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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第九章「それぞれの願い」
壱 かさなるもの
歩くとき、いつも一人だった。
そして、雪音は、その隣を埋めるに、一緒に居てくれた。
大切な、大切なヒト。
だから、守って見せるいつまでも。
そして、戦争が勃発して十年後、とうとう、終わりはやってきた。
この国のまけとして。
だから、おれは潔く散って生きたいと思う。
だけど、
だけど雪音は
雪音だけは
あのこは、ずっと自由を知らなかったんだ。
両親さえも覚えていない。
不器用にしか、愛せない子なんだ。
だから、彼女は自由に
世界を、他人からの愛を、ちゃんと受け取って、自分からも愛せるように、ほかのだれかから、俺じゃない誰かから、教わってほしい。
けれども
あのこはずっと 助けてくれた父の顔を 忘れたままで
生きていくのだろうか
だから
―――――――――――最後の賭けを
嫌われてもいい。
だけど、一か八かの賭けに
彼女の記憶を、取り戻す。
『誠司様、お願いが、あります。』
自分を助けて。彼女を助けるために、自分を。
白蝋で作った自分そっくりな首。
たらした少量の血。
そして自分は、あの地に戻る。
一人ぼっちだった始まりのあの地へ。
一人ぼっちの終わりに終止符をつけたあの地へ。
その先にある未知の地をめざして―――――――――――
*** *** *** ***
「それが、すべてです。」
長くに渡り語り継げるもの。
だれも、なにも言わなかった。
ただ、誰もが総司の顔をみて、はぁ、とため息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁああ・・・。なんで、そんな大事なことを、私たちに言わないの。」
紗枝が、ため息と一緒に、言葉を吐いた。暖かい、陽だまりの言葉。
「ほんとだよな。そしたら、今頃、誠司さんとそこに居るクズを持ってって、総てが丸く収まるはずだったのによ。」
肇が紗枝の方をパンパンならした。
「そうだな。そしたらもっと早くこの地に来ていた。紗枝を解体して食おうとは思わなかったぞ。」
あまり見ない勉の微笑みに、なに、くおうとしたの!?、と紗枝が悲鳴を上げる。
「そうよ。ね、領主様。じゃなかったら、狩りしたいなんていいませんでしたよね???。」
いろんな意味がこめられている萌の言葉。
「あ、そう・・・・・かも・・・。」
おびえる領主の大紀。
変わらない、あのころと。
皆がいたころと、かわらない。
だから、やっていけたはずだ。
大丈夫、待ってるよ。
ゆきね
だから
はやくおいで