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*22*
――――……ザッザッザッ……。
兵士に囲まれて1つの馬に2人乗るのはアギトとリリアだった。
城下の見回りのために2人はここで見回りをしていた。
そんな2人のもとへ、オレンジ色の長髪で緑色のリボンで一つに結っている、紫色の瞳の少女が駆け寄ってくる。
「リリア様。……そして我が王よ。こちらの見回りには何も異常はありません」
「お疲れ様です。カヤル」
「お前も相変わらずだな……」
笑顔で微笑むリリアと対照的にアギトは明らかに自分に対するカヤルの視線が鋭いのを即座に感じ取ると苦笑いした。
彼女はカヤル・ミーシャ。ヴィーナス出身でリリアがまだ故郷にいた時の彼女の側近であり、リリアに絶対忠誠を誓っているが彼女が戦略結婚に行く時にカヤルも側近として着いて来ていた。
アギトとリリアが結婚してに間もない頃に『リリア様を傷つけたら殺す』とアギトに言っているも彼に対しても何故か忠誠を誓っているので裏切るようなまねはしないであろう。彼女もアギトに授かった「千年腕輪」の持ち主だった。
「今日も異常がなくて一安心です。民も幸せに暮らせます…」
「じゃあ、今日はもう帰るぞ」
「…我が王よ、そしてリリア様。あれは…!?」
目を見開いたカヤルが指差す方向を2人はあわててみる。
「どうしたのですか、カヤル。…ッ!」
「なんだあれは…!死体か…!?」
そこには、ピラミッドの時と同じ、粘土のような死体のようなものがまた蠢いていた。しかも、その視線は明らかにアギトたちのほうを向いている。
それを察知したカヤルは素早くリリアたちの前に武器を構えて出る。
「…お逃げください、リリア様、我が王よ…!」
「部下を差し置いて逃げる王がどこにいるんだ。オレもやるぜ」
しばらくカヤルはアギトをにらむように唇をかんでいたが、彼の戦闘力も知っているので、否定的なまなざしを向けることはやめた。
きがつけば、その状態に気が付いた民衆たちは悲鳴を上げて戸惑っている。
「…私が兵士や民たちの指揮を執ります!」
「!?リリア!?」
「リリア様!?」
突然、リリアは何かに気が付いたように走り出した。そんな彼女に対応ができず、2人は戸惑いながら死体と戦っていく。
「……!!」
「危ない!」
リリアは赤いマントを羽織った男を突き飛ばす。そう。リリアが走った理由は男が死体の1人に襲われかけられていたからだ。
「…お怪我は…ありませんか?」
「…ねーよ。つーか、触んな」
「怪我が…」
「おい…!」
ぶっきらぼうに言う男に気にせずにリリアは男の腕に会った切り傷に気が付き、自らの能力で治していく。
そしてあっという間に男の傷は治って行った。
「…傷が…」
「少し怪我はなされたものの、何事もなくて幸いです。ご存じないとは思います、リリア・ヴァ―ジナスと申します。それでは、急いでおりますので失礼しますね」
リリアは優雅にドレスの裾を持ち上げて足早にその場を歩いて行った。
男はしばらくその後ろ姿を見ていた。
「…知ってるぜ。お前は御妃様なんだからよぉ……」
そう言って男は狂気じみたように笑っていた。
まるで、標的の獲物を見つけたかのように。
そんな男のマントの端々には豪華な宝石が無造作につけられてあった。