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貴女と言う名の花を
作者: 彼方  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ: 恋愛 
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10~ 20~ 30~

*19*

アイビーを退席させ、私は花言葉の本に手をかけ、考えていた。アイビーのあの、悲しげな笑みの意味はなんだろう、と。
……多分、本当はアイビーは答えを知っているんだと思う。それが悪い答えだから、悲しそうな目で笑ったのではないか。ということは、お父様は私のことを嫌っているのだろう。……でも、それはさほど傷付かない。お父様は、顔を思い出すのすらままならないほどだからだ。

問題は……、
「何故、嫌われてるのか、よね」
お父様とはほぼ会わないのに、何故嫌いになるんだろうか。ほぼ会わない人のことを嫌いになれるものだろうか。
私がこの部屋に閉じ込められている理由にも関係がある、ような気がする。そもそも、何故私はこの部屋に閉じ込められているんだろう。その疑問は、いつも感じているものだけれど、一向に答えが出ない。まるで、出口のない迷路に迷い込んだように。
私の存在は周りに知られてはいけない、私は何か病を患っていて外に出たら死んでしまう、そんな推論はいくらでも浮かぶ。でも、どれも何か違う気がする。分からない。本当に、分からない。
でも理由はどうあれ、私が外に出られないのに変わりはない。

____ああ、どうせこの部屋で生を終えるなら、どうせ何一つ生み出せないのなら、今すぐにでも死んでしまえたら。
楽しみだった、花言葉でのやり取りも、どうせ今日で終わってしまうんだろう。そしたら私は、どうしたらいい?何のために毎朝起きればいい?
……ああでも、ここで躊躇してても仕方がない。さっさと濃色の菊の花言葉を調べて、終わりにしてしまおう。どうせ、何処の誰ともわからないような人なんだ、構わないじゃない。
そう自分を誤魔化して、私は花言葉の本を開いた。

紙と指が擦れる音だけが響く。めくって、めくって……、見つけた。濃色の菊。
花言葉は____、
「私を、信頼してください……?」
____なんだ。私一人、勝手に悲観的になってただけだったんだ。「どうせ」なんて、本当に嫌になったのなら、そもそも花なんて置かないじゃないか。どうしてそのことに気が付かなかったんだろう。
安堵とともに、嬉しさが込み上げる。花一つ、置かれているだけなのに、私は随分と「彼」に救われている。「彼」はまるで、私は生きててもいい、と肯定してくれているようで。
きっと、「彼」は私を少しでも必要としてくれている。生きる意味なんてはっきり分からなくても、今はそれで充分だ。

____花を探そう。この感謝を伝えられるような花を。

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