完結小説図書館
作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
関連タグ:
10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~
*78*
僕はカイザーさんのお父さんに本来の力を全開にして攻撃します。
速攻で敵を翻弄しますが、敵は微塵も感じていないようです。
「少年、キミの全力がこれだけとは……実に残念だ」
彼は片手で僕を掴み、何度も何度もマットへ叩き付け、そのまま放り投げました。
僕はリングを飛び出し、カイザーさんに激突したかと思うと、目の前が真っ暗になってしまいました。
☆
気が付くと、僕は病室のベッドにいました。
「僕はあのあと気を失ってしまったんですね……」
自分で言って現状を確認します。
病室にはテレビがありましたのでつけてみると、カイザーさんがリングに上がっていました。
そして彼の声がテレビを通じて聞こえてきたのです。
「ヨハネス、ハニー、井吹、星野。私はきみたちという素晴らしい仲間と共に戦えて本当によかった。感謝している」
そして試合開始のゴングが鳴り響きます。
このとき、僕は直感で気が付きました。
カイザーさんが死を覚悟して戦いを挑んでいるという事に。
☆
「カイザー、仲間への別れの言葉はすんだか?」
「父よ、私はできることなら、あなたとは戦いたくなかった」
私は育ての親に拳を握りしめ、突進していく。
「お前はいつも自分を犠牲にするのが好きだな。
なぜお前は私の教えに反するのだ?『下等な生物、人間はすべて見下し、粛清せよ』という私の教えを」
「それは教えなどではない!一方的な差別、虐殺、弱い者いじめにすぎない!」
私の繰り出す拳を身軽に避けているかつての父。
「ハッ!圧倒的力を持ち、世界の頂点に君臨することの何が悪い。弱いものを弱いと見下して何が悪いというのだ、息子よ」
私は父の拳から逃れるべく間合いを取る。
「あなたは確かに強い。それは認める!
だが、真に強きものではない!
真の強者は威張らず謙虚に振る舞い、決して弱い者いじめなどしない!」
「それはただの理想にすぎぬ。
下等極まりない下衆人間どもを守って何になるというのだ、カイザーよ。
人類は愚かだ。無駄な争いを繰り返すバカな生物だ。
これ以上増え続けては地球が壊れてしまう。
それを防ぐために我々がこの星のために全滅させてやって何が悪い!
なぜお前たちは我々の仲間でありながら、こうも人類を擁護するのだ」
ここで、私を含むスター=レスリングジムのメンバーの大半が人間の姿を借りた宇宙人であることを正直に告白せねばならない。
当然我々の科学技術、身体能力は人類を遥かに凌駕する。
そんな我々の仕事はいかに地球を今より幸せな星にするかということだ。
だが、約5000年ほど前から、人類を粛清するか見守るかということで意見が真っ二つに分かれ、対立した。
二手に分かれた我々はそれぞれの方法で人類を導いた。
破壊と創造。生と死、光と闇、そのような対立関係をこれまで数千年の間続けてきたが、その度に我々の特殊能力の影響を受ける人類は計り知れなく、地球そのものも脅かしきれなかったために、平和的なレスリングで決着をつけようということになり、今に至る。
そして長年の勝負の末、今度負ければ彼らは地球から去るという条件を出してきた。
だが、反対に彼らに負ければ我々が追放され、人類は滅亡する。
「この戦い、負けるわけにはいかん!
なんとしてでもわが父に人類の素晴らしさを教えて改心させてみせる!」
「諦めたまえ、息子よ。ゴキブリはどこまでいってもゴキブリなのだ!」