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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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10~ 20~ 30~ 40~

*3*

・ 冒険者の街へ ・

《ツバサ》

 ガラガラガラ……という、馬車の車輪が回る音が聞こえる。
 それは当然だ、とも思う。俺は今、馬車の後ろにいるからだ。
 ……あれ? と不思議に思い首を傾げる。
 俺はなんで馬車の後ろにいるんだ? 門は、馬車が通る門と、人が通る門とで別れているはず――。
 ――まあ、いっか。
 楽観的に考えることを絶ちきり、俺は黙々と歩いていく――ときだった。
「おーい!」
 不意に少女の声が聞こえた。若い女の子の声だ。聞いたところだと、きっと十五歳から十七歳ぐらいだろうか。
 声が聞こえたほうへと振り向くと、思ったとおりの年齢に見える少女が、お団子ヘアに結んだ髪までもゆらしながら、手を振っていた。
 ……来い、ということか?
「歩きはこっちだよー!」
 俺は、少女のやわらかい茶色の髪がはっきりと見えるところまで、走っていった。
「お前も冒険者なのか?」
 少女の隣にいた、灰色のフードをかぶった男性が話しかけてきた。見つめる瞳は、まるでトパーズのようだ。黄色の色素が太陽光に照らされ、少し眩しく見える。
「今エトリアに来る人間は、みんなそうでしょ?」
 俺へとした質問は、少女が答えてくれた。その口調は、まるで「当たり前のことじゃない」といっているようにも感じられた。
「前の村じゃ、考えられんな」
 橙色の髪をなびかせ、男性が笑いまじりにいった。
「そりゃそーよ」
 また不意に聞こえた声に、男性と少女が後ろを振り向いた。
 それは濃い桃色の髪をドリルツインテールに仕上げた女性のものだった。少し大人な声だったから、二十歳前後の年齢だろうか。
「なんたって、ここは冒険者の街――エトリアなんだもの!」
 ――エトリア。冒険者の街。
 昔は寂れていたこの街は、今や、とある知らせにより賑わいを取り戻している。
 『世界樹に至り、その地下深くまで到達せよ!』――。
 その知らせがエトリアがある大陸だけでなく、他の大陸全土に届き渡ってから、ほんの三ヶ月しかたっていないのに。
 ――一週間前のことだったな。
 俺は、呆然とこの地に来たきっかけを思い返した。

   ***

 ――ハイランド地方最北端。そこにあるハイランダーの集落で俺は日々を過ごしていた。
 里で暮らしていたある日――俺がいつものように川で魚をとっていたときだった。
「おい、ツバサ!」
 俺と同じ色をした髪をゆらしながら、一人の青年が駆けてきた。
「リューエン!」
髪色と同じ茶の瞳は、まっすぐに俺を見据えている。そして、駆けて行きながら、人当たりのいい笑顔を作って手を振っていた。
 そいつの名前は、リューエン・ヴェイスといった。
「どうしたんだ、一体? なにか良いことでもあったのか?」
 ふるふると首を振り、リューエンはささやくように告げた。
「違う! お前、もうすぐこの集落を出られるかもしれないんだ!」
「本当か!?」
「ハイランダーであることを秘密にする、という条件付きだけどな」
 ――外に出られる――。
 それは、ハイランダーでもっとも嬉しいことでもあり、もっとも嫌いとするものだった。家族を大切にする者ならば、行きたくないと願う。逆に、俺やリューエンのような若者ならば、行きたいと願う。だいだいの理由は、‘やるべきことが見つかる’という理由だった。
 ハイランダーの集落は、都会人にはあまり知られていない。その理由は、武勇一族として戦争にかりだされるのかと不安で、生活を質素にしていたからだ。
 だから、毎日の食事は、野生の鶏の卵や川の魚などで、なにもかもが質素だったのだ。
 ……もしかしたら、質素な生活を送っているからこそ、豪勢な食事を送りたい、という願いも心の奥底にはあるのかもしれない。だから、若者たち――俺たちは外に出たいと願うのかもしれない。
「長は待ってるのか?」
「伝言してから……五分ぐらいか。でも、長様は厳しいからな……。急がないと‘外に出られる’そのものがなしになるかもしれない。急いだほうがいい」
 分かった、と短く返事をし、俺は長のもとへと駆けて、少し経ったとき、
「おーい!」
 突然、リューエンの声が聞こえた。
 どうしたのか、と振り向くと、リューエンは両手を振りながらこういった。
「土産話よろしくなー! 必ず生きて帰ってこいよー!」
 いや――。
「帰ってくるに決まってるだろーっ!」
 リューエンの叫び声よりも大きく声を出し、俺は長のもとへと再び駆けて行った。

「……エトリアという小さな街から依頼がきている」
 俺と長の合間にたきびがある状況の中、長が呟くように言葉を吐いた。
 そうか、俺はこれからその街に行くんだな、と胸の中で呟く。
「我らハイランダーの力が必要だと」
 ……ハイランダーの力、か……。
 本当に、そんなものが俺の中にあるのか……?
 俺は考えているうちに頭を下げていたことに気づき、だが慌てることなくゆっくりと頭を上げた。
「危険な任務となるだろう」
 「だが」と強い口調で長が続ける。
「お前ならできると……信じている」
 長が太陽が沈みかかっている東を指差したので、俺も東の方向へと頭を向けた。
「行き先は、東の果て――エトリア」
 その地で全ての正義をなせ。
 長は東の方向を見つめたまま、そういった。

   ***

「おい!」
 急に声がかけられ、少しびっくりしてしまった。思い返しすぎたのだろう。いけないな。まるで老人さんみたいだよ、と自分で思った。
「きみの番だぞ!」
 一瞬、なにがですか? と問い返したくなったが、エトリアへと入る為の入国検査なのだと即座に理解した。
 そうか、と一人で呟いている途中、俺に叫んだ兵士が少女に「先に進んで」といっていた。少女は「お先〜」と俺に手を振る。「先に行くね」という意味なのだろう。
 前に進むと、兵士が手で俺を止めた。「きみも冒険者なのかね?」と質問してきたので、俺は一枚の丸めた羊皮紙を取り出して兵士に見せる。
「――! これは!」
 兵士が驚いた。それは同然だろうな、と思った。
「執政院の依頼者の……。確かに確認しました」
 羊皮紙をひとしきり見たあと、再び丸め俺に手渡した。
 そして、ハイランダーだと理解したのか、背筋を伸ばして態度を改めた。
「ようこそ、ハイランダー」
 ――すごいな。 
 だが、一般の冒険者と比べれば、俺のほうに態度を改めるのは、当然のことなのだろう。
「ここがエトリアの街です」
 兵士が「どうぞ」と、手で俺を案内してくれた。俺はその案内どおり門をくぐった。
 ――エトリア。
 この街で……外で、俺は生きれるんだ。
 わくわくする気持ちでいながら、俺は各エトリアの通りへと繋がるベルダの広場へと踏み立った。
 ピューイ、ピューイ、と、渡り鳥の鳴き声が、まるで追走曲(フーガ)のように聞こえてきたような気がした――。

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