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吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 119ページ)
関連タグ: ファンタジー 吸血鬼 オリジナル 恋愛 
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*102*

「フレル長官、その神は重要な報告書ではないのですか?」
 大きく踊る炎の中に数枚の紙が音を立てて燃える。びっしりと並んだ文字には詳細にナイトのことがつづられていた。
「別にいいのよ。彼はそんなに国にとって害ではなさそうだし、イケメンよ? イケメンを売るような真似できないわ」
 フレルは妖艶な笑みを浮かべて炎の中を見つめた。そこにはもうちりと化した、ただの灰しかのこっていない。
「国王へはどんな報告を?」
「適当にあしらっとけばいいのよ。彼は別に異常な部分はありませんでしたーって。多分大丈夫よ」
「その多分はかなり危険だと思いますが……」
 あまりのどうでもよさげな態度にため息が出そうになる。けれど今回、キャッツは改めてフレルを見直していた。
「そういえば長官、ルリィさんの首につきつけたあのナイフ、あれって切れないナイフですよね。刃が錆(さ)びていましたし。最初からルリィさんを傷つけるつもりなんてなかったんじゃないんですか?」
「そんなことないわよ。そりゃあもう、切れ味抜群で肉の塊もすぱっと切れちゃうんだから」
「じゃあ、ちょっと林檎を切りたいので貸してくれませんか」
 へらっと笑って否定するフレルに対してキャッツは静かな目で林檎を取りだす。それにフレルは一瞬眼を泳がせた。
「あれー? さっきの洞窟崩壊で落としちゃったみたい。持ってないわ、残念。でも林檎は丸かじりが一番……」
「いつもは綺麗に食べたいとか言ってますよね? まあ、いいです。丸かじりさせてもらいます」
 フレルの言葉を遮って首をかしげるとフレルはあははと乾いた笑みを浮かべた。やはり切れないナイフだったと確信を得つつ、キャッツは赤く熟れた林檎を口に運ぶ。それを見つめるフレルをキャッツはしっかり横目で見ていた。
「欲しいですか?」
 フレルの大好物が林檎だと知りつつ意地悪に目の前で食べる。フレルもすぐにキャッツの悪戯だと気づいて頬を膨らませた。
「キャッツちゃんの意地悪」
「仕方がないですね。はいどうぞ」
 そっぽを向いていじけるフレルにキャッツはもう一つ林檎を差し出した。
「っ、二つ持ってたの!?」
「あれ? いりませんか」
「いります」
 隠されそうになる前に素早く林檎をいただくフレルにキャッツはくすりと笑った。それをフレルは驚いたように見つめる。すぐにいつもの無表情に戻ったキャッツを観察しつつ林檎にかぶりついた。
 林檎を食べるフレルの頬は微かに林檎と同じ色をしていたそうだ。

 月はだんだん丸く満ちていき、完全にその姿を取り戻すまであと七日。月が姿を取り戻したとき、400年のときを経てエスプルギアの夜がよみがえる。

(4章 終わり)

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