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第九章*ネリネ*
沈黙が部屋の中に流れた。何て言えばいいのか、全く分からなかったからだ。
アイビーはそれをどう捉えたのか、とても寂しそうに笑った。
「……ある意味では、僕の方がお嬢様の何倍も罪深い存在かもしれません。何故なら僕は、二十以上の将来を奪っておいて、それでもまだ何百年ものうのうと生きるのですから。お嬢様はご自身のことを生きる価値なんてないとおっしゃいましたが、それは僕の台詞でごさいます。……何のために、この先九百年以上も生きていくのでしょうね、僕は」
そんなことないわ、アイビーは罪深い存在なんかじゃないわ、自分を責めないで、アイビーが悪いんじゃないわ____、言いたいことは数あれど、上手く言葉にできない。
代わりに意趣返しとばかりにアイビーをぎゅっと抱きしめた。
「……貴方がこの先何のために生きればいいのか、それは私は答えることはできない。でも……、でもね、一つだけ確かに言えることがあるわ。
アイビーは生きてる価値のない人間なんかじゃないわ。だって、貴方と同じで私も、貴方がいたから今の私がいるんですもの」
アイビーは沈黙した。____いや、違う。
アイビーは、声を押し殺して泣いていた。アイビーの泣くところ、初めて見たかもしれない。
「ありがとっ、ございます、お嬢様……っ」
いつも優しく私を支えてくれるアイビーの弱い姿を見ていると、何故だかとても愛おしい気持ちになった。私にできることなんてないに等しいけれど、せめて抱きしめてあげよう。
やがてアイビーが顔を上げた時、私は笑って言った。
「アイビー、貴方、ずっとこんなことを誰にも言わずに一人で抱え込んでいたんじゃないの?自分を責め続けながら。私にぐらい全部言ってくれてもよかったのよ?」
アイビーは少し申し訳なさそうな顔をした。
「申し訳ございませんでした。僕の出自をお知りになったら、お嬢様は僕を嫌うのではないか、と心配だったのです。……それに、僕などが救いを求めてはいけないのでは、と」
「馬鹿ね。本当、馬鹿ね、アイビーは」
私がアイビーを嫌いになる訳がない。
例え、生まれた、いや生き返ったその瞬間に多くの将来を奪っていたとしても、私にとっては初めて私を受け入れてくれた、唯一無二の存在だから。
少し自分勝手かもしれないが、アイビーがどんな過去を持っていようが、アイビーがアイビーでいてくれるなら私はそれで構わないから。
抱きしめていたアイビーを離してそう伝えると、アイビーは一度目元を拭い、そしてふるっと笑った。まるで花が開いたようなとても綺麗な笑顔だった。
「……お嬢様には、救われっぱなしでございますね。何か、僕がして差し上げられたことはあるのでしょうか」
「勿論よ」
私もアイビーに笑い返した。