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作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (総ページ数: 42ページ)
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「さて、どこ行こうか」
クレープを食べ終わり、移動しようと霧が立ち上がってズボンをはたく。
三波も立ち上がって、霧に向かって言った。
「あの、私行きたいところがあるんです。良いですか……?」
遠慮がちに問うと、霧は笑顔になって返した。
「駄目だなんてとんでもない! 一緒に行こうよ。ね?」
霧の笑顔に、三波も顔を輝かせる。
二人並んで、再び人混みの流れに乗った。
人の流れを掻き分け、あまり早いスピードではないが着実に進んでいく。
霧の前を歩いていた三波の足が止まった。
「ここです」
ガラス製のドアに手を掛けると、それはあまりに軽く、音を立てずに開いた。
店内はひっそりとし、ピアノ音楽が静かに流れている。
女性店員はこちらを向くと、にっこりと笑っていらっしゃいませ、と優しく言った。
不思議な雰囲気の店だった。
置いてある商品などは女の子向けのアクセサリーや小物等なのだが、時間だけがゆっくりとしていて、まるで骨董屋のような風情である。
辺りを見回すと、三波は恍惚のため息を漏らした。
よほど訪れたかったのだろうか、何を見るのにも深緑の瞳がきらきらと輝いている。
「素敵……」
こういう一面を見せられると、霧もどきっとすることがある。
三波はいつも生徒会室で真面目に電卓を叩き、書類を記入している人物だ。
それが、こんなにも女の子らしい別の一面を見ると、まるでその人の秘密を知ってしまったようで、嬉しいような申し訳ないような気分になるのだ。
彼女が今見ているのは、髪に飾る類のアクセサリーである。
霧もそこに近近付き、台の隅の方に置かれていた銀色のヘアークリップを手に取った。
銀と緑で作られた、小さな薔薇があしらわれている。
「三波ちゃん」
「はい?」
嬉しそうな表情のまま三波が振り向く。
そんな三波の眼鏡を取り、髪にそのヘアークリップを付けてやる。
「やっぱり。似合うよ」
彼が嬉しそうに笑うと、彼女もまた一層嬉しそうに微笑む。
「では、これを買ってきます。ちょっと待って頂けますか」
「いや、いいよ」
三波の髪からクリップを抜くと、霧は自らレジの方に向かい、代金を払った。
「はい。僕から三波ちゃんにプレゼント」
「そんな……! 悪いです。お金、払いますから……」
「いいんだ。僕に奢らせて? 僕が君に何かしてあげたいんだ」
僕はもうすぐいなくなるだろうから、という言葉は口の中で泡になって消えた。