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作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (総ページ数: 42ページ)
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「あっ!」
途端、三波が小さく悲鳴を上げて倒れこんだ。
三人が同時に振り向く。
「三波ちゃん、大丈夫!?」
彼女は顔を顰め、足首を押さえているようだった。
「挫いたのか!?」
兄である北都が駆け寄って言う。
頷きはしないが、その表情から肯定しているのは分かる。
皆が黙りこくってしまった中、霧は違った。
肩から外套を外し、三波の肩に掛ける。
「三波ちゃん、大丈夫? 少し我慢しててね」
そしてポケットからハンカチを引っ張り出すと、方膝で屈んで三波の足を固定し始める。
突然の出来事とはいえ、他の皆が呆然としているのに対し霧は極めて冷静だった。
「少し痛むかもしれないけど、これで大丈夫だから。でも家に戻ったら必ず病院で見てもらってね」
固定したばかりの足から目を離し、自分は膝を突いたまま立った三人の顔を交互に見た。
「ここまで来れば、きっともう大丈夫な筈だ。壁は崩れてはいないだろう?」
確かに周りを見るとヒビは入っているものの、崩落はしていない。
ここからなら出口を捜すことも難くないだろう。
「君たちは先に出てて」
「し、しかし会長は……」
すると、彼にしては滅多に無い鋭い眼で北都を制した。
「僕はまだ、やらなきゃいけないことがあるんだ」
そう言って立ち上がる。
彼らに背を向けて走り出そうとする霧に、座り込んでいる三波が声を張り上げた。
「あの!」
咄嗟に霧が振り向く。
「――また、帰って来たらまた、何処かへ一緒にお出かけしましょうね」
最後に強張った顔がふっと緩んで優しい笑顔をつくる。
「……ああ、そうだね」
今は鋭くなっていた蒼い眼が、柔らかく微笑んだ。
「また、髪飾りを買ってあげるよ。楽しみにしててね」
それだけ言うと、今度は本当に走って行ってしまった。
彼らはそれが見えなくなるまで見届けると、北都が霧の外套ごと三波を抱え、工事現場に突如として現れ、突如として崩壊を始めた大理石の建物を後にした。
霧がたった今来た道を引き返し、豪奢な椅子があった場所に駆け戻ると、もうすでにそこはさっきまでの様子を残してはいなかった。
そこはまるで宇宙空間のように黒く瞬き、足場が見えずに宙に浮いているようだ。
ところどころにカンテラが浮き、辺りを優しく照らしているものの、やはり足元は見えない。
「やあ、来たね」
何処にあるか分からない場所に立ち、彼の父と名乗った男は彼を待っていた。