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僕は名のない公園で青空を見上げる【完結】
作者: 桜音 琴香 (総ページ数: 40ページ)
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作者: 桜音 琴香 (総ページ数: 40ページ)
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*17*
平野が言っていたんだが、最近 かをりと徳光部長の
ことが噂になっているらしい。部長がかをりに
別れを告げ、その翌日にもうひとり彼女を
作った、と。だからかをりは美術部に顔を出して
いないのか。あの時 浮かべた縦皺は部長が
原因なのか。今まで部長と女の子がもめることは
いっぱいあった。だが、今回は今までみたいに
軽く流される問題ではない。かをりに好意を寄せる
男子生徒が、部長を酷く嫌っているのだ。
おそらく、かをりは美術部を辞めるだろう。部長と
いると気まずいだろうし、ショックを受けたと思う。
部室に川上凛が逸早く来ていた。筆が握られた細くて
長い指は、まるでピアニストのように美しい。
「水沢くん、話すのは初めてだよね。よろしくね」
椅子に座っていると、川上凛が絵を描きながら
話しかけてきた。「うん。よろしく」ちらっと
見たが、川上凛は海の絵を描いていた。その青色は
とても美しく、それなのにアンティークな雰囲気を
生み出していた。この前 部長が川上凛に絵が
上手だ、と褒めていたがどうやらそれは世辞では
ないらしい。川上凛の絵は本当に上手かった。
「水沢くんってさ、かをりちゃんのこと好きなの?」
その返事に、僕は少し迷った。別に好きでも
なければ、嫌いでもない。微妙な感情だ。
「好きじゃないよ。嫌いかと言われれば、
否定するけどね」僕は瞼の裏にかをりの笑顔を
なぞった。可愛らしい笑顔は、いつまでたっても
頭から離れない。「私のことは、嫌い?」
僕は川上凛を見た。その瞬間、川上凛の瞳が
僕の瞳と合わさった。先に目をそらしたのは、僕だ。
「嫌いじゃないよ」僕は彼女の目を見ないまま微笑んだ。
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