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第3章-姿-
皆が寝静まった頃、美鈴は刀が保管されている所に来た。
目的は、鑑賞。
美鈴自身も刀には興味があったらしく、
布に包まれた刀をとろうとした瞬間…
美鈴「――!?」
刀から手が飛び出した。
悲鳴にならない悲鳴を上げる美鈴。
しばらくすると、ズルズルとゆっくり刀から左手、頭、体と順々に姿を現してくる。
その姿はリン〇の貞〇に酷似していて、その恐怖は言葉では表わせない。
美鈴はガタガタと震えながら、それを見ていることしかできない。
いや、見ていたくはないが、目を逸らすこともできない。
刀から出てきた男らしき物体は、底冷えするような声で言った。
「喰っても……いいのか……?」
紅魔館に、ようやく音になった、美鈴の悲鳴が響き渡った。
暁「いや、すまなかった。若干悪ノリし過ぎたようだ」
暁は謝る。
周りには、パチュリー、小悪魔、レミリア、咲夜、美鈴の5人がいる。
レミリア「その件についてはもういいわ。美鈴の自業自得だもの。それより、貴方はいったい誰?」
と、レミリアが問う。
暁 「俺は」
言葉を切り、ふと気付いたような目でレミリアの方を見つめている。
何かを思い出そうとしている様子だ。
レミリア「?」
レミリアはすっかり疑問顔である。
そして、暁は思い出したようにポンっと手を叩くと言った。
暁「レミリア・スカーレットか!」
その言葉には、咲夜が反応した。
首に突き付けられたナイフ。
咲夜 「貴方、何者!」
暁 「?」
と、素で返す暁。
咲夜「とぼけないで。あなたには疑問な点が多すぎる」
暁 「俺としては、500年前の吸血鬼が生きている事のほうが疑問なのだが」
考え込む仕草を見せる暁。
まるで、突き付けられている物などないように振る舞っている。
暁「なるほど、人の生血だな。たしかそれが生命の源だったはず…」
暁が右手を胸に当て、横になぐように腕を振ると、赤い光と共に咲夜の拾った赤い刀が現れた。
暁 「こいつに見覚えはないか?」
レミリアに刀を渡す。
赤い刀など見たことはない。
だが、造りをよく見ればそれは、
レミリア「まさか、鬼切丸?」
暁「ご名答。俺はこいつの付喪神。今は暁と名乗っているので、そう呼んでほしい」
レミリア 「咲夜、いいわ。座ってちょうだい」
レミリアのそれに従う咲夜。
咲夜「なんでお嬢様様の事知ってるんですか?」
咲夜は口を挟んだ。
暁「伝承にはないがな、一回海に落ちてな、さまよってたら見知らぬ城についてな。そこでたしか吸血鬼に拾われて…我が国に帰してもらった。」
暁「四百年も経って、道具の頃の顔見知りに会えるとは思わなかったが」
実は、幻想卿にはあと二人顔見知りがいるのだが、今はまだ暁は知らない。
暁 「こちらの質問もよろしいかな?」
暁 「ここは何処だ?」
レミリア「此処は幻想卿、博霊大結界の内側、そこの紅魔館よ」
紅魔館の主、レミリアが答える。
暁「素晴らしい場所だな。真っ赤な造り、センスがある」
誉められたことで、少し得意顔のレミリア。
暁「此処を見るだけでわかる。ここは笑いが絶えないのだな」
羨ましそうに言う暁。
陰陽師の存在もここにはないようだ。
テレビやパソコンなど、文明の利器は見当たらないが、それでも充実した日々なのだろう。
暁「良ければ此処に居候させてはもらえないだろうか? 迷い込んだようで住処も無く、さすがに野宿というのも少々遠慮願いたいものなのだが」
レミリア 「私たちにその理由はないわよ」
暁「レミリアにはないが、そこのお譲さんにはあるぞ」
そういい、暁は咲夜の方を向く。
紅魔館の主、レミリアに向かい言う。
暁 「実はな、そこのお譲さんが、嫌がる俺を無理矢理ひん剥いてな、頭の先からけつの穴まで見られてしまったんだ。これは責任とってもらわねば……」
よよよ……、と泣き崩れるふりをする暁。
レミリア 「あら、咲夜。あなた実は鬼畜だったのね」
冷たい視線が三つ、咲夜に突き刺さる。
なんのことだかは、咲夜にはわからなかったが、レミリア、パチュリーにそんな目で見られてしまっては、何も言えなかった。
レミリア「ふう、じゃあ仕方ないはね。認めるわ」
暁 「すまない。代わりに料理などの家事を手伝わせてもらう」
暁は一人一人顔を覚えるように見た。
レミリア「他にも妖精メイドがたくさんいるけど、ゆっくり覚えていってちょうだい」
そう言い終えると、大きなあくびを一つ
レミリア「ふぁ。咲夜、もう眠いから私寝るわ」
咲夜 「わかりました。えーと」
暁「暁。呼び捨てでかまわない」
レミリア 「では、暁。今日は部屋が用意できないから、咲夜の部屋で休んでくれるかしら?」
咲夜 「お嬢様!?」
暁 「あぁ、了解した」
驚く咲夜を二人とも軽くスルーし、話を終えた。
静まる部屋に残された咲夜と暁。
咲夜「暁さん」
暁 「暁でいいぞ。さんはいらない。こちら咲夜と呼ばせてもらうが」
咲夜 「あ、はい。それで」
暁 「あぁ、部屋のことは気にしなくていいぞ。端っこで刀の中で寝れば済む」
咲夜 「いや、そうじゃなくて!どういう事ですか、私が襲ったみたいなこと言って!」
暁 「ひん剥いたろ?」
咲夜「剥いてません!」
暁 「見たろ?」
咲夜「見てません!」
ん〜と腕を組み、顎に手を当てる。
暁「あの時だ。白い髪の女の子、確か妖夢と言ったか。そいつと共謀して。目釘抜けにくかっただろ?」
咲夜「はい」
暁 「柄、外れにくかったろ?」
咲夜「はい」
暁 「見たろう」
咲夜「?」
暁 「茎」
暁 「見たね」
暁 「ほれ、俺の言うとおりではないか」
咲夜「?」
暁 「刀にとって茎はけつの穴みたいなもんだ。目釘が抜けにくかったのも、俺が抵抗してたからだ。何一つ嘘はついてないな」
咲夜 「うっ…」
言葉につまる咲夜は、反撃を試みる。
咲夜 「だからって、あんな言いかたないじゃないですか…」
暁 「すまん。それについては謝る。自分を知られて普通に接する者などいなかったからな……」
だが予想とは違い素直に謝られ、罪悪感がわいてしまう。
咲夜「い、いいです…別に。もう気にしてないですから。ほら、もう夜も遅いですし、寝たほうがいいですよ?」
暁 「そうだな。そうさせてもらおう」
そして、部屋まで先導を始めた咲夜。
咲夜には後ろに目が付いてなかったので、やっぱり暁の黒い笑顔には気付けなかった。