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*82*
ポツリポツリと水滴が上から降ってくるが雨が降っているわけではない。これは洞窟の上面を伝って落ちてくるのだ。
「冷たいな」
落ちてくる水滴を掌に受けるとひんやりとした温度が伝わってきた。ナイトは少し洞窟を見渡すと奥へ進んでいく。
前ではフレルとキャッツが道案内のためライトをかざしながら進んでいた。
「ここは古くからある洞窟でね、この辺に住んでいる人でも一度迷ったら出られないなんていうほど難解なルートになっているの。だから極端なことがない限りここのは人は入ってこないわね。まあ、鼻が利いて出口が分かる狼なんかは住処にしちゃうけど」
怖い怖いとわざとらしく肩をすぼめる。そんなフレルを冷めた目で見て、キャッツはもう一度作戦の内容を確認した。
「まず第一段階は狼の居場所まで行きます。私の耳は人より良く聞こえますので狼の鳴き声があればすぐわかります。今現在でも狼の遠吠えが聞こえてきますので。なので第一段階は確実にできます」
自慢することもなくキャッツは迷いなく洞窟を進む。ナイトも耳を立てて音を拾おうとしてみたが聞こえるのはしめった足音と話声だけだ。
「次に第二段階ですがこれはちょっと難を強いられます。ナイトさんにはその黒い容姿と共に耳をつけてもらって狼に仲間意識をしてい貰います」
キャッツは黒くとがった耳を手渡した。ナイトは何か言いたそうな目で耳を受け取り困った顔をする。
「やっぱりつけなきゃダメか?」
黒い耳はきっと自分の黒い髪につけたら同化してしまうと思うが、ちょっとだけ勇気がいる。この場にルリィがいたら面白そうな顔をしていただろう。
(よかった、ルリィがいなくて)
キャッツは有無を言わせない顔で無言の肯定を示す。しかたなくそれを手に握りしめ狼に出会うぎりぎりまではつけないことにした。
「第二段階が成功しましたらナイトさんには狼を油断させてもらいます。そこはナイトさんが考えて動いてください。その隙に私か使えるか分からない長官が麻酔銃および強力防犯ネットを撃ちます」
作戦は簡単であり、難しくもあった。そしてなんだか大雑把な部分も多々だ。
(どうにかして油断させろって、そんな無茶苦茶な……)
耳といい作戦といい、今回は精神的に大変そうな気がした。
「そろそろです」
キャッツが告げるとその場にいる全員の気が引き締まったように静かになった。慎重な足どりでキャッツは前に進む。ナイトも少し抵抗があったが耳を頭につけた。
「あそこの奥に気配があります」
キャッツは二手に分かれている道の一方を指さした。その奥にはなんだかもやもやした影がある。ナイトはそっとそちらへ近づいていく。その瞬間背後で大きな音がした。
「なんだ!?」
作戦の不具合が起こったのかと背後を振り向くと、見事な檻がフレルたちとナイトの間にへだっていた。状況の確認をするようにフレルのほうを見やると、フレルは優雅に手を振っていた。
「ナイト君、ごめんねー? 今回の狼捕獲作戦は表向きっていうかついでで、本命はあなたなの」
まるでいたずらが成功したような顔でナイトを見つめる。その隣でキャッツは何も知らなかったように目を見開いていた。
「何をやっているんですか、この馬鹿長官! こんな作戦は知らされていませんし、あの奥には狼がいるんですよっ!?」
フレルの胸倉に掴みかかるような勢いでキャッツは攻めりたてる。しかしフレルはそれを軽く避け、それを落ち着けるように笑った。
「大丈夫よ、ナイト君なら……キャッツ、私たちは観戦としましょう。お客様と一緒に」
フレルは歩いてきた道筋を振り返った。そこには辺りを見渡しながら不安な足どりで歩いてくるルリィの姿がある。
「なっルリィ!?」
ナイトがここにいるはずのない人物に驚いて声を上げると、ルリィがこちらに気づいたように走ってきた。そして檻の前で足を止めた。
「え、耳……?」
開口一番に発した言葉にナイトは自分が今、耳をつけたままのことを思い出した。
「いや、これは事情かあって……というよりこんなとこで何してんだ!?」
ルリィは一人で館に帰ったはずだが今はここにいる。それにルリィが言いにくそうに眼を泳がすとフレルがルリィに手を引いた。
「はい、注目。私は今回、国王直々の命令により彼を世間には秘密裏に調査します。その調査方法は任されており彼には迷路風の選択問題を用意しましたー!。彼はこの先の洞窟を進んでもらうわ。その先で私の質問と命令に従ってくれれば悪いようにはしないからそこのところ宜しくね。私たちは遠くから観戦してるから」
フレルがニコニコ笑いながら「まずはそこの狼をどうにかして進んでねー」とだけ言い置くとナイトを置いて。もう一方の洞窟へ進もうとする。それにキャッツは命令なら仕方ないという表情で一度瞳を閉じ、開いた時には冷静な表情でフレルに従った。
「おい、どうゆうことだよ!?」
わけがわからず檻折から抜け出せないかと力任せに檻を押したり揺らしたりしてみるがびくともしない。
「ナイト!」
ルリィはナイトに向かって手を伸ばした。ナイトもルリィへと手を伸ばす。だがそれを阻む者がいた。
「ごめんね? こんなことするのはとっても不本意なんだけど」
フレルが垂直にルリィの首へと手を下す。その瞬間、ルリィが全身の力を失ったように倒れた。
「ルリィ!!」
目の前でフレルに抱きとめられ気を失っている姿に頭の中のなにかが壊れるような音がした。フレルは大事そうにルリィを抱え上げるとナイトにまたひらひらと手を振る。
「ナイト君、ううん、騎士さん。お姫様を返してほしかったらその道を突き進んでね?」
そう言い残し、フレルとルリィを心配そうに見つめるキャッツ、気を失いぐったりとしているルリィはもう一方の洞窟の中へ消えて行った。
ナイトは眼をすえ、前方にいるであろう狼をにらみつけた。すべては姫を守るために。