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銀の星細工師【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 135ページ)
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*30*

そのままフレッドによるキースへの口説き文句が始まったので、二人をほっといてティアラはちゃんと食べていなかった料理をとりにいく。
 バイキングかというくらいの種類がある料理に悩んでいるとヒューが眼の視界の隅に移った。
「ヒュー」
 勢いで呼び止める。ヒューはこちらを振り向くと優しい笑顔でやってきた。
「やあティアラ。今までどこにいたんだい? 探したんだけど見当たらなくってさ……」
「う、うーん。ちょっと、ね?」
 ワイングラスを作ってた、なんて突拍子もないこと言えないないので、明後日の方向を見る。
「まあいいや、会えたんだし。もう帰っちゃったかと思ったけど、よかった」
 くすぐったくなるような声音にティアラも笑顔でうなづく。こんな大勢いる中でなかなか一人の人物を見つけることは難しいだろうと思えたが出会えて嬉しかった。
「ヒューはもう料理食べた? できればオススメなんか教えてくれるといいんだけど」
 なかなか決まらない料理にヒューの意見を仰ぐ。
「それなら……僕はこれかな」
 少し歩いた先にある料理をヒュー自らとってきて渡してくれた。ふわふわのフレンチトーストだ。ベリーやホイップが乗っててポップな見た目だ。
「もしかして、ヒューって甘党?」
 先ほどもパンケーキを手渡してくれたし、ヒュー自身も甘いケーキや柑橘系のジュースを飲んでいた。
「まあね」
 恥ずかしそうにヒューは照れ笑いながらうなづく。
 わたあめを食べてるような柔らかいフレンチトーストは口に入れると、すっと消えるようになくなりいくらでも食べれる気がした。

 パーティーも終わりに近づくころ、これから始まる夜会にはまだ幼いからとティアラたちは帰ることを勧められた。
 もうフレッドの星硝子細工も見終わったことだしお腹も膨れたのでティアラは素直に城を出る回路を進む。
 その時フレッドが慌てたように駆けてきた。
「待って、ティアラ嬢。そういえば君に伝えたいことがあったんだ」
 一緒に歩いていたキースも立ち止まって振り返る。
 フレッドは招待状の時よりも大きい用紙の入った封筒を差し出した。中には薄い冊子が入っている
「これは星硝子細工師や狩り人を目指す人の集まる学院のパンフレットだ。ここでは星硝子についてたくさんのことが学べるし、国家試験だって受けられる。どうだいティアラ嬢、興味はないかい?」
 受け取ったパンフレットには眼を惹かれるような卒業生の星硝子細工の絵と大きな太文字で『スターグラァース学院』と書かれていた。
 ページをめくっていくごとに歓喜の声をあげそうなるほどティアラの理想や夢が詰まっていた。
「学院名そのまんまだな」
 キースもパンフレットを覗き込む。ティアラはきゅっと手を握りしめた。
「行きたいです。でも……そこまで金銭の余裕がありません」
 両親がなく貯金で暮らしている状態だ。学院費なんて払えない。それにそろそろ手に職をつけないといけない頃だ。
 フレッドの誘いは願ってもみないほど嬉しいものだったが、現実は目の前に押し迫っている。
 悔しさでくしゃっとパンフレットが折れそうになるぐらい手に力を込めた。
  しかしフレッドは問題ないよ、とティアラの頭の上に手を置いた。
「君は私の推薦で入れようと思うんだ。実は今日、ワイングラスの件で君の腕前はかなり確かなものだと感じたんだ。君の作業を進める手つきは早い。もう何十年も星硝子細工師をやっているような慣れた手つきだ。それに技術や知恵を加えたら、私は君がとんでもない大華に化けると思う」
 ティアラは眼を見開いた。
 ただでさえ星硝子細工については雲の上のような人間にそんな言葉をもらえるとは思わなかった。
「一級星硝子細工師にはね、年に二人だけスターグラァース学院に推薦できる権利があって、推薦を受けた子たちには奨学金《しょうがくきん》もつくんだ。奨学金で生活費もおりるし」
 学院費も生活費も出るなんて、貯金暮らしの危ない状況には万々歳ではないか。
 ティアラは少しだけぼうっとフレッドを見つめた。なんだか詐欺にあっているような気分がする。
(それほど、夢みたいな話なんだよね……)
 不信がティアラの心に積もったのをフレッドは感じると、慌てて口を開いた。
「この話、嘘なんかじゃないからね!? 今まであまり推薦はしてこなかったんだけどティアラ嬢は見どころがあるみたいだがら、むしろ行ってほしいっていうか……。スターグラァース学院に来ないか」
 差し出された手に、ティアラは一瞬戸惑ったが、キースがとんっと背中を押した。その仕草が「行ってみればいいじゃん」と言っているようで、ティアラはフレッドの手を取った。

「――はい、行きます!」
  
 思いっきりうなづいた。その元気のよい返事に温かくて大きな手でティアラの掌を握りるとフレッドも満足げに返事を返す。
「じゃあ折り入って詳しいことは、また手紙で送るから」
「ありがとうございます、フレッドさん」
 
 これは自分でつかんだチャンスだ。
 キースが言ってくれたように、分かりもしない未来に不安を抱くだけでなく、「行ってみればいい」。なにが起こるかなんてまだ分からないし、決まっていないのだから。
 ティアラは未知なる世界、スターグラァース学院へ夢をはせた。

【二章終わり】

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