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我落多少年とカタストロフ【完結】
作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s  (総ページ数: 42ページ)
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「ねぇ、お前はこれを見ても、まだこの世界を明け渡さないと言うのかい?」
 男が右手を真横にあげ、水平に動かすと、唐突にそこに巨大な像が出現した。
 そこに映っているのは、見慣れた街の風景だ。
 しかし、何か違和感がある。
 道路や建物の一部が著しく崩壊しているのだ。
 その崩壊は止まる様子を見せず、堅いコンクリートの地面に穴を穿ってゆく。
 霧は思わず歯噛みした。
 何とか崩壊を止めさせなくては。
 それには、まずこの男――!
「どうした? ――うっ」
 彼が男に体当たりを食らわせたのだ。
 気休め程度にしかならないが、何もしないというのも不安である。
 うつ伏せで倒れた男の腕をとり背中で固定する。
 付け焼刃ではあるが、ちゃんとした先生に習った本格的な体術である。
 まさか男も高校体育仕込の柔道に負けるとは思ってもいなかったのだろう。
 驚いた表情で地面を見つめている。
「今すぐ崩壊を止めろ! でないとこの腕をへし折る!」
 緊迫した表情で霧が叫ぶと、男は呆れたようにため息を吐いた。
「お前は私一人斃したところで、これがどうにかなるものだと思っているのか?」
「……何?」
 男は首だけを動かして笑みを含んだ眼でこちらを見る。
「少し前、テレビが核変動の危険性を放送していたのを知らないのか?」
「それがどうしたって言うんだ!」
「分からないのか。それほど前から準備をしていたということは、止めるのも一朝一夕ではいかないということだよ」
 それを聞いた途端、霧は愕然とした。
 それでは、“あちら側”から“こちら側”を護ることなど今からでは到底出来ないし、ましてや友人達を救おうとするのすらままならない。
 呆然とした霧の脚の下で、男が笑った。
「ほら、お前はどうするんだ? 彼らを護るんだろう?」

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