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奇想天外!プロレス物語【完結!】
作者: モンブラン博士  (総ページ数: 82ページ)
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*22*

敵は穏やかな顔で完全失神をしている。

血も噴出していなければ、血泡も吹いていない。

ただ倒れ伏しているだけだ。

会場は水を打ったかのように静まりかえり、物音ひとつしない。

ヘブン=ザ=ギロチン。意味は天国の断頭台。

これのオリジナルを以前テレビアニメで見たことがある。

これを食らった対戦相手は確実に死ぬと言われ、幼い俺の脳裏にこの必殺技の光景がオーバーラップする。

だが、あの必殺技は確か膝だったはず。どうして肘を・・・・・?

「僕は天使です。悪魔じゃありません。人殺しなんてごめんです。ですから、膝でなく肘を使い、威力を半減させ、なおかつ敵に痛みを感じさせないように高度まで敵を飛ばし、落下で失神させた上で放ちました。だから天国の断頭台なんです」

ここまで敵をいたわっていたとは・・・俺はこいつの優しさに感服してしまった。



星野は3連戦目を迎えた。

対戦相手はホワイトウルフ。

「どいつもこいつもしょうもない負け方しやがって。こんなくだらねぇ必殺技など俺の敵ではない。この俺が完璧にお前の必殺技を葬りさってやる!そしてお前から全てを奪い必ずお前たち全員を全滅させてやる。覚悟するがいい」

3戦目の対戦相手ウルフは先ほどまでのシカ、カバとは迫力が違った。

他のふたりよりも筋肉隆々で高い身長。

たぶん体格的にはカイザーさんと引けをとらないだろう。

全身に熊のように剛毛を生やしたこの男は、やはり外見からして只者ではないオーラが漂っている。

「星野、気をつけろ。あいつは只者じゃない」

「分かっています。この試合、もしかすると苦戦するかもしれません」

星野は少し顔に冷や汗を浮かべている。

俺たちはリングサイドから戦いを見守り、声援を送ることしかできない。

だが、それでも星野の力になれるのであれば、声を枯らしてでも声援を送ってやる!

それが男ってやつなんだ!!

「フン」

ウルフはそんな様子を見て鼻で笑う。

こいつ、俺たちの友情をバカにしやがった。

カーン!

3連戦目のゴングが鳴る。

「食らえ、天使野郎!」

ウルフは隠し持っていた鉄のつめを両手の甲に装着し、星野に襲い掛かる。

乱れ引っかきをお見舞いし、星野の服を裂き、皮膚を裂き、彼の体を血に染める。

星野は胸板や腹、腕や肩などに切り傷を負い、立っているだけでやっとの状態という感じだ。

痛みは感じていないのだろうが、肉体的には相当なダメージがあることは一目瞭然だ。

以前カイザーさんが話していた星野の最大の弱点。それは自分の体力、肉体を省みず、無理をし続けた挙句、力尽きるということだった。

そのことを思い出した俺は星野に語りかける。

「星野。戦法を切り替えるんだ。消極的に攻めて確実にダメージを負わせるんだ」

「はい・・・・・井吹くん・・・・・」

「ガハハハハハハ!無駄、無駄!お前はもう立っているだけでやっとの状態。
それもそのはず、この試合でお前は3連戦もしているのだからな!
お前は体力的には普通の少年。ただ感覚が麻痺しているだけに過ぎない。やせ我慢はいい加減にやめたほうがいいと思うがな。
そろそろ交代したらどうだ?お前の・・・・可愛い友達によ・・・」

「いやです!!それだけは・・・・それだけはできません!!」

その強い声に星野を見ると、彼は静かに泣いていた。

半開きの瞳に大粒の涙をボロボロ流し、泣きながら敵に向かっていく。

「手ぬるいパンチだな。どうした?お前の力はこんなものなのか?
くだらねぇ。こんなパンチじゃ虫も殺せないぜ」

星野の拳を軽く振り払い、彼の顔面に鉄拳をお見舞いする。

「ぐあああっ!」

もう、星野はボロボロだ。これ以上戦ったら命が危ない。

「星野、棄権しろ!これは俺の親友としての願いなんだ!!
次の奴に代われ!あとは俺たちが引き受ける・・・・!!」

「ダメです!彼らは僕がひとりで倒さなくちゃいけないんです!」

「星野、どうしてそこまで・・・・」

「それは・・・・」

星野が言いかけたそのとき、ウルフが星野の小柄な体を掴んだ。

「万年片思いの彼女の前で死ぬがいい!!」

この瞬間、俺は全てを理解した。

星野は最愛のメープルに代わりたくない。

彼女に交代して彼女を傷つけたくない。

恐らく星野は王李が敗れることは予想外だったのかもしれない。

だが、もし敗れたときは自分が敵を全て倒し、大好きな彼女を守る。

その一心でここまで戦ってきたのだろう。

だが、あいつがずっと片思いだった彼女に、たった今好きだということを自分の口からでなく、敵の口から放たれたのだ。星野の精神はもうズタボロだろう。

「うわあああああああああああああああああああっ!!!」

星野はもう我を忘れ、がむしゃらに拳を振るう。だが、リーチが短いためウルフの顔面には届かない。

「止めだ。あばよ、天使野郎!」

ウルフは星野を空高く放り投げ、敵と背中合わせになり、敵のアゴを両腕でロック。そして両足を自分の足でロックし、そのまま落下し始めた。

「食らえ、俺の超必殺技『アルプス大山脈落とし』!!」

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