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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第八章 参 斬られても
拾ってくれたのは、大紀様だった。
知らないことを、たくさん教えてくれた。
二つ年上の兄のような。
一人になった日から五年後、初めてヒトから優しくされた。
はじめて、笑ってもらえた。
誰にだって、怖がられたこのあざ。
けれども、このヒトだけは。
救ってくれた。守ってくれた。
『これ、やってくれないか〜?。』
なんでも、願いはかなえたかった。自分にできることは何でも。
だから、だからこそ、総司は、大紀のそばを離れたくなかった。
あの日までは。
その年は、雪音が城に来て、八年目の日で。
それは、夕暮れ時が綺麗な、秋の日だった。
一人佇む丘。
その後ろに居たのは―――――――――――
父、だった。
葵という名の、自分を捨てた、にくき父。
浮かべていた薄ら気味の悪い笑み。
なぜ、あの場で斬らなかったのだろう?
自分ならできたはずだ。
『お前が――捨てられたお前が、まさか、敵国の軍師とは。笑えるのぉ。』
『―――――――そっちが、捨てたんだろう!?。いまさら何の関係がある!!。即刻立ち去れ!!。』
『ほぉ、斬らぬ、か。変わってないのぉ、その偽善者ぶりは。』
『なっ・・・・。』
『どうじゃ、わしと一緒に来ぬか。――といっても、こぬか。』
『早く立ち去れ、この馬鹿領主!!。おれは、覚えてるぞ、八年前!。戦が勃発した最大の原因を!!。雪音の村を滅ぼしたのはお前だろう!?。』
『ほぉ、あの白鬼、雪音というのか。』
『くそっ、お前は、もう俺の親じゃない!。俺は、もう、俺の家族を手に入れた!!。だからもうくるな――――――――――――――。』
『わしと一緒に来なかったら、あの娘は、どうなるのだろうのぉ?。』
―――――――――――あの、むすめ?。
(雪音か!!!!!!!!!!)
『雪音に、なにをした?。俺の妹に、何をしたんだ!。』
『なにも。じゃが、これからどうなるかのぉ。』
そして総司は、雪音を残して、数日後、みなに黙って蒼路ノ国の軍師となった。
きっと、雪音を拾っていなかったら、こんなことにはならなかったはずだ。
殺してしまえば、自分はここに居られる。
唯の血のつながっていない、義妹じゃないか。
いなくなれば―――――――――――――――――――――
いつからだろう。そんなことを思ってしまったのは。
あのとき、自分は一度、雪音を殺しそうになった。寝ている斎、柔らかな寝息の聞こえる部屋。細い首を絞めようと―――――――――
・・・・・・できるはずも、なかったのに。
ごめん、雪音。おれ、もう駄目かもしれない。
お前と一緒に居たら、お前を殺すかもしれない。
ごめんな。一人ぼっちにして。
だから、逃げたんだ。俺は。あの白から、雪音から。
狂ってしまう前に。
けれど、雪音を憎んだ想いは、あのひ、消え去った。
小さな雪がほたほたと降る日。
雪に似た白い肌。小さいところ。弱そうな華奢な体。
見たとたん、抱きしめたくなった。
黒ずんだ想いはどこかへと消え去って。
あの日 わかったんだ
この気持ちには 気づかないようにしてたけど
俺 やっぱり 女としての
雪音が好きだ