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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
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*12*


             † 六の罪 “白刃に誓いし復讐” (後)


「んんんうまいうまい! 吾輩は嬉しいぞー」
「たまらんねえ。ほら、なんだかんだ来て良かったろ?」
「お前たちは何を食そうと其れではないか」
 淡白な物言いながら、彼ら程ではないにしろ、ルシファーも手は動いている。
「ご主人様、これうまいのだ。食べてみてー」
 強引に渡すベルゼブブ。
「お二人は本当に仲が良いのじゃな」
「その通り!」「さあな」
 長老の感想に、間を同じくして返答した。
「本当に仲良しだー」
「吾輩はご主人様のことが大好きで、ご主人様も吾輩のことが大好きなのだ」
 感心するデアフリンガーに、小さな胸を張って言い放つ。
「そう言えば、この二人が喧嘩したのはお嬢が食事中に菓子を食べたいと駄々こねた時だけだったねえ」
(……あの時は危うく地獄が崩壊するところだったけど)
 遠い昔を思い出すアモン。
「んーおいしいな、これ」
「そうだね」
 嬉々として頬張るデアフリンガーとは異なり、アザミは一貫して落ち着いている。
「こんな魚がいっぱいいるのかな、海ってとこは……! 俺も行ってみたいなー」
「なんだガキ、海を知らねーのかい」
「悪いかよ。あと俺はガキじゃねえ、長老の弟子、イズモだ。婆さんは見たことあるのかよ」
 不服を唱え、アモンに突っかかる少年。
「おう、あるとも。海には友達が住んでるからね」
「いいなー。僕もう何年もこの谷から出てないから外の世界に友達がいるってうらやましい」
「海だけじゃないさ、アタシぁ世界中に友達がいる。気持ちが通じ合えば誰だって友達さ。動物だって仲良くなれば応じてくれるんだ」
「すげぇなあ……ますます外に行きたくなったぜ! なあ、アザミも一緒にいつか海に行こうよ」
「別に興味ないから……」
 好奇心に心躍らせるデアフリンガーと対照的に、彼女は作業的に食事を続ける。
「そちはまだ十二じゃろ。一人前の男として、わしが認めないと谷からは出すわけにゃいかんぞ」
「わかってるって! 今に兄上みたいに強くなってやるからなー!」
「長老は強いだけじゃなくて男って言ったのだ。まだ女も抱いたことない子供が剣だけ覚えたとこで下の剣は鞘に入ったままじゃ恥かきに行くようなものだぞ」
「ああっ……ちょ、そそそんなこと今は関係ないだろ! ……と言うか自分より年下に言われたくないし」
 ベルゼブブに痛いところを突かれ、気まずそうにアザミを垣間見るデアフリンガー。
「しょうがないよ、デアフリンガーはまだ子どもなんだし急ぐことは……」
 相も変わらず目は死んでいるが、彼女なりに励まそうとしているらしい。
「違う! 僕はもう子供なんかじゃ……」
「こーどーもですーッ!」
「いや違う。ね、アザミ」
 傍らで繰り広げられる攻防を、長老が皺を深くして見届けている。クスリともせず、とこも見ていないかのようにただ座っているのみのアザミの横顔が、同じく沈黙を保っているルシファーの瞳に映っていた。

「それじゃ僕たち、この辺で」
 廊下の突き当りに至り、デアフリンガーが切り出す。
「がんばれよ、少年。若いうちに女を知っとくのも損はないよ」
 アモンが不敵に嗤った。
「なっ、なんだよ! 変なこと言ってないで早く行けって! あなたの部屋はそっちだろー」
「はいはい。兄ちゃんによろしくね」
 彼女に向き直ろうとして彼が視界の端に映ったアザミに目を移すと、思わず瞠目する。
「――未知に対して興を抱かないは勝手であるが、貴様が過ごす繰り返しの日々に意味を見出せるかな」
 離れ際に囁かれた彼女は一瞬、ルシファーを見遣ったが、普段の起伏が少ない表情へと戻った。
「どうしたの? 早くおいでよ」
 デアフリンガーが割って入る。
「余計なことを吹き込まないでもらえるかな? あなたに彼女の何がわかるんだよ」
 ルシファーを睥睨して言い捨てると、アザミを連れて足早に消えた。
「さながら王子様ってとこか。若いっていいねえ」
小さな背を見送りながら、アモンが軽口を叩く。
「何を言われたか知らないけど、あんな暗いヤツの嫌味なんて気にしないでいいからね。僕で良かったら聞くよ」
「うん、ありがとう……でも大丈夫だから」
「はい空回りしたー! 童貞が空回りしてるのだ」
 勝ち誇ったように指差すベルゼブブ。
「ほら、お嬢いくぞー」
 ルシファーと共に反対の通路へと足を進めているアモンが呼びかけた。

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