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*35*
・ 安らかなるように ・
「……安らかなるように……」
――ん?
「…………安らか……に」
――もしかして!
「レン! ツスクル!」
――ここは、翠緑ノ樹海、三階。
細かくいうと、エルサとイルアナが死んでしまった場所だ。
ここを通ることになるために歩いていたのだが、俺がレンとツスクルを見つけたのだ。
――レンたちは、祈りをささげていた。
アーメンっていうのじゃない。ただの祈りだ。
まぶたを閉じて両手を組む祈り。
エルサたちが死んでしまった場所には、きれいな墓が作られていた。
「……ああ、きみたちか。ギルドを組んだのだな。……今、ハピネススターの一員が死んでいったという場所に祈りをささげていたところだ」
「エルサとイルアナという双子だったそうだな」とレン。その質問に俺はうなずく。
「……かわいそう。でも、命はもう取り戻せない……。人は、哀れむことしかできない……」
「または……」とツクスル。
「……怒りを覚えて、原因の元を倒したりという暴行しか……」
「人間は弱い生き物だからな。そうするのも自然だろう」
「ええ……だから、執政院はミッションを発動した……」
ツスクルが、再び祈りをささげる。
「ごめんね……こんなことしかできなくて」といっている様子が見れた。
「……私たちが、必ず倒すからね」
フレドリカが呟く。
うん……ありがとうなの、フレドリカ……。
「……!? 今、エルサの声が――」
ありがとう……フィカルナ、レン、ツスクル――。
「……イルアナの声も!」
「ああ――」
素敵なことだな。
俺は虚空に向けて、思いを口にした。
・ 雪狼の王者 ? ・
――叫び声が上がった。
それは、兵士のものだった。
そして、同時に狼のものでもあった。
リン……
軽やかで涼しい鈴の音。だが、冷たい音。
リィン……
その音色を聞いて、兵士が声を上げたのだ。
俺は立ちすくむ。みんな、同様だと思った。
「……ファル……ミラデ……」
「アーサー?」
アーサーだけは、不可思議な音律を口にする。
そして、その数秒後。レンの背後にいた少女が――。
「ファルミラデ……ラファシレカ……アンダリャロ……リカ……」
――アーサーの言葉と同じ言葉を口にしたのだ。
「なっ……!?」
「「空の下……凍りつく……獲物を食らう……」」
アルケミストの少年の顔色が悪くなっていく中、ツスクルは翻訳した言葉を口にしていく。
もちろん、アーサーもだった。
――アーサー、カースメーカーの素質あんのかな。
思った直後――狼の口から血がドバッと流れ出てきた。
「――!」
フレドリカの表情が強張る。
――当然、だな。あんな気持ち悪いのみたら。
「……アーサー……」
サイモンは曇った表情をうかべる。
「……これで、いいかしら」
「ふう」と安心のためいきを吐くツスクルに、アーサーが質問する。
「なあ、さっきのあれって……」
「……呪言(じゅげん)のこと? 特別なことはしてない。……それよりも、狼は耳や目はたいしてよくないけど、血の臭いにだけは敏感よ。貴方たちも……気をつけて」
レンが兵士に駆け寄る。
ツスクルもレンへと寄り、ツバサたちに向かって光る雫を振りまいた。
すると、体力や怪我が回復していくではないか。
「…………すっげえ」
アーサーが感心の声を漏らす。うん、ホントにすっごい。
「……ファルミラデ……空の下――」
直後、少年は地面に崩れ落ちてしまう。
サイモンが抱きかかえた。
「サンキュー」とアーサー。
「よかった」
それを聞き、サイモンが安堵の声を上げる。
「ああっ!」
「……兵士が、心配」
ツスクルが呟いた。レンが兵士を手当てしている様子を遠巻きにして見ていながら、また呟く。
「……だから、先に行って。あとで、追いかける……」
――嘘だな。
「試すなら、試すっていえ! 俺たちはカマキリに向かってダッシュしたパーティだ、簡単には死なないさ!」
「おうよ!」
アーサーも続いて声を上げた。
「俺たちだけで戦えるっつの!」
ツスクルが微笑む。
「……ええ、そうね」
――がんばって、フィカルナ。
そうカースメーカーの少女はいった。
俺たちは先に進み、安易に見つかった四階への階段を下りていく。
――目的を達成するために。