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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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10~ 20~ 30~ 40~

*5*

   ***

「なあ〜」
 後ろから、少年の声が聞こえた。
「まだ着かないのかよ〜」
 前を歩いている銀髪の青年に、少年が「疲れた」というようにいった。
 それに答えたのは、赤髪の女性だ。
「なにいってんの。着かなくて当然じゃない。まだ二十分しか経っていないのよ?」
「二十分もかかってんじゃんか〜」
 ハアッ……、と銀髪の青年がため息を吐いた。
「アーサー、いい加減にしろ。ラクーナも、僕も、疲れてるのは同じなんだぞ。子供のお前が弱音を吐いてどうする」
「だってよ〜」
「あー、確かにね。‘子供は風の子、炎の子’っていうもんね」
 また銀髪の青年がため息を吐いた。
「炎の子とはいわん。……だが、アーサーは確かに炎の子だな」
「え!?」
「あ〜。ムードメーカーとトラブルメーカーね、うんうん」
「はあ!? おい、どういう――」
 グウ〜
 少年が叫ぼうとしたとき、丁度いいタイミングで腹の虫が鳴いた。
「…………」
 少年が唖然として立ち尽くしている姿を見て、二人は心の奥底から湧き上がってきたとある感情を、口から出しそうになる。
 ――そして。
「「…………ぷっ」」
 とうとうそれは――笑いは――現実のものとなった。
 少年が怒ったように二人に向かって叫ぶ。
「あ! 笑った!」
「きゃー、バレたー! サイモン、逃げるわよーっ!」
「……おい、どういうことだ? ――うわっ!」
「ちょっ――逃げんな、サイモンッ! ラクーナッ!!」
 徐々に昼に似合う色に染まっていく空に、カラスの鳴き声が響き渡った。
 ――同時に、騒然としている三人の叫び声が響き渡った。

   ***

「――!」
 地図も無事にかき終わり、帰ろうとして階段へと向かっていたときだった。
 レンが右手を上げたのだ。
「……動いてる……」
 ツスクルが、どこか警戒しているように見えた……と思ったら、レンが俺に言い放った。
「……ツバサ、歩を止めろ。……嫌な予感がする」
 ザワザワザワッ!
 ――レンのセリフがいい終わったと同時に、周囲の木々がざわめき、数匹の渡り鳥が飛び立った。
 騒然とした雰囲気におおわれ――そして、地面がぐらつき始めた。
「……地震だ!」
 グラッ! グラグラグラッ……!
「うわおっ!?」
 そして、樹海全体が崩れるかという勢いで、激しい揺れが襲いかかる。
 グラ……グラリ……スゥッ……
 木々をなぎ倒さんばかりに揺れた地震は、何事もなかったかのように収まった。
 レンがため息を吐き、樹海を見渡しながら呟くようにいった。
「……最近、エトリアでは地震が多くてな」
 またため息を吐いて続ける。今度は安堵のため息だろうと思われた。
「さて、では地図を持ち帰るとしようか。きみに託される任務は、地震を越えて進む必要があるものだからな」
 ……そうだな。さっさと帰ろう!
 三人は、黙々と街まで帰っていった。
 樹海の茜色の空に、再び渡り鳥が帰ってきた。

・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・

「ありがとうな、ソール!」
「はい! ツバサさんも、お気をつけて!」
 俺は今、調査場所である遺跡の近くへと着いた。
 ――ちなみに馬車で案内してくれた兵士の名前は、ソール・ウィンドというらしい。
 元気が良い敬礼をして、ソールは馬車の中へと戻っていく。
 ――かわいいな。男だけどかわいいと思うよ、俺は。
「なに一人ごちってるんだか」
 ……さて、と。
 俺は周りを見回す。広い広い草原の北――俺から見て真正面に、延々と伸び続ける草木におおわれている建物を見つけた。
 きっとこれだ。遺跡というのは。
 俺はわくわくしながら、遺跡へと歩いて向かっていく。
 ああ、その前にだ。
 ――その前に、どうしてこうなっているかを説明しないと。
 地図をかいたあと、執政院で――。

   ***

「――では、我々は失礼しよう。壮健でな、ツバサ」
 レンとツスクルは、地図かきのサポートだけを任されていたみたいで――そりゃあ当然だと思うが――執政院で地図かきが終わったことを告げると、挨拶をして帰っていった。
「……それじゃあ、さよなら。しっかりね」
 その前に、オレルスに向かって、レンとツクスルが「力は不足ないだろう」とか「ツバサは……いい能力をもってるわ。すごく強い……」などをいっていた。
 褒められていたから、内心嬉しかった。
 二人が帰っていったあと、オレルスから報酬金、二百エンをもらった。
 それを見て、うわあ、少し少ない額だなあ、と思い、俺は苦笑してしまった。
 オレルスが不思議そうに見ているのをみて、俺は平然とした顔に戻す。
「……さて、彼女らの言葉を信じて、執政院はきみが冒険者としても十分な力量を備えた人物であることを認めよう」
「本題をさっさと話してくれよ〜」
 俺がむくれながらいうと、オレルスが苦笑した。
 ――当然だな。ああ、悪いことしたなあ。
「分かったよ」
 その次に微笑み、顔を整えて、オレルスは続けた。
「‘エトリアで起きている怪異。その原因を調査する’のがきみの役目だ」
 怪異? と質問すると、オレルスは一冊の本らしきものを持ってきた。
 見れば、‘エトリア時代録’という題名があった。多分、歴史をつづっているのだろうと思う。
「具体的には、頻発する地震の調査だ。……普通に考えれば、自然災害だと誰もが思うだろう」
 「だがね」と続ける。
「この地震に不安を覚えた我々は、独自に調査を進め、この揺れと関係がある不思議な遺跡を発見したんだ」
 オレルスが、持ってきた本を開いた。
「地震の怪異と、似たような事態が発生している時代があったんだ。それに、その時代に関係がある遺跡――‘グラズヘイム’というものがある。それは、今でも形を崩さずにいる」
 ああ、とうなずく。
「つまり、その遺跡を調査してほしいってことだろ?」
「そうだ」
「じゃあ、任せて――」
 俺の口を手で押さえ、オレルスがいった。
「だが、地震の発生の仕方がそっくりなんだ。遺跡から鳴り響く音……それが聞こえて数秒後、着実に地震が街を襲ってくるのだ」
「……ほー」
「我々も衛生を派遣したのだが、そこに住み着いた魔物たちに道を阻まれ、調査を進めることはできなかった……そこで、ハイランダーに依頼したのだ」
 ――魔物が住む遺跡を調査し、怪音の正体を暴き、街を襲う地震を止める役目をね。

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