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吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 119ページ)
関連タグ: ファンタジー 吸血鬼 オリジナル 恋愛 
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「あーっ!!」
 フレルが思いっきり叫んだ。それを鬱陶しそうにキャッツは見つめ、仕方なく理由を聞いてみた。
「どうしたんですか、ちょうか――」
「――カメラが壊れたのよっ! あの衝撃に飲み込まれて土の下敷き、ぺちゃんこに……」
 まるで世界の終りのようにフレルは大きなため息をついた。それにキャッツは少しだけ同情した。
(あのカメラって確か、高価格の貴重品だったかしら……今月の長官の給料は格下げね)
 同情した後に細く笑う。それをキッとフレルは見つめ、乱れる画面を閉じた。
「こうなったら意地でもあいつの本性でも嘘でもなんでもいいから聞き出して、大手振って帰るわよ!」
「それは逆恨みというものでは」
 燃えるような赤髪より闘志をみなぎらせているフレルにキャッツは冷ややかな視線を送った。


「ナイト〜!」
 いきなり幽霊のように低い声で唸って現れたフレルにナイトは急いで狼の足を止めた。そしてその様子にぎょっとする。
「女装野郎、だよな……?」
 一時前とは違ったオーラを放っているフレルにナイトは眼を疑った。女々しい感じが消え、男らしさが増していた。
(それが普通なんだが、女装野郎が男っぽいとなんだか不思議だな)
 新たな発見を頭に刻み込んでいると、フレルは洞窟の隅からルリィを連れてきた。それにナイトは駆け寄ろうとした瞬間、透明な壁にぶち当たる。
「うおっ!?」
 目に見えないなにかに押し戻される。どうやったて手が届かないのだ。
「どうゆうことだ」
 強く拳を握りしめ、透明な壁の向こうにいるフレルをにらみつけた。それをあざけ笑うようにフレルはルリィの首元にナイフを突きつけた。
「科学よ、科学。私たちとあなたの間にはシールドが貼られてる。ルリィを助けたかったら私の質問に答えてね? 嘘をつくのはよしたほうがいいわよ」
 すっとルリィの白い頬にナイフをあてがう。そこからうすく血が滴ったがルリィは気を失ったままなので気づかない。それが余計に、抗うことのできなルリィにフレルがなにをするか心配になった。
「ルリィはお前の旧友なんじゃないのか、なぜ知り合いにこんなんことをするんだ」
「仕事だからよ。ルリィには悪いけれどこれもあたしの仕事なの。そのためにはどんな犠牲でもはらうわ、あたしは……それしかできない……」
 最後の言葉はよく聞き取れなかった。しかしフレルの瞳に確固たるなにかがあるのがわかる。
「質問一つ目 あなたはこの国、ルキュアール国の住民? それとも異国民?」
 フレルは何事もなかったように聞いてきた。ナイトに嘘の選択を選ばせないためにしっかりとナイフを首元にあてがう。ナイトはそれを憎々しげに見つめつつ、大人しく答えた。
「俺は異国民だ。昔からこの国に住んでたわけじゃない」
 その答えにフレルは嘘がないか真剣にナイトを見つめた。しかしナイトは嘘がついてないことが瞳を通して伝わり、満足げにうなづいた。
「そうよ、嘘をついたらあなたのお姫様が危ないのよ。次、二つ目。あなたは昔、村人に恐れられ、その土地から離れるように暮らしてたらしいわね。だけど食料は村人から運び込まれたとか。可笑しいわね、恐れているのに崇める。まるで自分たちとは違う人外のものに対する対応だわ……これって本当?」
 ナイトの瞳が揺らいだ。なにかを押さえるように唇をかむ。そして震える口から微かに「本当だ……」と紡ぎ出した。
 その時、ルリィがぱちっと目を覚ました。今まで固く閉じられていた瞳がナイトを映し出す。座り込むナイト、冷静な目でそれを見つめるキャッツ、後ろで自分を押さえつけているフレル――
(んっ!? フレルが私にナイフを向けている? もしかして私……人質にとられてる――っ!?)
 理解した瞬間、ルリィはすばやく動いた。人質にとられたことは人生上、一度もないが長年生きてる分、とるべき行動は分かった。
(こういう時は一番敵とは思ってない人質からの反撃が有効よねっ)
 後ろにむけてルリィは思いっきり肘を突き出した。それがきれいにフレルの腹に向かって入る。しかしそれをキャッツが途中で掴んでとめた。
「すいませんルリィさん。これ以上危険な目には合わせたくないので静かにしていてください」
 ナイトには聞こえない声でキャッツはささやいた。これでキャッツやフレルにも警戒をよりいっそう深められてしまい、動くにも動けなくなってしまう。
(ナイトっ……――!)
 胸から、捕まってしまったやるせなさと傍に行きたい思いがふつふつと湧き上がる。それを知ってかフレルは「最後の質問よ」とナイトに話しかけた。
「最後の質問、これにちゃーんと答えてね? 答えてくれたらルリィは返してあげる」
 その言葉にがばっとナイトは頭をあげる。まるで挑むように立ち上がった。その様子にルリィは何を質問するのか不安に駆られる。
 フレルは不敵に笑った。
「あなたの狂人的な身体能力、獣を従わせる強い力。どれも人間だと説明できないものばかり今まで見させてもらったわ。ねえ、あなたは人間なの?それとも……――

 ―――化け物(人ではないモノ)なの?」

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