それと同時に「いたっ!!」という大声が聞こえる。
振り返ると、三年生の女子が、黒いローブを被った人を追っかけていた。銃を構えているが、走っているせいかブレてうまく照準を合わせられないでいるようだ。
私たちも追いつくべく走るが、二人のペースは相当速く、私たちでは追いつきそうもなかった。
あげく、階段を降りてしまった。これでは、どこにいったかわかりづらい。
「先回りしよう。こっち!」
逆方向にある階段を指差しながら、そう藍は私と先輩を促した。反対する気はない。いそいで階段を駆け下りた。
降りてそのフロアを見渡すと、ちょうど向かいから、黒いローブを纏った人が走ってきた。さっきまで追っていた先輩は、途中で力尽きたかもういなかった。
私たちは各々拳銃を構えて、迎え撃とうとする。
藍が自分の“意思”で誰かを傷つけるのは初めてだ。震えているのが気配でわかる。私は「大丈夫。やつは人間じゃない」と言って藍を諭した。効果があるといいのだが。
そして、発砲音が三発鳴り響いた。が、
「えっ、どうして!」
確実に、当たったはずだ。なのに、奴は止まらず走ってくる。“ゲームマスター”は、私たちを尻目に、また階段を下りていった。
私と藍の間を通り過ぎる瞬間、見えた顔は若い男のようだった。
「あ……」
「どうしたの? 藍」
その顔を見て、呆然とする藍。信じられない、といいたげな顔をしている。
「東……郷……?」