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ユキノオト
作者: 桜  (総ページ数: 28ページ)
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10~ 20~

*23*

 第九章「それぞれの願い」
   壱 かさなるもの

 歩くとき、いつも一人だった。
 そして、雪音は、その隣を埋めるに、一緒に居てくれた。
 大切な、大切なヒト。
 だから、守って見せるいつまでも。
 
 そして、戦争が勃発して十年後、とうとう、終わりはやってきた。
 この国のまけとして。
 だから、おれは潔く散って生きたいと思う。
 だけど、
 だけど雪音は
 雪音だけは
 あのこは、ずっと自由を知らなかったんだ。
 両親さえも覚えていない。
 不器用にしか、愛せない子なんだ。
 だから、彼女は自由に
 世界を、他人からの愛を、ちゃんと受け取って、自分からも愛せるように、ほかのだれかから、俺じゃない誰かから、教わってほしい。
 
 けれども

 あのこはずっと 助けてくれた父の顔を 忘れたままで
 生きていくのだろうか
 だから

 ―――――――――――最後の賭けを

 嫌われてもいい。
 だけど、一か八かの賭けに
 彼女の記憶を、取り戻す。
『誠司様、お願いが、あります。』
 自分を助けて。彼女を助けるために、自分を。
 白蝋で作った自分そっくりな首。
 たらした少量の血。
 そして自分は、あの地に戻る。

 一人ぼっちだった始まりのあの地へ。
 一人ぼっちの終わりに終止符をつけたあの地へ。

 その先にある未知の地をめざして―――――――――――

***    ***    ***     ***

「それが、すべてです。」
 長くに渡り語り継げるもの。
 だれも、なにも言わなかった。
 ただ、誰もが総司の顔をみて、はぁ、とため息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁああ・・・。なんで、そんな大事なことを、私たちに言わないの。」
 紗枝が、ため息と一緒に、言葉を吐いた。暖かい、陽だまりの言葉。
「ほんとだよな。そしたら、今頃、誠司さんとそこに居るクズを持ってって、総てが丸く収まるはずだったのによ。」
 肇が紗枝の方をパンパンならした。
「そうだな。そしたらもっと早くこの地に来ていた。紗枝を解体して食おうとは思わなかったぞ。」
 あまり見ない勉の微笑みに、なに、くおうとしたの!?、と紗枝が悲鳴を上げる。
「そうよ。ね、領主様。じゃなかったら、狩りしたいなんていいませんでしたよね???。」
 いろんな意味がこめられている萌の言葉。
「あ、そう・・・・・かも・・・。」
 おびえる領主の大紀。
 変わらない、あのころと。
 皆がいたころと、かわらない。

 だから、やっていけたはずだ。

 大丈夫、待ってるよ。

 ゆきね

 だから
 
 はやくおいで

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