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第一章 *シラー*
「アイビー、暇よ。何かして楽しませて」
私は執事であるアイビーを呼びつけ、無茶なことを言った。だって、本当に暇なのだ。部屋からは出られないから。何故部屋から出られないのかは私は知らない。ただ、部屋の外から鍵がかかっていて、自分からは出られないようになっている。
「何か、ですか」
私がそんな無茶なお願いをしても、アイビーは嫌な顔一つせずに、真剣に考え始めた。
「ここにある物語はほぼ読まれましたし、今は特に玩具は手元にありませんし。…………そうだ」
アイビーは突如何かを思い付いたようで、
「少しお待ちいただけますか。すぐ戻りますから」
と言って、部屋の外へ出て行った。
部屋の外、か。私は部屋の南側にある大きな窓を見て、ため息を吐いた。
外。それはどんな所なのだろうか。きっと、物語に出て来るような素敵なものがたくさんあるんだろう。
この部屋にある窓から見える、小さい空なんかじゃなく、一面真っ青な空が見てみたい。見上げても見上げても、どれぐらい高いか分からない空が。
「海」なんかも見てみたい。空よりずっと深い青色の、表現出来ないぐらい壮大な、水を湛えたものらしい。風に煽られて立つ白い波飛沫とかを見たい。
それから、「地平線」なんかも見てみたい。地面が見えなくなる所まで続いているような場所があって、空と地面の境界に出来る真っ直ぐな線らしい。
でもそれより。私はまた、ため息を吐いた。そんな風景なんかより。
「友達」とか「想い人」とかいう人が欲しい。誰かと他人以上の関係になってみたい。でも、それが不可能なことぐらいは分かっている。部屋から出られないから。
それを見兼ねたお父様が、前に何度か「友達候補」として私と同じぐらいの使用人を仕えさせたことがある。でもだめだった。三ヶ月も経たないうちに皆辞めていってしまう。
私が七歳ぐらいの時からは、専用の執事を付けてくれるようになった。
でも、その全ての人達を私は突っぱねた。だって、皆よそ行きの笑顔と態度で接してくるから。誰一人として必要以上近づこうとはしなかった。誰も使用人以上にはなり得なかった。皆、職務を淡々とこなしているだけだった。
アイビーは、そんな人達とは違い、よそ行きや愛想ではない、本当に優しい笑顔で接してくれるでも何故だろう、距離を置かれている気がする。意識的に執事以上にならないよう、気を付けている気がするのだ。悲しく感じて、そのことをアイビーに言うと、悲しげな瞳で笑うので、深い理由は聞かないが。
本当に欲しいものは、決して手に届かないところにあるものなんだろうか。
私の心の中にはいつも、よく分からない感情が巣食っている気がする。もやもやした、どこか空虚な感情。その感情をじっと見つめていると妙に哀しくなってくるから、いつも私は見ない振り。