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我落多少年とカタストロフ【完結】
作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s  (総ページ数: 42ページ)
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10~ 20~ 30~ 40~

*4*

 暗い部屋、とてつもなく黒い部屋だ。
 最早、それが部屋なのかどうかすらも分からない。
「……?」
 目の前に立っているのは、黒い外套と頭巾で全身をすっぽりと覆った人物だ。
 それの所為で、人物の口元しか見えていない。
 人物の口元が、にいっと笑った。
「北城・霧・コラプス。お前は、自分の名の意味を知っているな?」
 霧はこくりと頷く。
 黒衣の人物は続けた。
「ならばそろそろ自分の置かれた場所の意味を知るといい。……ほら、ぼやぼやしていると、あの日がやって来てしまうぞ?」
 そう言うと、黒い部屋と人物は、濃霧が霧散するように消えてしまった。
「……はっ!」
 霧はソファから身体を持ち上げると、慌ててサンダルを引っ掛けて外に駆け出した。
 外は相変わらず夏の晴れた空で、人々が汗を拭いながら足早に歩いていく。
 霧に不審な眼を向ける人もいたが、霧はそんなことを微塵も気にせずに、しきりと辺りを見回している。
 彼の暗く慌てた顔に、蝉が五月蠅く鳴く声が反射する。
 やがて霧は安心したようにほっと溜め息を吐くと、急に羞恥心を覚えて家の中に戻った。

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