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Episode4 『術 -RulE-』
9月12日(水)09:40/秋笠藍
あのあと、俺はクラスメイトから昨日に見たという夢のことを聞いた。曰く、カミサマが暇潰しに俺達を使おうとしていると。――ふざけんじゃねぇ。
案の定、大抵の人間が殺そうなんてしなくて、せいぜい嫌いな奴を殺すくらいで。……それでも、確かに殺し合っているのは確かだ。
俺みたいな殺し合いに積極的でない連中は体育館に集まっていた。だいたい生徒の五分の四くらいがここにいる。
「なんなんだよ殺し合いって。わけわかんねぇだろ」
俺のそんなつぶやきに、隣にいた国吉が反応してきた。
「だよな。……神様って案外適当なのなー」
「なんでだよ?」
「だって、オレたちに殺すメリットなんてないじゃん? いや、願いが叶うってのは魅力的だけどさ」
何でもひとつだけ願いが叶う、らしい。最後の一人まで生き残れば。
「でもそれだって、最後まで死ななきゃいいんだろ? 別に一番殺したやつじゃあない」
確かに。神様はそんなこと言っていたなんて聞いてない。
「だったら、ここで安全に終わるまで待ったほうがよくね?」
「そうだな。――あぁでも、これっていつ終わるんだ?」
『終ワリナンテ、アリマセンヨ。一人ヲ決メルマデハ、ネ』
「!?」
「? おい、どうした? 秋笠?」
脳に直接声が響いてくるという謎の感覚。それはさっき放送て聞いたあの声だった。
いきなりなんの前振りもなしに驚いた俺の顔を国吉が心配そうに覗いてくる。
「大丈夫だよ。ただ、いきなり声が……」
『コンバンワ。ミナサン』
今度は今朝と同じくスピーカーからの声だ。じゃあさっきのは俺の問いに答えてくれたというのか。
それと、今朝もそうだったが朝なのに『コンバンワ』って……。
『神ハ大変退屈ナサレテオリマス。“何故大多数が殺さないのか”ト。……何故デショウカ?』
国吉が「そんなのメリットがねぇからに決まってんだろ!」と叫んだ。
『ナルホド。願イガ叶ウカラ、ジャ満足イキマセンカ?』
いくわけがない。そんな小さすぎる希望に命をかける気にはなれない。それに、生き残るのに殺す必要なんてない。
『ココデ死ンデモ現実ノアナタ方ハ死ヌコトハアリマセン。ワタシハ一言モ死ヌナンテ言ッテマセンヨ?』
マァ、罰ゲームノヨウナモノハアリマスガ。と、奴は笑った。
『コノ世界デ死ヌト、アナタ方ノ一番大切ナモノヲ失クスコトニナリマス。ソレガ何ナノカハ、ソノ方次第ナンデスガ。ソシテ、殺ス意思ノナイ方ニハ、強制退場シテモライマス』
「……なんだそれ、死ぬよりひでぇじゃねぇか!!」
国吉の叫びがこだまする。「それなら、本当に死んだ方がマシだ……」泣きそうな声で、国吉は言葉を繋ぐ。
殺さなければ、強制退場――死。死ねば、大切な何かを失う。……残酷すぎる。
『ダカラ、十一人ニ残ル必要ガアルンデスヨ。ソウスレバ、アナタハ何モ損ナワズニ済ム』
「……だってよ、秋笠」
「国吉?」
今度はこっちが心配になって国吉の顔を覗き込む。とても悔しそうな顔をしていた。
「オレのさ、大切なもの。……“人”だったら、どうする?」
人? ――もし国吉がここで死んだら、それが失われる。……それって。
「オレは現実に還れても、あいつは? 向こうで、死ぬんじゃないのか? 俺と違って、本当に」
じゃあ死ねねーじゃん。と、国吉は薄く笑った。
「おい“ゲームマスター”! 本当に生き残ればあいつは殺さないんだろうな!?」
『エエ。モチロン』
その返答を聞いて、国吉は体育館の外へ向かって歩き出した。
「じゃあな、秋笠。そんなわけで、やらざるを得なくなったわけだ。お前も頑張れよ、せいぜい十一人には残ってくれ」
「……ああ、お前も頑張れよ。その大切な人の為にも、死ぬんじゃねぇぞ」
そういって、見送った。が。
バンッ
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下。そこには、赤い血溜まりの中心で倒れている国吉の姿があった。