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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*68*
「この私の怒雷氷の極寒レスリングの恐怖をとくと味わうがいい」
彼は俺の手を掴む。このじいさんの手、ありえないぐらいに冷たい。
じいさんはカパッと口を開き、ドライアイスを吐き出す。
「フハハハハハ。この私は生まれつき手が冷たい。
私に触れた相手は例外なく、しもやけがおきる」
俺の手がどんどん真っ赤に腫れ上がっていく。
じいさんから(吐き出されるドライアイスが俺の顔を冷やし、体温を奪っていく。
このままでは俺は凍傷になってしまうだろう。
俺は抵抗し、彼の腕から逃れようとするが、力が強く逃げることが困難だ。
「これでも食らえ、じいさん!」
パンチの連打をお見舞いするもまるで効果がない。
「井吹宗一郎。死を覚悟したまえ」
彼は俺を力任せにロープへ投げ飛ばし、跳ね返ってきたところをジャンピングネックブリーカードロップでリングへ叩き付け、再び跳ね飛ばし、ココナッツクラッシュを炸裂させる。
「ゲホッ!」
口や鼻から血が流れ、立ち上がるのだけでやっとの状態だ。
このじいさん、強すぎる!
「とどめだ、井吹宗一郎」
じいさんが不敵な笑い声をあげたその時、俺たちのリングサイドから聞き覚えのある声が聞こえた。
「井吹、お前のプロレスにかける思いはそんなものなのか」
ウェーブした茶色の髪の男、俺のサッカー部のときのライバル、天童だった。
「て、天童……どうしてお前がここに……」
すると奴は笑みを浮かべ、
「来たのは俺だけじゃないぞ、井吹」
「これがプロレスか。面白い」
「僕もプロレスは初めてです」
後はねした髪に眼鏡が特徴のサッカー部員、一郎と、大きな瞳、かにぱんのような左右にはねた髪の同じく部員だった和人がそこにはいた。
「井吹くんがプロレスを始めたっていったから、興味をもってね。アメリカまで来ちゃったよ」
和人はあごを手に乗せるポーズをとりながら、口を開く。
このポーズを見たのは何か月ぶりだろうか。
俺がやめて結構な時間がたっていたというのに、俺のことを覚えていてくれたのか!
「当たり前だよ、井吹!」
その声にハッとして顔を上げる。
するとそこには、キャプテンの山風白馬がいた。
「井吹、お前は俺たちの仲間、たとえ違う道に行ったとしても、俺たちの友情は変わらない。この戦い、なんとかなるよ!」
なんとかなる……か。久しぶりにこの言葉を聞いた気がする。
俺たちサッカー部は、たとえどんな厳しい逆境に立たされても、最後には必ず勝利を掴んだ!
その忘れかけていた気持ち、やっと思い出したぜ!
「な、なあ、お前ら、頼みがある……」
俺は恥ずかしながらも、かつての仲間に助けを求める。
「俺のセコンドになってくれないか?」
すると、
「井吹、俺たちは最初からそのつもりでここまで足を運んだんだ」
天童が言うと、一郎、和人は互いに顔を合わせる。
「一郎くん、僕たちの頭脳戦略、あのおじいさんに見せてあげよう」
「それはいい考えですね、和人くん」
「みんな、協力して井吹に勝利をもたらすんだ!!」
「「「おう!」」」
あのときの、サッカーの懐かしい感情、そして大切な仲間がリングという新たな場所で戻ってきた。
「フハハハハハ。なんとかなるのはキミたちの経験したサッカーのみの話だ。未経験のプロレスでなんとかなるなど、ありえないのだよ」
じいさんは勝ち誇ったように笑うが、俺はその笑いにビビるほどの恐怖心は消え去っていた。
俺は拳を片方の手で押さえ音を鳴らし、敵を鋭く睨む。
「じいさん、俺があんたに教えてやる。この世には不可能に思えても、諦めなければなんとかなるってことをな!!」