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*4*
・ 依頼 ―地図をかけ― ・
初めて見た第一印象は、ずいぶんと立派な建物と人物だな、ということだった。
俺を出迎えてくれたのは、応接室だ。執政院の中には、さすがにハイランダーといえど入らせてくれないのだろう。
どうして、とも思うし、当然だな、とも思った。
見れば、少ないけれどもあちこちに冒険者たちがいた。冒険者たちだって中には入らせてくれないはず――だから、執政院の奥まで入ったら、何事かと噂や誤解をされてしまうのだろう。
……で、ずいぶんと立派な建物というのは、執政院のことだ。
銀色に統一されている大きな建物の奥には――正確には各部屋へと繋がる通路の壁――のび続ける樹の彫刻が彫られ、執政院のシンボルなのかと思う鬼のような、神様のような、そんな男の顔のだ円の金色彫刻が、樹の彫刻の上に飾られていた。
一方、人物のほうは――この人も立派に見えた。
門で見た男性のような明るい橙色の髪が、雑に見えてきれいに切りそろえられている。年が増えるにつれて小さくなったであろう瞳は、これまたきれいな青色だった。それに眼鏡がプラスされて、ますますきれいに見える。
「よく来てくれた、ハイランダーの青年よ。私の名前はオレルスという。以後、そう呼んでほしい」
男性が、任務を説明する前に自己紹介をしてくれた。へえ、オレルスっていうんだな。
「さて、そろそろ本題といこうか」
本題? と、俺は一瞬、オレルスの言葉を謎に思う。
――あ、そっか。任務のことか!
「きみ達の噂は過去に聞いていた。義を重んじ、正しき行いを尊ぶ者達だと。それに、槍使いが得意な一族としても名を馳せているらしい。……そんな一族だからこそ、依頼を出させてもらった」
「いやあ〜」
オレルスが苦笑した。なんでだろう、とも思ったが、俺が意味もなく照れたからだと分かった。
「この任務は、事が非常に重大――かつ、機密に属するものだ。だから、ハイランダーといえども全てを話す訳にはいかないし、一般の冒険者に話すのならばなおさらだ」
――そりゃそうだろうな。
‘執政院が奥の部屋へと行かせないのに、どうして機密に属することは話すのか’という事態になりかねない。
「その為――キミに……ハイランダーという者に噂どおりの力があるか、試させてもらいたい」
――え――。
「…………ふうん」
…………そうか。
ハイランダーには疑問があるということか。
――どうしてだ?
噂たりとも正確な噂だってあるだろうに。
……なんだか――。
「――ヤダ!」
「なに?」
少しびっくりしたようなオレルスの表情を見た。
それをみて内心、少し笑いそうになったが我慢する。
「噂だけで調査を依頼するのなら、とてつもなく強い冒険者に頼めばいいじゃないか。どうしてわざわざ俺に?
――一族を馬鹿にする真似だけは止めてもらいたい」
最後のセリフは、我ながら低く冷たい声だな、と思った。
オレルスは驚愕して、慌てて――とはいかないが頭を下げた。
「すまない。ハイランダーは一時期ではあったが戦争で活躍したと記録されていた。だからこそのきみたちへの依頼だった」
「それをつけたしてくれればよかったのにさー」
にこやかな笑顔でそういうと、「きみは晴れなのか雨なのか分からないな……」とオレルスが苦笑した。
晴れ? 雨? とも思ったが、その発言については問いつめないようにする。
「試させてもらいたい――といったね。その内容は、地図をかくことだ」
「地図?」
「ああ。この街に訪れる冒険者達は、全て世界樹の迷宮と呼ばれる樹海の迷宮の地図をかいていくんだ。それが内容だ。……迷宮の地図といっても、入ってすぐの一階の地図だけだ。しかし、一人だけでは不意の事態が起こると危うい――だから」
「私達――熟練の冒険者と共に行くこととなったのだ」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには二人の女性がいた。
紺色の長髪をながし、瞳は青の女性と、その女性よりも等身が低い橙色のセミロングと黄色い瞳の少女だった。
紺の髪の女性は、よくみると袴(はかま)を着ていた。胸辺りには防具をみにつけている。
橙色の髪の少女は、闇ともいえるような黒色のフード、衣をまとっていた。そんな少し陰気な見た目とは裏腹に、彼女の顔は、かわいらしい子供のようだった。
紺色の髪の女性が、俺を見て微笑んだ。
「私は‘ブシドー’のレン。――こっちが‘カースメーカー’のツスクルだ。よろしく頼むよ、ハイランダー」
どうやら、紺の髪の女性がレン、橙色の髪の少女がツスクルというらしい。
――へえ……。レンとツスクルねえ。
「頑張ろう、ツーコンビ〜♪」
と、俺が気軽に手を差し出すと、レンが「気さくなハイランダーなんだな……」と苦笑した。ツスクルが「そうね……」とうなずく。
そのあと、きゅっと温かい感触を覚えた。二人揃って手を握ってくれたのだ。
「頑張りましょう……」
ツスクルが、手を握ったあとにようやく微笑んでくれた。かわいいな。
「ああ! ……そういえば、俺だけ自己紹介してないな。オレルス! 俺も自己紹介しないと駄目か?」
「駄目とはいわないが、できればしてほしい」とオレルスがいった。
俺はにっこり笑って、レンとツスクルを見据える。
「俺は、ツバサ・フェリステナ! これからよろしくな!」
「ツバサか、覚えておこう。……さて、これから私達はきみのパーティの一員となる」
「もっとも、一時的にだがな」と付け足して、いった。
「共に世界樹の迷宮に入り、始めのミッションへ挑むとしよう。――では、行こうか」
「行きましょう……」
では、きみたち、頼んだよ。
オレルスの声をバックに、俺達は執政院をあとにした。
「待って」
ベルダの広場に戻ってきた頃、ツスクルがなにかを思い出したように俺を止めた。
「エトリアは冒険者の為の街。宿屋や商店を使えば助けになるわ」
ツスクルが青空を見つめながら「きれいね……」といって、続ける。
「冒険に必要な武具、防具、道具を買いたいときは‘シリカ商店’に。情報を求めるときは‘金鹿の酒場(こんろくのさかば)’に。休みたいときは‘長鳴鳥の宿(ながなきどりのやど)’に行くといい」
「そして」と続ける。
「冒険に挑むときは、街外れから樹海に入りなさい」
「ああ、分かった。ありがとう、スツクル!」
「……ツスクル」
にっこり笑顔でいうと、表情変えずにつっこまれた。