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*27*
「通常の法が適用されないって......、一体、どういう......?」
私が呆然と呟くと、アイビーは自嘲気味に答えた。
「そのままの意味でございます。つまり、禁呪使用者に何をしたところで罰せられることは決してないのです。どうせ重罪人だ、殺しても拷問しても構わないだろう__、そういう考えがまかり通っていたのです。
そして僕は何をしても死ぬことは決してない、こんな便利な実験体、他に存在するでしょうか?」
実験体、という無機質で非情な言葉の響きに寒気がした。人をそんな風に扱うなんて__、許されるのだろうか。アイビーが国にどう扱われたのか、考えたくもない。飼い殺し、という言葉の意味も、深く考えたくはない。
「__禁呪、って何だか、聞いてもいいかしら......?」
控えめに私が訊くと、アイビーは「ええ」と微笑んだ。
「禁呪、というのはその名の通り、禁じられた呪術でございます。これを使用すれば、実現不可能なことを実現することができます。既に消滅したものを甦らせる、人の感情、行動や、天候、災害などを操るなど、それこそ何でも。ただし、それ相応の代償を払わねばなりません。
これをむやみやたらに使われては、世界の均衡が崩れるでしょう。なので、世界はこれを禁じたのです。これを使用した者には一切の法を適用しない、つまり人として扱わないぞ、と。禁呪が記された本は国で管理し、限られた者にしか閲覧が許可されません。
しかし、彼女......、アネモネはその驚異的な執念で禁呪の方法を突き止めました。国から禁呪が記された本を盗んだのかもしれません。アネモネが使用した禁呪は二つ。一つは、死者を甦らせるもの、もう一つは、他者の寿命を奪い、自分、あるいは自分の親しい者などの他者へ受け渡すものです。
アネモネが生贄として乳幼児を選んだのは恐らく、寿命が多く残っているからでしょう。そして僕は、望んでもいない千年の寿命を得ました。大き過ぎる代償と共に」
ふ、とアイビーが息を吐いた。
__とんでもない話だ。にわかには信じがたい。しかし、こうしてアイビーがいるのだから、信じる他ないだろう。それより、
「死者を甦らせる、ってどういうこと?アイビーはこうして生きているじゃない」
アリスティドとアイビーは赤の他人、アリスティドは亡くなった、というアイビーの言葉の意味がまだ理解出来ない。死者を甦らせるということはもしかして。
「......少し前に申し上げた通り、アリスティドと僕は全くの他人でございます。そしてアリスティドは既に亡くなっております。__殺されたのです。アネモネの手によって、婚約者と共に」
「殺された......?どうして、アネモネは貴方を愛していたんでしょう?」
理解ができずに私は尋ねた。だって、愛している相手をどうして殺せようか。
アイビーは暗い表情で答えた。
「正確には、彼女が愛していたのは僕の容姿です。恐らく、彼女は僕と相思相愛だと思い込んでいたので、許せなかったのでしょう。僕が他の女性と仲良くしているのが」
そんなの、普通じゃない。勝手に相思相愛だと思い込んで、他の異性と仲良くしたら嫉妬して、挙句の果てに殺してしまうなんて。
「狂ってるわ......」
私が思わず呟くと、アイビーは小さく吐き捨てた。
「まさに狂気の塊、でしょう」
アイビーの過去はあまりにも重すぎて、聞いているだけの私でも、容易には飲み込みきれなかった。