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*123*
「いやあ、本当に痛かったな。目の前に星が飛び散ったようだったよ」
フレッドが陽気に後頭部のたんこぶを押さえて笑う。エリオットは無言のままだったがフレッドはさして気にしてないようだった。
ティアラは来賓客用の部屋に通され、不安げに椅子へ腰かけていた。
「あの、フレッドさん。私の運命を左右するような情報って何なのですか?」
問い詰めるように聞くと、フレッドは真っ直ぐティアラの方に向き直って笑顔を浮かべた。
「そんなに強張った顔をしないで。ただ、私は君に職人になりたい意志が本当にあるのか聞きたい。それによって私の持ってきた情報の有無が決まるんだ」
口元は笑っているのにフレッドの目は真剣だった。何もかも見透かされていそうで素直に答えなければいけないと悟る。
「今の君は見習い職人だ。一人前ではない。人に星硝子を売ることができる一人前の職人になるには国家試験を受ける必要があるのを知っているね」
ティアラはうなづいた。何年かに一度、職人の資格を定める試験がある。それに合格しなければ見習いのままなのだ。
「君は一人前の職人になりたいかい」
「はい、なりたいです」
ティアラは迷うことなく断言した。意志は何年も前から決まっている。それは幼い頃、細工師を夢見た少女のときからだ。
「ならば君は来年開かれる国家試験に受けなければならない」
「来年、国家試験が開かれるんですか!?」
初耳だった。国家試験は不定期に行われるため、いつ開催か分からない。数年間に一度しか行われない時もあれば、毎年行うときもある。
「来年の試験を受けなければ君は職人にはなれないだろう」
「え……?」
衝撃的な言葉にティアラは放心した。一体それはどういうことなのだろうか。膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。
「君は今、学園で学び励む事を条件に生活費を全て免除されている。だが数年後、卒業したときに君一人で生活していけるかい?」
心が不安という名の分厚い雲に覆われたのが分かった。その事実はいつも頭の隅に引っ掛かっていた悩みだ。
「両親の残した財産だけでは到底無理です。だから私は星細工を売って生活しなければならない」
「そうだね。けれど職人の資格を国家試験に合格して取っていなければ星硝子は売れない。だから君は在学中に職人へとならなければいけないんだ」
それはとても険しい道に見えた。けれど逆にティアラは心が落ち着いていくようだった。自分の漠然とした未来に進むべき道が見えたようだ。
「私が職人になりたいのなら次の国家試験を必ず受けなければならないんですね。なぜなら国家試験は不定期に開催されるため、今回を逃すと次の開催は私が卒業した後かもしれないから」
「そう、呑み込みが早いね」
満足そうにフレッドはうなづいた。ティアラの目は決心で固まっている。
「なら、私は来年の国家試験を受けて絶対に合格します」
強い意志が瞳から溢れ出るようだった。フレッドは穏やかにティアラを見つめる。
(いつからこの子はこんなに強くなったんだろう)
フレッドは今までティアラが経験してきたであろう困難を想像した。人は苦難を強いられて強くなっていくものだからだ。
(そしてまた私はこの子に苦難を授けるんだね)
それは少しだけ悔いられた。久しぶりに会った彼女の周りにはティアラを愛する仲間たちで溢れていた。それを自分はこれから取り上げてしまうのだ。
(ごめん、だけどきっと君はもっと強くなる)
フレッドは一呼吸置くと、ティアラに最後の質問をした。
「国家試験を受けるために君はこの学園を出なければならない。君にその覚悟はあるかい」