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我落多少年とカタストロフ【完結】
作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s  (総ページ数: 42ページ)
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10~ 20~ 30~ 40~

*5*

 時計を見上げると、三時少し前である。
「あ、やばっ……!」
 帰ってきて、昼食も摂らずに昼寝してしまったのだからこの時間に驚くのも無理はない。
 しかも、今日霧はこの時間に約束があった。
「やばい、遥香と悠人に怒られる……!」
 ショルダーバッグに荷物を詰め込み、サンダルを履いて自転車に飛び乗る。
 一心不乱にペダルを漕ぎ、住宅街から大通りまで抜けた。
 最初は焦っていた霧だったが、そのうち全力で町を駆け抜ける疾走感と向かい風が髪を嬲っていくのが面白くて、最後には笑いながら息を切らしていた。
「あっ、キリ来た!」
「おせーぞ!」
 案の定、待ち合わせ場所では二人が霧を待っていた。
「ごめんごめん、眠り込んじゃって……」
 力無く笑うと、二人もそれを察したのか、悠人が霧の肩を抱いて言った。
「よし、じゃあまずメシだ! キリ、何食う?」
 昼食を摂っていないことを二人に気遣われてしまい、霧は少し困ったように返した。
「僕はどこでもいいよ」
「駄目だ。お前の昼飯なんだから。かわりにアイスとか奢れ」
「ユウ、それは駄目。お昼食べてないのはキリの所為じゃないでしょ」
「いやぁ、僕の所為だよ。家帰ったらなんか眠くなっちゃって……。気付いたら三時だったんだ」
 何でもないように微笑む霧を見て、二人は安心したようである。
「じゃあさ、ユウがアイス奢ってくれるって言うから、行こ!」
 遥香が霧の自転車の荷台に飛び乗る。
「あ、おい! 誰が奢るって言ったよ! ハル! キリ、待てよ!」
「キリ、出して!」
「うん!」
 霧と遥香を乗せた自転車は軽やかに走り出した。
 それと対照に、悠人は炎天下の元、汗だくになりながらそれを追う。
「待てってば!」
「早くおいでよ!」
「ばっかやろー!!」
 暑い夏の町に、悠人の悲痛な叫びが響いた。

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