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銀の星細工師【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 135ページ)
関連タグ: オリジナル 恋愛 ファンタジー 学園 学生 
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*46*

 学園に入学してから一週間。
 ついにスター獲得試験の日がやってきた。スターのレベルを上げたい生徒が広い実習室へ集められる。もちろんティアラも初試験ということで勇《いさ》んで向かった。ヒューやアリアも応援組として少し離れた場所からティアラを見守っている。しかし二人のほかにも、たくさんの生徒がティアラを見ていた。
 あの一級星硝子細工師に推薦された子とは、どんな腕前を持っているのだろうか。
 そんな興味が野次馬の心を騒ぎ立てる。
「えー、ただいまより試験を行います。今回の試験内容は、星硝子細工師の基本、星硝子を練ることを試験内容とします。制限時間以内に定まった量の星硝子を練り、艶《つや》や透明感などの練り具合を見ます。参加者はそれぞれの調理台へ移ってください」
 髭を撫でながら試験官が指示をだす。その指示に従いながらティアラは内心でガッツポーズをした。
(練りならわたしの得意分野だ! 昔からぞれだけはずっと練習してきたんだもの)
 もう星硝子を練る感覚は手に染みついている。無意識でも勝手に手が動くだろうほどだ。
 調理台へつくと試験官の合図がされティアラは水あめ状態で不透明な星硝子へ手を伸ばした。

 柔らかく、しかし弾力性のある星硝子を両手で押すように練る。だんだん外側へ広げ丸める。そしてまた外側へ薄く広げていく。その繰り返しをずっと続けていくとゆっくりながらも星硝子が透明感と艶やかさを帯び始める。
 久しぶりに大好きな星硝子に触れ、ティアラは小さな微笑みを漏らした。


「星硝子細工で一番大切な作業はどこですか?」
 メモ帳を持ちながら質問してくる女性に、フレッドは足を組みながら答える。
「うーん、一番大切なのはやっぱり練りかな。まあ細工する技術もすごく大事だけど、基本的なものを決めるのは全て練りの作業だし。職人の腕、一つで天と地との差ほど星硝子の質は変わっちゃからね。腕がよければ本来の星硝子より何倍も光沢感が増すし、後で細工したときに削った部分の透明感が増すんだ。だから練りの作業が一番大切」
 一言一句漏らさないよう、必死にメモへ質問の答えをかきこむ女性をフレッドはぼんやり見つめる。
 あとで食事にでも誘ってみようか。
「今日は遅くまで仕事が残っていますからね。この雑誌への取材が終わったら次は書類作業です」
 護衛のエリオットが、まるでフレッドの心の声を読んだかのように横から言った。
「分かってるよ。別に逃げ出したりしないから」
「なら安心です」
 そんなこと言ったって、どうせ逃がしちゃくれないんだろう、と心の中で悪態をつくが、口には出せない。きっと言ってしまえば倍の痛い言葉が返ってくるからだ。
 エリオットは腕もいいし、書類などの仕事も的確で素早い。事務的にはとてもデキる男、だが。
(なんでこう、こんなにお堅いのかなあ。一人ぐらい女に夢中になれば、もっと柔らかくなるんだろうか……)
 頬を染めてデレデレするエリオット……やだやだ、考えただけでも吐き気がしてくる。
 うえっと舌を出しながら苦そうな顔をするフレッドをエリオットは横目で見ながら、ぽつりと呟いた。
「……彼女が、学園に行ってから一週間ですね」
「ティアラ嬢のことかい? あの子ならもう学園に馴染んでそうだけど。……そういえば、今日は例の試験の日だったかな」
 机に置いてあった、まだ熱いコーヒーを口に含みながら思い出す。苦み走った香りが口いっぱいに広がった。
「スター獲得試験ですね。主《あるじ》は、彼女がいくつスターを取ると思いますか」
 珍しく他人の事を尋ねるエリオットにフレッドは少しだけ不思議な気持ちになった。
 親しい間がらの者の話なら分かるが、学園の件で何度かエリオットもティアラと話したことがあり面識があっても、そこまで親密そうではなかった。それに元々、エリオットはあまり他人に興味を示さない。
(これは世間話の一つか? それとも……単純にエリオットがティアラに――興味を持っている?)
 じっと探るようにエリオットを見つめるフレッドに、見つめられている本人は心底嫌そうな顔をして、少し遠ざかった。
「なんですか、気色悪い」
「な、それが主に対して言うセリフかい!?」
 少しはエリオットが変わったのかと思ったが、やはりエリオットはエリオットだ。無神経で失礼な奴。
「ティアラ嬢はきっとスター五つとっちゃうよ。なんせこの私が選んだ子なんだから」
 仏頂面で答えながら、フレッドはカップに入ったコーヒーを飲み干した。



「結果発表。ティアラ・グレイス、星なし」
 
 会場全体が一気にざわめいた。参加者も見学者もそれぞれ近くにいた人と話し込む。
「星なしなんて、俺、見たことねえよ。本当にいるんだな」
「え、あの子って推薦された子じゃないの? でも星なしなんて……」
「親のつてでも使ったんじゃね。じゃなきゃありえないだろ、星なしレベルで推薦されるなんて」
 それぞれが言いたい放題口を開き、会場内は騒がしいどころでなく、セミの大合唱のようにうるさかった。

 けれどティアラの耳には、音が一切入ってこない。
 ただ、どうして、とかすれた声でつぶやくことしかできなかった。

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