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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第二章 参 動乱の涙
そんな、素直でやさしい総司さんを、何が変えたのかはわからない。
戦が始まった年----私が十のころから、三年。総司さんは有路ノ国の敵国----蒼路ノ国に行ってしまった。
そして、一年が立ち、私は----とどまらずに追いかけた。敵国へと足を運んだ。
ほたほたと、雪が降っていた。
身についていた運動神経や反射神経を活かし、敵の城の裏庭まで入った。
「だれだ!?。」
ここまできて見つかった。
ああ、私の人生はここまでのようです、総司さん。
意を決し振り返ると------
「雪、音・・・・?。」
懐かしい、声音が、私の名を呼んだ。
その声は、ずっと追いかけてきた人だった。
「総司、さん・・・・。」
「・・・っ。」
総司さんが、早足で、こちらに来る。やっと逢えた。一年がたち、でも、逢えた。あのころの総司さんと変わらない総司さんと。
ばちん
潔く、音が鳴った。
一瞬何があったかわからなかったが、熱身を帯び始めた左頬をなでると、痛みが増した。
たたかれ、た?
「なんでここにきたんだ。」
押し殺したような----いや、圧し殺したような声が耳を貫いた。
「そう、じ、さ・・・・?。」
「何でここにきた。俺らは、もう------敵だぞ。」
敵、その言葉を聴くと涙がじわじわとにじんでくる。
「逢いたくて、来た。その理由は敵同士では通じない。もうそんな時代なんだ。俺とお前は敵で、あってはいけない存在。殺されてもおかしくはないんだぞ。」
「そうじさん・・・・。」 すわ
突如、雪音は、雪の降り積もった地面に正座った。
「おそばに、いさせてください。」
「おい・・・・。」
「いやなんです。私、おいてかれることが怖いです。もし・・・もし、総司さんが死んじゃったら----。」
「さっきの言葉、聞いてたのか?。」
「それでも、私は昔の仲間を裏切ってでも、総司さんのお側に居たいんです。いっしょに、居たいです。拾ってくれた、たった一人の、お兄ちゃんみたいな人だから。」
「・・・・・。」
沈黙が流れる。
もしかしたら、泣いても許される問題じゃないのかもしれない。時代、なのだ。これが。残酷で、悲しくて、哀しい。
国を決める決戦。
「雪音。」
右手が振り上げられた。
----また、たたかれる――――――!!!!
痛みを承知して眼をぎゅっと瞑った。
そして-----
痛くは、なかった。
柔らかいような、硬いような、大きなものが、覆いかぶさった。
「ごめん。一人にして、ごめん。」
「総司さん?。」
「お前のためを思って残してきたのに、やっぱり俺は、お前にそばに居てほしい。」
十九にもなってまだ、妹離れができないのか、総司さんは笑った。
「やっぱり、お前が居ないと仕事がはかどんない。居ないのに、お前の名前を、呼んでしまうんだ。」
そういって、ぎゅっと私の体を抱きしめた。
あったかい。
そして、すくっと立ち上がり、私を立ち上げると、紅い傘をさした。
「・・・・はやく、春がきてほしいですね。」
空を見上げて、私は言った。