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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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間隙 弐 「最終局面」
雪音は、にっこりと笑った。
男子の格好をしていてもばれるであろう、声音で話す。
「あ、う・・・・。」
八人は押し黙り、そして-------
脱兎のごとく逃げ出した、
*** *** *** ***
「おい、いいのか?。」
「なにがです?、和樹君。」
横目でちらりと見る和樹を、気にも留めず、雪音は、歩き続けた。
「あいつら侵入者-----。」
「帰ったからいいでしょう?。もてない男の和樹君。」
「おい・・・・。」
そんな和樹を気にせず、雪音は、思った。
「最終局面、開始だね。」
彼らが来たということは、姫と、あの少女を取り返しに来たということ。もうそろそろ、長い戦の終わりが来る。
「おい、雪音。」
「・・・・・・・・・。」
うしろから、小さい足音が二つ。
どうやって逃げ出したのだろうか。あの姫と少女は。
どうやら和樹は気づいていないようだ。
「和樹君。いきましょう。わたし、おなか減った。」
「おっまえなぁ・・・・。」
ちらりと後ろに目線を配ると、姫と眼があった。
方眼を瞑って、和樹には見えないように手を振る。----お逃げなさい。
地下牢を出たとき、鍵を少しゆるめに閉めたのは、私だけの秘密だ。
*** *** *** ***
無事に、姫たちは逃げ出し、有路軍と合流する。
そのころの有路軍たちの様子は、もう一つの別のお話。
*** *** *** ***
その夜。
「おい、雪音。」
すごく懐かしい声が聞こえた。
もう聞きなれたはずなのに、何年も会っていなかったような気がする。
振り向いた先には、総司さんがいた。
「おかえりなさ----。」
口を、手でふさがれる。
んぐんぐとうなっても、蒼持参は、完全に手を離してくれなかった。
「逃げろ。」
・・・・・・・え?
心の中で、疑問符がたくさんつく。
「今すぐ、ここから。明日、有路軍が、ここをのっとりに来る。少数精鋭で。」
ゆっくりと、総司さんが手を離すと、しゃべりたかったはずの言葉が、何も出てこなかった。
「それ、じゃぁ・・・・。本当に・・・。」
戦は終わるのだ。明日。この国の負けとして。
「にげろ。いいか。今すぐだ。明日、お前が捕まったら、何をされるか、わからないんだぞ?。
首を切られるかもしれない。二度とこの地に踏み出してはもらえないかもしれない。すごく、つらいものだぞ?。」
「でも、総司さんは・・・・!?。」
「おれは、すぐに行くよ。だから、先に待っていてくれないか?。そうだな。二人で歩いた、桜並木。そこで待ち合わせ。」
それが、うそだとわかったのは、総司さんの瞳が、悲しそうだったから。二度と、会えないことを意味していたように思えたから。
「いや・・だ。一緒に居ます、私も!。」
「おい、俺が信じられねぇのか?。俺がうそをついたことあったか?。」
何回もありましたとも。
そういいたいのに、唇が引きつって何もいえない。
ぽろぽろぽろぽろ雫がしたたりおちては 乾いた畳に吸われていく。
「大丈夫だ。約束だ。絶対、お前に会いに行く。お前が居る場所が、俺の帰る場所だから。な?、妹よ。」
「・・・・・本当ですか?。」
「ああ。」
「なら信じます。その言葉。待ってます。必ず・・・。」
そばにおいてあった黒い小太刀を持つ。
「必ず、帰ってきてくださいね・・・!。」
それが、総司さんとの最後の会話であり、顔合わせだった。