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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第四章「再会と再開」
城に浚われてから、三日。
何度も探したけれど、どこにも居なかった。
ということで、誠司と和樹のいる地下牢へといってみた。
こつんこつん、と私の小さな足音しか聞こえない。
本当に静かだ。
あまり人の居ない地下牢で、二人をさがすのは、容易なことだった。
二人は、敵国----蒼路ノ国の者で、誠司は、皇子であったけれど、父の葵が大嫌いだった。和樹は、雪音と同じのお世辞にも強いとはいえない剣客だった。ちなみに、雪音は、和樹があまり好きではなかった。
「おぉー。本当に来た。――久しぶり、雪音。」
「よぉ、裏切りも----。ごふぅっ。」
裏切り者とでも言おうとしたんだろう。和樹は、険悪な表情の雪音に蹴られ、わき腹を押さえている。
「お久しぶりです。誠司様。その節は本当にすいません。」
「いや、俺も親父大嫌いだったから、むしろありがとうといいたい。」
「・・・・・・・・・おい、俺にはあいさつねぇ-------ぐぶぉえぁ!!。」
和樹は今度は鳩尾を押さえだした。
「ありがとう、ですか?。私国の討伐にはかかわってませが・・・。」
「いや、あの動乱の中、よく生き延びてくれた。また逢えて、本当にうれしい。」
「誠司様・・・。私も、うれしゅうございます。それで・・・・。」
雪音は、最後の言葉を濁した。言ってもいいのか、言わないほうがいいのか、どちらかわからなかった。けれど、誠司なら読み取ってくれるだろうと、かすかに希望を感じた。
「ああ、総司のことだろう?。俺も知らない。一回、そこにのびているクズ(和樹)とお願いして総司を探しにいったんだが、あいつが居そうな滝の裏にはいなかった。」
「・・・・そう、ですか・・・。」
滝の裏----考えもしなかった。
そこまで真剣に考えて、探してくれたんだ、と思う。
そこにのびているクズは、ちゃんと探してくれたのか、と疑問も感じるが、そこはまぁ、いいとする。
「誠司様。ありがとうございます。では、先を急ぎますので・・・。」
「ああ、気をつけてな。」
そうして、地下牢を後にした。
ああ、本当に静かだな。
地下牢の廊下を歩いていて、改めて、雪音は思う。
----私の靴音と――涙の音しか聞こえない。
*** *** *** ***
そのころの大紀と隠密と側近たち。
「なあ、もうそろそろ、大丈夫じゃないか?。」
大紀が頬杖をついた。萌はべしっと手をたたいた。
「その料理の火加減を待つ子供じみた発言はやめてください。もう、三十路にもなったっていうのに。――それほどにも、雪音の記憶はつらいものなんです。」
「でも、もうあいつは二十歳だぞ?。そろそろ超えねばならないぞ?。」
紗枝は、ふぅ、とため息をついた。
「おやかた様も、見たでしょう?。総司様と、私たちと一緒に。アレを。」
「ああ。むごかったな。」
勉は大紀の羽織を持って部屋に入る。
「・・・雪音の話ですか?。」
「ああ。どう思う?。もうそろそろ記憶を----。」
「俺も反対です。地下牢に居るやつらにも話したらきっと反対されると思います。」
皆に意見を反対される大紀を、苦笑しながら肇は見た。
「肇ぇ。」
「俺も、反対です。」
「・・・・・・・・・・・・・・。なんで、なんで皆おれの意見に反対するんだよぉ!!!!。」
紗枝が手を上げた。
「絶対に、雪音は、悲しみます。」
続いて萌も手を上げる。
「絶対に泣くと思います。」
勉もまた、手を上げる。
「壊れてしまう可能性が高いです。」
そして、最後に肇が、止めを刺した。
「俺たちのこと、忘れてしまう可能性もあるんです。」
「・・・・・・・・・・。」
沈黙が流れていく。
だれも、気づいては居なかった。
その話を、雪音が静かに息を、気配を殺しながら、ふすま越しに聞いていたことを。