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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第七章 参 寂しさの涙
あせったやつらが仲間を殺していた。
そのやつらは、とある青年によって全滅された。
青年が振り返る。
それは--------まぎれもなく
大切な、大切な
大好きな
あのひと
『総司・・・さん・・・?。』
――――――――浅倉総司、だった。
『なんで、総司さんがっ!?。なんで、ここに―――。』
雪音の思考を呼んだのか、もしくはこの少女の表情から読み取ったのかもしれない。総司さんは、しゃがんで、目線を合わせてくれた。
「なんでここにいるんだ?、って顔だな。まあ、それは後で話すとして――。」
ニコニコしていた総司さんの表情が一瞬にして豹変する。
怒気に似た熱い瞳。その奥に隠れたさびしげな、悲しげなかげりのある表情。
「にげろ。今すぐ、ここから。」
それは、あの日言われた言葉と同じ。
真剣で、一目で泣きそうになったときと同じ目。
「はやく。大丈夫だ。お前の父さんも母さんも、助けてやる。」
「――――お――――ちゃ―――は?。」
声を発したことに驚いたのだろう、少女は、私の意志とは反して伺った。
―――――総司さんの心配を。
「え?。」
「おにい、ちゃんは・・・・?。」
「あ、お前おにいちゃんがいるのか。じゃあ―――――。」
「ちがう!。あなたは、どうするの・・・?。」
小さな子供らしくないな、とため息をつかれて総司さんは頭をかいた。
「大丈夫。お前のとーちゃん、かーちゃんつれて逃げるよ。必ず。」
それは、うその混じった、さびしげな瞳だった。
「ほんとう!?。じゃあ、かえってきてね!。おにいちゃん、助けてくれた、おれいがしたいの!。」
ぱああ、と表情を明るくして、少女は笑った。
このような惨状の場で、明るく笑うのは不謹慎かもしれない。けれども、彼女は笑った。笑わなければ、悲しみに押しつぶされそうだった。すこしでも、明るい未来への可能性をつかんでおきたかった。
「ああ、じゃあ、今度一緒に桜を見ような。有路ノ国の桜は綺麗なんだぞ。」
「うん!。まってるね!。」
そうして、総司さんから、私は離れた。
かけて、駆けて、翔けていく。
まあるい丘を、数々のむくろを越えて。
いつしか、走りつかれて、いや、いろいろなものに疲れて、少女はしゃがみこんだ。
遠くから、妖怪の叫び声が聞こえる。
数々の怒声が、数々の悲鳴が、叫鳴がきこえる。
それは確実に、何かを通り越し、徐々に徐々にこちらに近づいていた。
すぐ隣には、この前遊んだお友達が居た。
いや、在った。むくろとして。刀の突き刺さった状態で。
――ヴヴぁアアアアアアアア――
それは、もう、すぐそこまで居た。
なんで? お兄ちゃんが退治しに行ったはずだよ?
おかーさん、おとーさん、たすけてくれるって
いっしょに、さくら みてくれるって やくそくしたよ?
なんで ばけものが そこに いるの?
雪音は頭が痛くなった。
たくさんの想いが、頭の中をまるで滝みたいに流れてくる。
「いやだよ・・・・・。」
しにたくないよ
ここに いたいよ
いやだ!!!!
少女は無意識に突き刺さった剣を取った。
「おも!。」
重たい剣を、震えながら持つ。
死にたくない
わたしは 生きる
――ヴぁぁぁぁぁぁあああぁあぁ――
悲しそうに、妖怪はうめいた。
まるで、弁明デモするかのように、うめいてうめいて、あるはずのない目から、涙を流していた。
行動と衝動が一致しない。矛盾している。
――雪音――
それは、紛れも泣く両親がつけてくれた名前。
その薄汚い声で、よばないで。
妖怪が空高く跳び、こちらへと降りかかる。
震えた手が冷たい。
逃げたい衝動に、体が動かない。
寒いはずなのに、汗がどんどんにじみ出る。
そして、目をそらさずに、雪音は、自分の行動を体験した。