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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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10~ 20~ 30~ 40~

*27*


・ 故郷 ・

《ツバサ》

「……これが世界樹の迷宮か」
 ラクーナが微笑みながら呟いた。
「危険な迷宮だってサクヤさんがいってたけど……こうして眺めていると美しい森ね」
「ウツクシイ? なあにいってんだよ。木が生えてるだけじゃねーか」
 ラクーナがためいきを吐く。そして、アーサーに向かって呆れた様子で言い返した。
「あんたねえ……風情(ふぜい)って言葉知ってる? 同じ森でも雰囲気がちがったりするでしょ」
 「あー!」とアーサーが叫ぶ。納得したのだろう。ラクーナがそれを見やってから森をまた眺め始める。
「……うん、私の故郷とは感じがちがうわ。どこが、とは上手くいえないけれど……。ね、ツバサ、貴方はこの迷宮を見てどう感じた?」
 不意にきた質問に、少し困惑した。
 だが、すぐに俺は平然とした気持ちに戻す。いかんいかん、こういう不意打ちはよくあるって。ええと……俺は。
「この森の雰囲気もいいけど、自分の故郷もいいなぁ」
 俺の答えに、ラクーナが微笑み返す。
「ふふっ、そうよねえ。やっぱりみんな、自分の故郷が一番よね!」
 ラクーナがサイモンへと質問する。
 「ハイランダーの故郷って、どこなの?」といった。
 サイモンがうなる。考え始めたのだろう。
「……ハイランド地方の最北端と聞いている。今のハイ・ラガード公国領の山岳地帯だ」
「へえ、山岳地帯! そういうところにも、一度足を運んでみたいわね。寂しいところだとばかり思ってたけど、きっといいところなんでしょうね」
 そうだな――いいところだよ。
 俺は故郷の光景を思い浮かべ始める。
 近くの小川で小魚を捕(と)ったり。
 アユの赤ちゃんとか、シラウオとか。大人のアユなんかは、塩焼きにすると美味しいんだっけ。食べたなあ〜、家族と一緒にさ。遠くからもらってきたユズも添えてさ、ホントに美味しかった!
 あとは、原っぱで遊んだり。
 でも、よくは遊ばない。むしろ遊べないんだよなあ。だって遠いんだもん。集落には原っぱといえる原っぱがないから。
 貧しくても楽しかった。嫌なことがあってもすぐに解決できた。ど田舎な集落だったけど――楽しかったな。
「ところで、ラクーナの故郷はどんなところなんだ?」
 もしかしたら、雪国だったりして。
「私の故郷? 分かるかしら、オンタリオよ。北国なの。‘雪国オンタリオ’って呼ばれてたっけな。とっても寒くてさ〜――」
 ――あっていた!
 不意に言葉を切る。その様子はまるで、故郷の光景を思い出しているかのようだ。
 ……というか、本当に光景を思い出しているな。まぶたを閉じて懐かしそうにしている。
「エトリアよりはるかに遠いらしい。北東の方角だと聞いている。紅葉が美しく、甘い樹液が採取できるメイプルの木が評判の街だと聞くが」
 サイモンの言葉に、ラクーナが元気よくうなずき肯定した。
「さすがサイモンね、よく知ってるわ。メイプルの木からとれるシロップが名産品で、様々な料理があるのよ。例えば、鶏の照り焼きとか」
 にわとり……の、てり……やき? 鶏の焼き料理だということは分かるけど、照りってなんだろう。
「照り焼きって?」
「照り焼きというのは、醤油とミリンをつかってソースを作り、それをつかって焼いたもの、かな……。私もあまり分からないけど、そんなこと聞いたことある」
 なるほどっ! 醤油とミリンか。高そうだなあ。
「あと、カリカリに焼いたメイプルスペアリブ!」
 スペアリブは食べたことがある。美味しかった。豚の肉なのだけど、骨がついているんだっけ。骨付きの豚肉で、俺は牛しか食べたことがないから驚いたっけな。
 それにメイプルをかけているのか。いいな、ラクーナめ。
「デザートだと、メイプルアイスかな。定番中の定番ね」
「メイプルアイス!?」
 フレドリカが真っ先に反応した。すごい。目がキラキラ光っている。マンガみたいだ。
 ……マンガって、なんだ?

・ つめたっ。あまっ。ふわっ。 ・

「うちの故郷自慢の一品よ。つめたーくて、甘くて、ふわっと溶けて……」
「ラクーナは作れるの?」
 フレドリカが目をキラキラにさせながら質問した。よく見れば、両手をお祈りのポーズみたいに組んでいる。それほど好きなのだろうか。
 だが、ラクーナは困り顔。
「ん〜……それがねえ、作り方は知らないの。地元では専属の職人が作っていたから」
 言葉を耳にして一転、フレドリカの顔が曇る。キラキラさせていた瞳はふせられ、悲しいような表情になった。
「……そう」
 なんか、かわいそうだ。あ、そうだ。作ってみようかな。
「作ろうか?」
「ホントに!?」
 再び、フレドリカの目がきらりと光り始める。きらつき始める。すごい。好きという感情ってこんなにもすごいのか。
 なんとなく横を見ると、サイモンが考え込むのを見た。どうしたんだろう。
「……アイスを作ろうと思うのなら、新鮮な卵と砂糖、それに生クリームが必要だったはずだ」
「…………!」
 フレドリカの表情が、微笑む顔に変わった。
 期待しているのだろう、サイモンをじっと見つめている。
「卵と砂糖は日用品だからともかく、生クリームを用意するのは大変だろう」
「…………」
 少し曇り始めたような顔に変わる。
「しかも、それらが用意できたとしても、凍らしてアイスにすることを考えるとエトリアでは難しいはずだ」
「…………そう――」
 少し怒ったような顔になる。サイモン、実はきみってウブ? ……いかん、アーサーがじと目で見てる。すごいなアーサー。
「――いたっ!?」
 ……つねられた。痛い。
「その後にかけるメイプルだって、オンタリオから届けてもらわないと手にいられないだろうな」
「――ね! そうね、まったくもってそうだったわね! 期待していた訳じゃあないし。ほら、さっさと歩きましょ。転移装置に行くんでしょ」
 フレドリカは足早で歩き始める。そして、数歩歩いてからこちらを振り返った。
「ほら、早く! 無駄話している暇なんてないのよ!」
 ――ああ、完璧に怒ったなあ。
「男子三人組、ついてきなさい!」
「「……?」」
 サイモンとアーサーが首をかしげる。
 ……アーサーもウブかい?
「……乙女心は複雑なのにねえ」
 ラクーナがためいきを吐いた。

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