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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 198ページ)
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*168*
俺はフォルテの試合を見て、絶句し、口を開けたまま、呆然としていた。
彼女を庇い、クソガキと1戦まみえようとしている男…間違いない、俺のライバル農業マンだ。
奴とは5回対戦したが、その全てにおいて、俺は敗れている。
正統派の技巧派でパワーもあり、バランスの取れた肉体、足腰のバネ、農作業で鍛え上げられた、強靭な精神力。
そのすべてにおいて、俺を勝っていた。
俺はあの当時は、日本に俺より強いレスラーはいないと、ある種の慢心のようなものを感じていたが、奴と闘い、デビュー史上初めての敗北を喫し、それ以来俺は、奴から勝利を奪いために前にも増してストイックに鍛錬に励んだ。
そして今、俺が見据えるオーロラビジョンの先に奴の姿がある。
奴はフォルテをリングから下ろし、クソガキと対峙した。
「いくだよ」
そう言ったかと思うと、奴はガキの頭部に強烈なかかと落としを放った。
「『桑のかかと落とし』ズラ」
角度、落下のスピード、どれも申し分ないかかと落としだ。
「これぐらいで寝ていられたら困るだよ」
奴は両手を手刀に変え、敵の首筋にモンゴリアンチョップを放ち、続けざまにフライングニールキックをお見舞いした。
「『雑草刈りチョップ』と『かまいたちキック』だよ」
「こ…こんな技でこの俺がダメージを…!」
たった1分間の間に連続攻撃を決められ、敵は明らかに動揺している。
奴の攻撃は地味で派手さに欠けるが、一撃一撃が重く、つまらない技でも、必殺技と同様の威力を誇る。
奴は元からある技に自分だけが使うオリジナルの名前をつけるのが好きだ。
遊び心のある男だが、その強さは計り知れない!
「『米俵プレーンバスター』といくかの〜」
ほいっと軽々敵を持ち上げ、プレーンバスターをかける。
「おのれ、俺の心理作戦を食らうがいい!」
だが、敵は奴の拳で顔面を打たれ昏倒する。
「おろ?『軍手パンチ』の威力が強すぎたみたいズラ」
奴に顔面を打たれ、逆に自分の心がポッキリと折れかけるガキ。
神といえど、ガキは甘い。
すると、奴は俺の存在に気付いたのか、オーロラビジョンを見て、口を開く。
「不動じゃねぇズラか。3年ぶりズラな〜。元気ズラか?」
「ああ。…あまりガキをからかいすぎないほうがいいぞ」
「おお〜、そうズラね。お前さんはさっすがワスがライバルと認めた男、さっきの試合、バッチグーだったズラ」
俺の方を向き、話をしながらも、敵のどてっぱらにトラースキックを命中させている。
「ワスの必殺技もなかなかのもんじゃろ。これは『サトウキビキック』いうんズラ。沖縄で遠征した時に編み出した蹴りズラ」
「…いや、その技は昔からあると思うぞ…」
「おんや、そうだったズラか〜。まあ、いいズラ」
顔は俺を向きながらも、敵を捕らえパイルドライバーでマットへ串刺しにする。
「ちくしょおおお!」
敵は顔面血みどろになり、立ち上がるが、奴は一向に意に返さない。
「そういえば、不動。お前さん、弟がいたんズラね。さっき聞いたとき、ワスも腰を抜かしたズラよ〜」
ガキは奴の『米粒掌底』を1分の間に軽く30発以上食らい、よろめく。
「俺を…俺を舐めるなああああああああ!!」
度重なる舐めプレイで、ついに業を煮やした冷静なガキは、完全に怒り狂い、農業マン目がけて突進し、必殺技を放つ。
「これで終わりにしてやる、『Dクアゲイスト』!」
「ほいっしょっと」
奴は全身に力を込め、締め上げる紐を破壊させた。
「お前さんはまさに『策士策士に溺れる』という諺通りの男の子だったズラ」
「どういうことだ?」
「ワスはお前さんが怒りで我を失うことを見越して、わざとお前さんを無視続けたんズラ」
「し…しまった…!!」
「ほんじゃま、これで終わりズラ。星に帰ったら、女の子に手ださんこと。これはワスからのお願いズラ。『里帰りブリーカー』!」
奴はガキにカナディアンバックブリーカーをかけ、泡を吹かせるほど、容赦なく敵の背骨を弓なりにし、ある意味大人げない完全勝利を成し遂げた。