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*24*
ティアラは首を振りつつ高鳴っていく鼓動を強く感じた。
顔は眼のあたりに仮面をしていてよくわからないが、夜空を連想させる紺色の髪には覚えがあった。きっと仮面の奥の瞳もめずらしい金色の瞳なのだろうと思う。
「あの、あなたは……」
決心して訊ねようとしたとき、急に相手が立ち止まった。
「なにされるがままで、ダンスに誘われそうになってんだ。バーカ」
「っ、やっぱり……――キースなのっ!?」
この生意気な口調の人物は知ってる中で一人しかいない。それはこの場にいるはずのないキースのものだった。
「来るなら来るって言いなさいよ! 招待状だってあるんだし。フレッドさんに来てませんって言っちゃったじゃない! てかどうやって招待状なしで入場したのよっ!?」
「盗み入った。正面から入ったらあいつにばれちまうからな」
だから仮面をつけていたのか。正体が分からないように変装しているんだろう。
「そんでただ飯食おうと思ったら広間の方が騒がしいから何事かと思えば、お前の周りに男供がわらわらと集まってきてるし。淑女らしく壁にでもたたずんでるってことができないのか、お前は」
キースは怒ったようにティアラへ言った。
なぜ怒られているのか困惑するティアラだが、それ以上にキースも自分がなんで腹を立てているのか分からなかったのだ。
「なっ、だってフレッドさんの作品すごいじゃない!? あれに魅了されるな、なんて方が無理よ」
ケースにへばりついてまで見ているのが悪目立ちしたのかとティアラは思った。
やはりティアラは自分の容姿が人目を集めていたことには気づいていないのだろう。
「とにかく踊るぞ。踊りながら場所を移動してバルコニーへ出ちまえば、あいつらだって諦めるだろう」
さらりと言いながらステップを踏み始めようとするキースをティアラは慌てて止めた。
「ちょ、わたし踊れないの。それにキースだってダンスできるの!?」
「馬鹿にするな、社交ダンスくらいならできる。俺がリードしてやるからてきとうに足でも動かしとけ」
てきとうにと言われても無理だろう、そう口にしようと思ったが腰をぐいっと引き寄せられてキースが大きくステップを踏んだ。
ティアラは転びそうになり慌ててキースの肩をつかむと、同じように足を動かす。
最初は何とかしなければと足をたじたじ動かしていたが、流れるようにダンス広間を踊りながら移動していくキースにティアラは身を任せるだけでよかった。
ティアラの下手なステップもカバーして、あたかも綺麗なダンスに見せる。それができるほどキースが上手いということに気づく。
(うっ……ちょっとかっこいいかも)
見ていたら目が離せなくなりそうなキースの顔から無理やり視線をずらして下を向く。今キースの方を向いたら今度こそ眼をそらすことはできないだろう。
しかし眼をそらすことによって今度は密着した体が気になってきてしまった。
細く見えるようでしっかり筋肉のついているキースの体はタキシードで包まれているが、絹ごしからでも感じられる。
(ちょっと待って、本当に……心臓が、壊れる)
ものすごい速さで鼓動を立てる心臓に目まいがする。その時ふっと吸う空気が冷たくなった。バルコニーへ出たのだ。
「ん? 人ごみにでも酔ったか」
目元を押さえるティアラを心配したのかキースは覗き込んでくる。近すぎてドキドキしたなんて言えるわけがなく、ティアラは小さく首を振って大きく深呼吸した。
新鮮な外の空気が熱気で火照った顔を冷やしてくれる。夜空に瞬く星が綺麗だった。
「キース、ありがとうね」
仮面を暑苦しそうにはずすキースにお礼を言う。
助けてもらわなければ今も青年たちにつめ寄られていただろう。
キースは横目でちらりとティアラを見てから「別に」とそっぽを向きなおした。
その時だった。悲鳴とけたたましいガラスの割れる音がバルコニーの下から響いたのだ。城内の大広間に集まっている者たちは音楽の音で気づいていないようだが、バルコニーにいたティアラたちの耳にはしっかりと響いた。
「なに、いまの……?」
テラスにつかまって下を覗き込む。キースが嫌な予感がするという風に顔をしかめた。
「見に行くか……」
キースはバルコニーから下へ向かって助走もなしに飛び降りる。そして3階からだというのに何事もなかったように着地した。
「ええっ!?」
人間の能力を超えるような運動神経に、驚きで声を上げながらティアラも外用の階段をつたって下へと一目散へ降りて行った。